音楽ナタリー Power Push - 焚吐

街から生まれた混沌の音楽

焚吐が新作CD「トーキョーカオス e.p.」をリリースした。本作は7月から8月にかけ、池袋P'PARCOで計60公演にわたって行われたアコースティックライブ「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を経て制作された。焚吐は今作でアレンジャーにNeru、ササノマリイ、カラスヤサボウを迎え、「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を通じて生まれたインスピレーションを4曲に反映している。今回のインタビューでは「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を振り返りつつ、シングルの各収録曲のコンセプト、7月に東京・Zirco Tokyoで行われた初のワンマンライブ「リアルライブ・カプセル Vol.0」や11月に東京・池袋 RUIDO K3で実施される単独公演「リアルライブ・カプセル Vol.1」について語ってもらった。

取材・文 / 高橋美穂

混沌とした街、池袋

──この夏は池袋P'PARCO入り口前のイベントスペースで、60本にも及ぶライブ「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を行いましたが、いかがでした?

もともと池袋にはなじみがあるので、お話をいただいたときはうれしかったです。ただ60公演は未知の領域で、2つ返事でOKはしましたけど、達成できるかどうかは想像できなかったです。しかも60公演すべてセットリストを変え、毎公演必ず初披露のカバー曲や新曲を用意することになって。1日3公演なので、準備もものすごく大変でした。

──今回の企画は、ご自身になじみのある池袋だからこそできたところもあるのでは?

大いにあると思います。「トーキョーカオス e.p.」もこのライブをきっかけに作ろうと決めました。

──「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を終えてから、自分なりに感じた変化やわかったことはありましたか?

焚吐(撮影:木場ヨシヒト)

路上でやるにあたっての流儀がわかりました。ライブハウスは音楽を聴きたい方が集まる場所ですけど、路上は音楽や僕に興味がない人もいて。そんな人たちに曲を聴いてもらうことが大切だと思ったので、カバーもきゃりーぱみゅぱみゅさんの「もんだいガール」とか、普段は歌わないような曲を選んだんです。でもやってみたら案外自然に歌えるっていう、新たな発見もあって。ライブを重ねるごとに順応していく力が付いて、そこは大きかったです。

──路上ライブでは素通りされることもありますよね。そんなときはショックを受けませんでしたか?

ほとんどの人が一瞥して通り過ぎていくので、最初は心が折れそうになりました。でもスタッフの助言や来てくださった方の意見を参考に、「こうすれば聴いてくれる」っていうやり方を覚えていきました。

──焚吐さんにとって、池袋はどんな街ですか?

同じ都会でも新宿や渋谷、銀座は建物や文化を作っていく設計図がもともとあった街、っていう印象があるんですね。でも池袋はその都度作りたいものを作っていくというか、混沌としているところが特徴だと思います。今回P’PARCOとタワーレコードのキャンペーンテーマ「TOKYO CHAOS」のイメージモデルに抜擢されたんですけど、「トーキョーカオス e.p.」というタイトルも、このキャンペーンからの影響で付けたものなんです。楽曲も、自分の中でカオスなもの、自分のいろんな面を引き出せるものを選びました。

──タイトルまで同じにするということは、相当得たものが大きかったんですね。

そうですね。そしてこの夏に得たものを1つの形にしたかったんです。

問いかけから先導へ

──「トーキョーカオス e.p.」の各楽曲に触れていきたいのですが、「僕は君のアジテーターじゃない」はNeruさんが作詞作曲と編曲を担当されています。Neruさんはこれまでの焚吐さんの楽曲に何度か参加してきただけあって、もうツーカーな仲になってきた感じでしょうか。

そうですね。もともとは僕がNeruさんの大ファンだったんですけど、Neruさんは僕の音楽性をとても理解してくださって。「僕は君のアジテーターじゃない」はアップテンポな曲っていう要望だけ伝えたんですけど、僕が歌ってしっくりくる楽曲に仕上げてくれて、ますます信頼が厚くなりました。

──レコーディングの際、Neruさんから何かアドバイスはありましたか?

池袋のタワーレコード限定でリリースしたCD「人生は名状し難い」で初めてタッグを組んだんですけど、そのレコーディングのときには歌い方のニュアンスはお話ししてくれたんです。今回は自分なりに解釈して歌ったものを聴いてもらったら、「ばっちり」と言ってくれました。

──「人生は名状し難い」と比べてみても、「僕は君のアジテーターじゃない」はかなりアグレッシブな歌い方をされていますよね。

今年の夏頃から「自分が歌う曲に生命力を吹き込んでいきたい」という気持ちが芽生えてきて、今回は感情的に歌ったんです。Neruさんの曲って、最近だと音符と音符の間に歌詞を詰めていて、疾走感を意識した楽曲が多いので、それを汲みたいとも思いました。

──生命力を吹き込んでいきたいという意識が生まれたのは、何かきっかけがあったんでしょうか。

デビューシングルの「オールカテゴライズ」ではたくさんの人が自分の声を評価してくれて、2ndシングル「ふたりの秒針」ではそれをより活かせるよう意識したんです。でもさらに高みを目指すことになったとき、声質だけじゃなく表現力を磨かないと成長できないと思って。時期的には「人生は名状し難い」のリリース前くらいから意識しはじめました。

──歌詞のテーマや描写方法も、さまざまに変化してきました。

作品を出すごとにすごく踏み込んでいるなっていう自覚はあります。「オールカテゴライズ」は自分が考えていることを周りに問いかける楽曲になっているんですけど、「ふたりの秒針」では初めて登場人物が2人になって、隣り合わせで光のほうへ向かっていくイメージが生まれたんです。今回は自分が先導してたくさんの人を引っ張っていく、前に自分が出ていくような感覚がありますね。

──曲調やテーマだけでなく、ビジュアルイメージも各リリースに合わせて変わってきましたよね。

今回の場合は「オールカテゴライズ」のシンプルさに折り合いをつけたかったんです。「ふたりの秒針」は僕自身が考えたモチーフやイメージで固めたんですけど、これからは自分の楽曲に命を宿して、それをエモーショナルに演じていきたくて。ごちゃごちゃしたビジュアルにならないように注意し、シンプルながらエグみがある映像や衣装を考えました。デビュー時のイメージでそのまま1、2年活動していくと思ったんですけど、デビューから1年も経ってない中で、ここまで自分の意識が変遷しているのには驚いています。

新作CD「トーキョーカオス e.p.」
2016年10月26日発売 / 1400円 / Being / JBCZ-4026
Amazon.co.jp
収録曲
  1. 僕は君のアジテーターじゃない
  2. クライマックス
  3. 四捨五入
  4. 人生は名状し難い(e.p. Ver.)
ライブ情報
リアルライブ・カプセル Vol.1
2016年11月4日(金)東京都 池袋 RUIDO K3
OPEN 18:30 / START 19:00
リアルライブ・カプセル Vol.2
2017年2月25日(土)大阪府 ヒルズパン工場
OPEN 17:00 / START 17:30
2017年2月26日(日)愛知県 ell.FITS ALL
OPEN 17:00 / START 17:30
2017年3月5日(日)東京都 WWW
OPEN 16:15 / START 17:00
「トーキョーカオス e.p.」リリース記念イベント “ニッポンカオス”
2016年10月26日(水)東京都 タワーレコード渋谷店
START 21:00
2016年10月28日(金)愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 店内イベントスペース
START 18:30
2016年10月29日(土)兵庫県 ミント神戸 2Fデッキ特設ステージ
START 13:00
2016年10月29日(土)大阪府 枚方 T-SITE 2Fオーディオスペース
START 16:30
2016年10月30日(日)東京都 タワーレコード池袋店 6Fイベントスペース
START 18:00
2016年12月3日(土)神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店
START 18:00
焚吐(タクト)

1997年2月20日生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。小学4年生でギターに目覚め、1年後にはオリジナル曲の制作をスタートさせた。2012年、ビーイング主催「トレジャーハント~ビーイングオーディション2012~」において審査特別賞を受賞。2015年12月にはシングル「オールカテゴライズ」でビーイングよりメジャーデビューを果たす。2016年5月には2ndシングル「ふたりの秒針」をリリース。表題曲はテレビアニメ「名探偵コナン」のエンディングテーマとして使用された。さらに同年7月から8月までの期間中には、P'PARCOで計60公演にわたるアコースティックライブ「ノンブレス・ノンリプレスライブ」を実施。10月にはNeru、ササノマリイ、カラスヤサボウをアレンジャーに迎えた新作CD「トーキョーカオス e.p.」を発表した。