音楽ナタリー PowerPush - スガシカオ

メジャー復帰でつかんだ確信

生き様が凝縮された生々しい歌詞

──今年5月にリリースしたメジャー復帰シングル「アストライド」は生き様を凝縮したような曲でしたよね。だからこそ、強く刺さる歌だったし。

あの曲も完成するまですごく大変だった。書かなきゃいけないことは頭の中にあるんだけど、「こんな変則的な曲にどう歌詞を乗せればいいんだ?」みたいな(笑)。

──フォークっぽさもありましたよね。

ボブ・ディラン的なね。もうちょっとアレンジを派手にすればよかったかなって思ってるんだけど。でもね、歌詞の面ではあの曲で書く内容はあれしかなかったんですよね。

──歌詞の面では「モノラルセカイ」もそこと地続きにある曲だと思います。

うん、そうですね。最初はライブで映える曲を作ろうと思って始まったんですよ。お客さんが盛り上がったり踊ったりできるわかりやすい曲がほしいなって。でも、アレンジはちょっとギラッともしてるっていう。メロディができて、アレンジも固まってきて「お、これはいい感じだな!」って思ったときに、やっぱり普通の歌詞を書きたくないって思ったんですよね(笑)。

──盛り上がりを重視するような歌詞ではないなと。

ただのパーティソングじゃつまんないなと思って。そしたら、生々しい歌詞がバーッて出てきちゃって。

──今はそっちの方向に筆を走らせれば澱みなく言葉が出てくるし。

そうですね。中2っぽいって言われるような言葉が(笑)。

──いやいや、そんなことない。トラックはイントロからフレンチエレクトロなども思わせるような趣もあって。洗練された高揚感のあるサウンドですよね。その上でメロディには盤石のポピュラリティがあるし、さらに今の日本のロックシーンにおけるフロア感にもフィットしていて。そこに生々しい歌詞が乗るコントラストがいいなと。

エレクトロも大好きなんで、こういう感じも自然に出てくる音で。最初に意識したニュアンスとしてはモータウンとか、1980年代のプリンスみたいな感じをもっと今風にやれたらなと思って。Maroon5みたいなのもありだなと思ったし。そこから「じゃあこんな感じはどうだろう?」って組み立てていったらこういう感じになったんですよ。このサウンドとこの歌詞ってホントは同居しないものを無理やり1つにしてる感じがあると思うんだけど(笑)、それが自分でも面白いなって思う。

──この曲はラブソングとしても捉えられるんだけど、それよりも人が力強く再生していく姿こそが歌詞の核心ですよね。閉塞感や孤独に苛まれていた人が、いかにそこから抜け出していくかっていう。

うん、今の自分だからこそこういう歌詞を、説得力をもって歌えると思うんですよね。ダメな日々が続いてるけど、もう少しがんばればうまくいくぞって──そういうことって独立してインディーズで活動する前の俺が歌ってもあまり説得力がなかったと思う。今はけっこう底辺を見てきたから(笑)。

これからは“核”を絞り込んでいく作業

──今回はセルフプロデュースということでいいんですか?

いや、今回はうちのバンドのギタリストである田中義人が共同アレンジャーとして参加してくれて。

──プログラミング部分とかどういうふうに構築してるんですか?

まず俺が最初にデモテープをバーッと作るんです。今回だったら「こんなフレーズで、こんな展開で」っていうのをポンと田中に投げるんですね。俺は断片的な知識しかないから、転調とかコードがぐちゃぐちゃになりがちなんですよ。「LIFE」のときも転調したはいいけど、戻ってこれなくなっちゃって(笑)。プロデュースしてくれた小林(武史)さんに「転調して戻れないから戻してください!」ってお願いして(笑)。

──小林さんには今後もプロデュースを依頼することがありそうですか?

スガシカオ

ありますね。今も新曲ができたら聴いてもらっていろいろアドバイスしてもらってるんですよ。小林さんには今年の1月にインディーズで出したアコースティックアルバム(「ACOUSTIC SOUL」)のときからアドバイスをいただいていて。「この曲はこの歌詞だと伝わらない」とかガンガン厳しいこと言うんですね。「歌詞のことで俺に文句を言うか!」みたいな感じもあったんだけど(笑)。

──あはははは(笑)。そこで戦ったりするんですか?

でも、歌詞のことで人に何か言われたこともないからたまには人の言うことを聞いてみるのもいいかなと思って。「LIFE」のときもすごく言われたしね。

──アドバイスを受け入れることでまた作家としての幅が広がるかもしれないという期待もある?

でもね、デビューからずっと幅を広げるだけ広げてきたので。それこそ曲もいっぱいあるし、バラードだけで2時間のライブを作れるし、ハードなファンクだけでも2時間のライブを作れるから。今はエレクトロなアプローチでライブもできるしね。なので、20周年に向けて「ここが俺の核なんだ」っていうところにグッとフォーカスを当てていこうと思ってます。11月から始まる次のツアーからそこを意識してやっていこうかなと。その核がなんなのかはまだ絞りきれてないんだけど。

──ちなみに、今、ファンクに関してはどういう位置付けなんですか?

ファンクそのものをやろうとは思ってないですね。昔からそうですけど、あんまりジャンルに強くこだわりすぎるとせっかくいい曲ができてもアレンジに縛りが出てきちゃうから。それはもったいないじゃないですか。もちろん、演奏してるときは常にファンクミュージックが自分の根っこにあることは意識してますけどね。自分の源流はそこにあるんだっていうことを。でも、いわゆるオールドスクールなファンクをやることには興味ないですね。そういうところも含めて、これから自分の核を見定めていこうと思ってます。

──曲作りは間断なく続けていくし。

そうですね。でも、ライブのあとってなかなか身体が制作のモードに戻らないんですよ。それがすごくつらくて。2カ月くらい戻らない。「ようやく戻ってきたな」って思うと次のツアーが始まっちゃったりとかして……(苦笑)。そこも課題かなあ。でも、自分が歌うべきこと、鳴らすべき音は必ずあるので。それをちゃんと体現したいと思います。

ニューシングル「モノラルセカイ」2014年10月22日発売 / 250円 / SPEEDSTAR RECORDS
レコチョク
収録曲
  1. モノラルセカイ
スガシカオ

1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューを果たした、日本を代表するファンクミュージシャン。1998年1月にリリースされたSMAPのシングル「夜空ノムコウ」で作詞を担当したことで多方面から大きな注目を浴びた。また、1999年7月には杏子、山崎まさよしと共に「福耳」を結成。ソロとはひと味違う魅力を見せる。2011年、長年在籍していたオフィスオーガスタを離れて独立し、自主レーベル「UGM」を設立。シングル「Re:you」「赤い実」、ミニアルバム「ACOUSTIC SOUL」といった作品を配信リリースする。2014年5月に両A面シングル「アストライド / LIFE」をSPEEDSTAR RECORDSより発表してメジャーに復帰。10月22日に「モノラルセカイ」を配信リリースし、11月4日から22日にかけて全国ツアー「Suga Shikao ~Next Round Tour 2014~」を開催する。