ザ・クロマニヨンズ結成の立役者であるエンジニア・川口聡 メンバーとの出会いや音作りのこだわりを語る

ザ・クロマニヨンズが8月に始動させた6カ月連続シングルリリースプロジェクト「SIX KICKS ROCK&ROLL」に合わせて、音楽ナタリーでは6カ月連続特集「SIX TALKS ROCK&ROLL」を展開している。

第2弾となる今回は、9月29日にリリースされた第2弾シングル「光の魔人」のレビューに加えて、エンジニア・川口聡へのインタビューを掲載。川口はクロマニヨンズのアルバム全作のレコーディングを手がけるエンジニアであり、ザ・ハイロウズ解散後、甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(G)に小林勝(B)と桐田勝治(Dr)を紹介した人物でもある。インタビューでは、ヒロト&マーシーとの出会いや、2人にコビーと勝治を紹介した経緯を聞きつつ、クロマニヨンズ作品の音作りについて語ってもらった。

なお取材はクロマニヨンズのプライベートスタジオではなく、川口が普段利用している東京・中野のTSUBASA Studioで行った。

取材 / 森内淳撮影 / 前田立

ザ・クロマニヨンズ「光の魔人」ジャケット

第2弾シングル「光の魔人」レビュー
小野島大

6カ月連続でシングルをリリースする「SIX KICKS ROCK&ROLL」の第2弾。絶好調すぎるザ・クロマニヨンズのロックンロールが今回も炸裂している。

「光の魔人」ってなんだ? ウルトラマンが別称「光の巨人」と呼ばれることもあり、楽曲は特撮ヒーローもののような印象もあるが、一方でセクシャルなニュアンスもあって、彼ららしい暗喩表現がイマジネーションを広げる。The StoogesとThe Whoを掛け合わせてさらにパワーアップしたようなリフ主体の演奏が超強力で、「ランランラン」というコーラスがポップ。歌詞も含め、大音量で聴くとやたら元気が出る。ポジティブなエネルギーに満ちた痛快作だ。

カップリングの「ここにある」はRaspberriesの「Go All The Way」を思わせる豪快なギターリフでぐいぐい押しまくる力技のロックンロール。歌詞も「好きなんだ / ただ一つ / ここにある」の3つのフレーズを繰り返すだけの、いかにも作者の真島昌利らしいシンプルなものだが、それだけで彼らにしては長い3分半という時間を持たせてしまうのはバンドとしての充実ぶりの証左だ。もちろん「ここにある、ただひとつの好きなもの」は、聴く人それぞれが思い浮かべればいい。好きなことをそれぞれの場所で好きなようにやればいい、誰にも遠慮はいらない。そんなメッセージも伝わってくる作品だ。

川口聡インタビュー

ヒロト&マーシーとの出会い

──川口さんがエンジニアになるきっかけはなんだったんですか?

高校生の頃、オーディオブームというのが起こって、その流れの中でレコーディングエンジニアの仕事があることを知ったんです。それで専門学校に行って、その特別コースで吉野金次(はっぴいえんど、吉田美奈子、矢野顕子、沢田研二、矢沢永吉、中島みゆき、佐野元春らの作品を手がけるレコーディングエンジニア)に見つけてもらったんですよ。吉野さんと話をしているうちに「うちに来ないか?」ということになり、テイクワンスタジオに入りました。最初はアシスタントエンジニアで、ありとあらゆることをやりましたね。

──テイクワンスタジオで印象に残っているアーティストはいますか?

川口聡

印象に残ってるのは尾崎豊くんとか。「街路樹」(1988年発売のアルバム)ではアシスタントを担当しました。BOØWYとか岡村靖幸くんの作品にも関わったし、あの頃のテイクワンのものには僕がアシスタントで参加しているものがあります。

──ザ・ブルーハーツがデビューする頃ですね。

同じかちょっと前くらいですね。

──甲本ヒロトさん、真島昌利さんと出会うきっかけは?

あの当時、エンジニアの仕事は超過酷だったんですよ。当時はレコード会社の予算がイケイケの頃で、仕事がどんどん増えていってたので、ほぼ24時間、365日仕事をしているような感じだったんです。そのしわ寄せは全部エンジニアに来るので「もう辞めたいな」みたいな感じになってたんです。そうやってちょっとふわふわしてたときに、ブルーハーツの「BUST WASTE HIP」(1990年に発売された4枚目のアルバム)のデモテープを録る話が来て。

──それはどういう経緯で来たんですか?

ブルーハーツの元マネージャーがDEEP & BITES(1990年に結成されたロックバンド)も手がけていて、その録音を僕も一緒にやってたんですよ。DEEP & BITESのメンバーの山川のりをは、ヒロトが前にやってたザ・コーツのメンバーなわけです。それから吉野さんのところにいたときに篠原太郎くんを担当していたこともあったんですけど、彼とバンドメンバーはマーシーがやっていたTHE BREAKERSのメンバーだったし。そんなふうにブルーハーツにつながる流れはあったんですよね。確かブルーハーツの最初のセルフプロデュース作品が「BUST WASTE HIP」で、「同世代のエンジニアとやりたい」というリクエストがあったらしくて。そこで「ちょうどいい人がいるよ」っていうことで、僕がデモテープを録りに行ったんです。そしたら「あ、いいんじゃない」となって。お互いに認識したのはそこだったと思います。

録り方は30年以上変わってない

──そのときのレコーディングはどんな感じだったんですか?

ヒロトとマーシーもそうだったと思うんですけど、自分のやりたいことをほぼすべてやったという感じでしたね。誰かに何かを言われながらやるわけでもなく、最良だと思うことをやっていきました。

──川口さんとバンドが目指す音の方向が同じだったということですか?

そうかもしれないですね。とくに細かい話をした記憶もないんですよね。「せーの」で演奏して、それを録るという作業でした。だから、そのときから録り方は変わってないんですよ。

──30年以上変わってないってことですね(笑)。

そうです(笑)。やり方としては変わってないです。僕はスタジオから始まっているエンジニアなので、例えばクリックをどうするだとか、ブースに何を入れてどうするとか、ヘッドフォンを付けて……みたいなことは当然のようにやろうとするんだけど、そうしたやり方ではレコーディングができないというところが2人にはあって。「じゃあ転がし(モニター)でやれるんであればやりましょうよ。こっちは全然大丈夫ですよ」っていうやり方がハマったのかなとは思いますね。

──2人にとってみると、自分たちのやり方を受け入れてくれるエンジニアがいた、みたいな感じだったんでしょうね。

それでも一度はブースに入ってボーカルを録ろうとしたんですよ。ところがそれをやった途端に「なんじゃこれ?」みたいになるという(笑)。それはメンバー全員がそうでした。何かの楽器を隔離すると、みんなシュンとしちゃうというか(笑)。

川口聡

──スタジオライブのような録音方法は当時の川口さんにとって冒険だったんですか?

僕にとってもこのやり方が理想で、バンドだから隔離しないで生の演奏をライブっぽく録りたいっていう願望は僕の中にもあったんですよ。だけど、普通のレコーディングは隔離してきれいに録る作業じゃないですか。

──そうですね。それが常識というか。

「ロックバンドがそれをやるのはちょっと違うんじゃないかな?」というのはずっと思ってたんです。「そういうことができるロックバンドっていないんだろうか?」って。だから考え方がピッタリ合った感じですよね。スタジオでライブ録音できるんだったら一番理想だなっていうのはありました。「BUST WASTE HIP」をリマスタリングしたとき、監修で入ったんですけど「いい音してるな」と思いましたよ。「どうやって録ったんだろうな」って(笑)。

──そのやり方が現在のクロマニヨンズに至るまで変わってないっていうのが面白いですよね。

今もヒロトは(ブースには入らないで)ドラムの前で歌ってますからね。

ザ・クロマニヨンズ結成の経緯

──クロマニヨンズのリズム隊の2人を甲本さんと真島さんに紹介したのは川口さんなんですよね。

「天国うまれ」(2006年に発売された甲本ヒロトのソロデビューシングル)とか、あのへんの曲をヒロトがソロでレコーディングしないといけないときがあって。「ちょっと手伝ってくれない?」って連絡をもらってやり始めたんですけど、ギターはちゃんとしたものを入れたいということでマーシーを呼んだんですよ。それでやってるうちにだんだん楽しくなっちゃったんです。そのあと遊んでるうちに「じゃドラムもベースも入れよう」という話になったときに「高速で2バスで叩くドラムがいるんだけど、ちょっとやってみない?」と(桐田)勝治くんを紹介したんですよ。普段やらないような人の方が面白いんじゃないかと思ったんです。

──桐田さんはスラッシュメタルバンド・Gargoyleのメンバーだったんですよね。

最初のセッションのときに、何を思ったのか勝治くんがデモテープとは全然違う、最速のスピードで叩き始めたんですよ。それに2人が必死になって付いていって……マーシーが「君、いいね!」って(笑)。で、コビーくん(小林勝)は一緒にロンドンでレコーディングをやったことがあったんですけど、「ロックバンドのベーシストとして、この人が一番好きかも」と思うところがちょっとあって。なんかあったときには呼びたいなと昔から思ってたんです。それで、ひさしぶりに連絡して「ちょっとベースを弾いてみない?」って。ほかにも何人かとセッションをやってみたんですけど、勝治くんとコビーくんのインパクトがデカくて「一緒にやろう」っていうふうになったんです。バランスもよかったんですよね。勝治くんが突っ走る感じのドラマーで、そこに接着剤のようにコビーくんのベースがあって、それがうまく機能したんだと思います。

──確かにこの4人のバランスの上でしか出せないダイナミズムがありますよね。

ヒロトとマーシーはいきなりバーンとやって楽しめる人たちだから、リズム隊の2人がそこについていける技量を持っていたのが一番デカかったかなとは思います。例えば、曲を聴いた瞬間に勝治くんとコビーくんが解釈したものがその場でポンと出てくるんですよ。その瞬間に「あ、そうくるの?」っていうやり取りが自然にできて、いろんなことを口で説明するストレスがない。難しいことをやろうとしないスタンスが全員にあって、ドラムとベースがそこそこのことを自分らで勝手に作れちゃうというところがハマったのかなと思います。

──世代も1つ下ですからね。

だからうまく2人についていく感じがあって、そこもちょうどいいと思いますね。