ナタリー PowerPush - 高野健一
ファンを裏切り新たな世界を求め続けるpal@popと高野健一の10年
高野健一による初のベストアルバム「best@pop」がリリースされた。本作にはスマッシュヒットを記録した「さくら」を始め、「三陸産のウニに涙したい」「会いにゆきます feat.竹仲絵里」 など幅広い層に愛される計13曲を収録。高野健一の集大成とも言える内容となっている。
pal@pop名義でのデビューから10年を経て、今や“歌ものアーティスト”としての地位をも確立した高野。その音楽的な変遷について、インタビューで本音を語ってもらった。
取材・文／大山卓也 インタビュー撮影／平沼久奈
デビュー当時は今よりもサウンド重視でやっていた
──pal@popとしてデビューしてから10年が経ちましたが、ズバリどうでした？ この10年。
どうでしょうかね（笑）。でもやっぱり新しいものにどんどんチャレンジしてきた10年だったと思います。
──現在もpal@pop名義でHALCALIやフルカワミキなどのプロデュース、リミックスワークを手がけていますよね。
そういうものはpal@pop名義で、自分の歌は高野健一としてやっている感じですね。一時期は自分の歌に専念していたこともあったけど、別にpal@popを止めたつもりもなかったですし。
──pal@pop名義のみで活動していた頃と現在とでは、音楽に対するスタンスは変わりましたか？
まあ、興味のベクトルというか、作りたいもののベクトルが、やっぱりデビュー当時は今よりもサウンドに寄ってましたよね。チャッピーとかは特にサウンド重視的なスタンスでやってたし。 その頃、もうサウンドとかアレンジに関して、当時のポップスの枠組みの中でこれ以上はできないというところまで到達できたっていう自負はありました。「ここまでやったからもういいや」みたいな感じになっちゃったのは覚えてます、うん。それでもっと新しいことをやりたくなったんですよね。
──その後、自分で歌い始めることになるわけですね。
そうですね。
売れているポップスのつまらなさに憤っていた
──それにしてもサウンドに関して「もうこれで十分」と思える域までいけてしまうというのはすごいですね。
うーん、でも僕の場合は、地に足がついてないというか、バックグラウンドがないんですよ。例えばテクノやヒップホップだったらその枠組みの中で切磋琢磨して続けていけばいいんでしょう けど、僕はそういう感じではないのでいくらやってもいわゆる一流としては認められないと思ってるんですよね。
──じゃあ高野さんはポップスのフィールドでやっているという意識もない？
うん、ポップスという枠組み自体も僕の中ではしっくり来てなくて。自分の立ち位置っていうのがどこなのかはちょっとよくわからないですね。だから、単純にサウンド的なクオリティでいく と、多分ポップスのアレンジをやってる人よりも、CMの音楽を作っている人のほうが100倍センスがいいと思うんです。そういう人たちと勝負しようと思うと、どうしてもポップスからはかけ離れていってしまう。で、今は そんなことないですけど、やっぱり当時はポップスで、特に売れているもののアレンジとかサウンドのつまらなさには憤りを感じていたので。だから当時、自分の価値観で納得いくものは多分もうできてたっていうことだと思うんですよ。
──確かにpal@popは、当時からいわゆる音楽通の人たちの間での評価は非常に高くて。でも今、高野健一名義になってからはもっと大衆寄りというか、ベタな方向に変化している印象があります。
そうですね。意識的に切り替えていったっていうのはあります。なんていうのかな、自分の中で閉鎖的に考えたり作ったりしていてもやっぱりダメなんですよね。普通に友達とか、女の子とか としゃべっているスタンスで音楽を作らないと。言葉だけじゃなくて、サウンドの選び方とかも同じです。そこはやっぱり意識的に変えたところですね。
──なるほど。その結果として、今の高野さんの音楽は老若男女に広く聴かれるものになっていると思うんですが、最初からそういう音楽をやりたかったわけですか？
いや、そんなことはなかったですね（笑）。若いときはやっぱり、まったく誰も聴いたことがないような音楽を作りたいと思ってましたから。ただまあ、僕の中での向上心はさらに強まっては いるんですよ。やっぱり歌も突き詰めていくと奥深い世界なんで。だから今もすごく新鮮な気持ちでやってはいますけどね。
CD収録曲
- さくら
- 三陸産のウニに涙したい
- 君の一番の幸せが僕の一番の幸せであるように
- 祝婚歌（独唱）
- will
- いっぱい君を笑わせる
- 悲しみの終わりに泣いてもいいよ
- By Your Side
- Yes.
- 僕は君が好きが続いてゆく
- ゆかり
- 会いにゆきます feat. 竹仲絵里
- 君のことが大好きっす
高野健一（たかのけんいち）
1971年生まれ、東京出身の男性シンガーソングライター。高校卒業後に放浪生活を送り、ニューヨークやロンドンのメジャーレーベルに作品の売り込みなどを行っていた。1998年にpal@pop名義によるシングル「空想X」でデビュー。2000年には報道番組のテーマソング「Lover's Delight」を手がけ、話題を集めた。2005年に高野健一名義での1stミニアルバム「will」を発表。2007年春にはシングル「さくら」がスマッシュヒットを記録し、2009年3月には初のベストアルバム「best@pop」をリリース。ソロミュージシャンとして以外にも、サウンドクリエイターとしても高い評価を得ており、現在も幅広い分野で活躍中。
