音楽ナタリー Power Push - TOKYO HEALTH CLUB

真面目に“フェイク”を追求するヒップホップクルー

リアルにはなれないから、フェイクを楽しくやりたい

──トラックの1990年代から2000年代前半の日本語ラップやドメスティックなR&Bのムードをアップデートするような趣向も意識的ですよね? リリックにおいてもSIKK-OさんのバースでBUDDHA BRANDと宇多田ヒカルのフレーズを同じラインで引用してたりしますけど。

宴会場を訪れ、コーヒー牛乳で一息つくTOKYO HEALTH CLUB。

TSUBAME そこは完全に意識的です。僕らのヒップホップに対する認識は、90年代から2000年代前半の日本のヒップホップがコアなんですよ。そのうえで今回はラップを引き立てようと思って、トラックはかなり音を削ぎ落としながら作りましたね。「MAD-ONNA」のトラックはJYAJIEがメインで作ってるんですけど、ああいうおしゃれな感じは僕には出せないんです。

──だから、作品全体に通底しているアーバンな趣も、東京のあとに「(笑)」が付く感じなのかなって。

TSUBAME いや、「東京(笑)」感があるのはJYAJIEだけなんですよ。彼は東京出身者なので。それ以外のメンバーは東京への憧れを本気で持っていて(笑)。JYAJIEは「グループ名にTOKYOとか入れるのダサいっしょ」って感じなんですけど、僕なんかは「TOKYOって入れるのカッコいいじゃん!」っていう感じで。

──ストリート感はあるんだけど、当事者ではなく傍観してる感じなんですよね。

ビールを注文し、乾杯するTOKYO HEALTH CLUB。

TSUBAME やっぱりその中には入れないんですよ。

SIKK-O どうがんばってもリアルにはなれないから、フェイクを楽しくやろうって感じですね。

──JYAJIEさんはリリックを書くうえでどんなことを意識していますか?

JYAJIE リリックの中身的な部分では、はっぴいえんどとか昔の細野晴臣さんの曲にあるような日本語の面白味を意識しています。

TSUBAME やっぱりおしゃれだなあ。こういう感じがないんですよ、僕ら地方人は。

SIKK-O 俺だって、はっぴいえんどは好きだよ。お前みたいに元ヤンじゃないし。

TSUBAME ふざけんな(笑)。俺だって小さい頃YMO聴いてたし、その影響もあって四つ打ちのトラック作ってたわ!

──不毛な言い争い(笑)。でも、THCが兼ね備えている模倣力と応用力はアカデミックにデザインを学んでいた影響もあるんだろうなって思います。

横になってリラックスするJYAJIE。

SIKK-O リリックのデッサン力はあると思いますね。

TSUBAME 簡単に言うと、緻密にコピれるんですよね。ここがこうなって、こういうふうに組み立てれば、こういうものが作れるという方法論を大学でアカデミックに勉強していたので。

SIKK-O 模写にしても、10人の模写を並べたらそれぞれタッチが違うじゃないですか。その差異が表現だと思うんですよね。そこを拡張していくことが一番大事だと思うんですよ。って言いながらそこまで深く考えてないんですけど(笑)。

音楽不況でうつむいてるオッサンに頼りたいとは誰も思わないですよね

──いや、核心を突いてると思いますね。最後にTSUBAMEさんに聞きたいのは、Manhattanと契約してもOMAKE CLUBは継続するし所属アーティストのサポートを引き続きしていくんですよね?

TSUBAME そうです。最初、OMAKE CLUBは自分たちのCDを出すためのプラットフォームを作ろうと思って始めたんですね。レーベルをやっていくうちにいろんなアーティストと出会って、自分がいいなと思う人にも声をかけていって、レーベルっぽい見え方がするようになっていって。所属アーティストがスタートラインに立つためにCDをどんどんリリースしていくというのが今のステージ。で、ここから3年後とか5年後に少しずつ世の中にアプローチしていければなと。エレクトロ界隈のシーンにいたときに若い子をフックアップする文化がそこにないように思えたんですよね。大御所たちはいるんだけど、若い子にはつながっていかないみたいな。

──なかなか新しい世代の席が空かないという。

東京健康センターに満足し家路につくTOKYO HEALTH CLUB。

TSUBAME そう。出てくる杭を打つみたいな、そういう環境にも見えて。当時21歳だったんですけど、そのときDEXPISTOLSが僕らみたいな若いやつらをフックアップしてくれたことに今でもすごく感謝していて。自分も大人になってレーベルでそういうことをやりたいなと思ったんです。あと、レーベルやクルーに対する憧れもずっとありました。

JYAJIE そもそも世話好きだしね。

TSUBAME 今回、Manhattanから声がかかって契約して、こういう事例を作っておいたらOMAKE CLUBにとっても面白いだろうなって思ったんですよ。Manhattanの前にいくつかお話をいただいたところもあったんですけど、それはOMAKE CLUBとほぼ同じような環境のレーベルで。「それだったら自分でできるので」ってお断りさせてもらって。そういう意味でもManhattanは別格だからこそ、面白いなと思って。

──冒頭の話の続きになりますけど、インパクトありますよね。

TSUBAME こんなユルいクルーがヒップホップの本格的なレーベルと契約できるというのは、OMAKE CLUBの子たちの刺激にもなるだろうし。

──結果的に、図らずもフックアップというヒップホップ精神を大切にしてますよね。

TSUBAME フッドを大切にしたいので(笑)。

──音楽不況がどうとか、CDが売れないとかもう散々言い尽くされて、誰もがそんな話を聞くのも飽きてると思うんです。その一方で、そういう状況を常態化した時代として受け止めつつ、自分たちはこうやって音楽を謳歌するという活動のあり方を示している若いアーティストはどんどん増えていると思うんですね。

TOKYO HEALTH CLUB

TSUBAME ホントにそうですよ。うつむいてるオッサンに頼りたいとは誰も思わないですよね。そんな人たちに先なんてないし、だったら自分たちでどうにかしようという気持ちで僕はレーベルを運営していて。THCのメンバーもみんな昼間の仕事をしているのもあって、「音楽で遊ぶ資金をほかで稼いで何が悪いの?」とも思うんですよね。お金があって楽しいことのクオリティが上がるなら、それはもう自分で稼いじゃえばいいって。

──あるいは物販を売りまくってもいいわけで。

TSUBAME そうそう。今の時代は音楽の価値を自分で下げることもできるし、上げることもできるじゃないですか。だからこそ、自由な時代だなって思うんですよ。レーベルの人間としては、OMAKE CLUBのアーティストたちにしっかりした対価を払っていけるようにしたいという思いがありますね。まだまだ下の子たちに還元できてないので、これからしっかりしたプラットフォームを作っていきたい。ビジネスもやりつつ、ミュージシャンとしてもいい感じに遊び続けられている人が自分の超カッコいい大人像なので。

──いろいろ楽しみですね、ここから。

SIKK-O まずはこのアルバムが2500円で売れるのか、売れないのか、そこも客観的に楽しみなところではあって。

TSUBAME たぶん、売れなくてもちょっと笑ってると思います。Manhattanは泣いてると思うんですけど(笑)。

SIKK-O 自分たちの100%を注いで作ったので。これで売れなかったら自分たちが時代とズレてるだけなんだなと(笑)。

ニューアルバム「VIBRATION」/ 2016年6月8日発売 / 2700円 / LEXCD-16009 / Lexington Co., Ltd / Manhattan Recordings
「VIBRATION」
収録曲
  1. ON -飛んでくLOVE-
  2. Vibration 弱
  3. ASA
  4. 天竺
  5. オシャレ ft. MCpero
  6. 悪魔
  7. 休日はHoliday
  8. MAD-ONNA ft. ZOMBIE-CHANG
  9. Last Summer
  10. ミューージック
  11. OFF -名盤ができた-
  12. ズラカル ft. MACKA-CHIN(YONIGE ver.)
TOKYO HEALTH CLUB(トーキョーヘルスクラブ)
TOKYO HEALTH CLUB

2010年に結成された、多摩美術大学の同級生であるTSUBAME(DJ)、SIKK-O(MC)、JYAJIE(MC)、DULLBOY(MC)からなるヒップホップグループ。TSUBAMEが主宰する著作権フリーのインターネットレーベル・OMAKE CLUBから2013年5月に1stアルバム「プレイ」を発表し、限定500枚を3カ月で完売させた。2014年には2ndアルバム「HEALTHY」のリード曲「CITYGIRL」が話題に。翌2015年には楽曲「ASA」がJ-WAVEスプリングキャンペーンのラジオCMジングルとして使用された。2016年にヒップホップ / R&Bの専門レーベルであるManhattan Recordsと契約し、6月にニューアルバム「VIBRATION」をリリースした。