音楽ナタリー Power Push - Sugar's Campaign

友達から家族へ “バグ”から生まれた「ママゴト」

バグをどう発生させるか

──今おっしゃったバグというのは偶然のことですか?

Avec Avec そうです。今って、あたかも1個のゴールがあって、みんながそれに向かって最適化されていくような世界だと思うんですよね。AI(人工知能)とか市場経済もそう。音楽もそうなってるような感じがしていて。ウェルメイドで技術があって誰が聴いても気持ちいい音楽もいいんですけど、本当に長く聴かれて残っていくものって、実はバグから生まれてるものじゃないかなと思って。それをどうやって発生させるか。ここで家族の話に戻るんですけど、子供って本来そういうものだと思うんですよ。

──未来のポップスの価値について考えさせられる話ですね。ヘタしたらAIに作曲させれば一番気持ちいいコードをハジき出してくれるかもしれないわけですし。

Seiho

Seiho はい。あと卵子1個に対して精子の数はめちゃくちゃ多いじゃないですか。運命というものがあるなら1個と1個でいいわけで。そうじゃなく必然的にバグを発生させるように、神様は男には1億の精子を与えたと思うんです。だから子供は偶然生まれてくることになる。

Avec Avec だけど子供からしたら、親は決められない。この偶然と必然の関係が今回のテーマである「家族」の神秘みたいな。

Seiho 親は子供に対して責任を取らなきゃダメだけど、子供は自己責任じゃないんです。生まれてきた自己責任を取れって言われても、子供は取れない。その関係も書きたかった。

Avec Avec その運命を受け入れることが実はすごく大事なんじゃないかと思うんです。僕は弱い人間やから、やっぱり弱い人の味方になりたい。僕は家族について考える上でもそうで。貧しい家に生まれたってお金持ちの家に生まれたってそれは偶然で、無数の“あったかもしれない世界”が同時に存在していて、だからこそ今の世界が大切という。そういう現実を超えるものが大事。

Seiho 例えば、物語(フィクション)とかね。あったかもしれない世界を想像したり。

Avec Avec 手塚治虫先生の「火の鳥」とか、楳図かずお先生の「わたしは真悟」で描かれている世界のようなね。

Seiho Avec Avecは「火の鳥」方面やな。俺は「わたしは真悟」のほう。真悟はバグを発生させても貫ける信念があるから。僕は極端に強い人間なんで(笑)。自分が生きて来た道のほうが正しいって信じ込めるから、フィクションを楽しめる。そこが僕ら2人の違い。

──そうなんですね。

Seiho 実は「FRIENDS」で好きなことをやって、2ndの「ママゴト」はメジャー2作目だしちょっと売れ線を狙ったなと思われがちな音なんですけど、実際は逆で「FRIENDS」のほうが策略的だったんです。今回はそういうのをナシにして歌詞とかMVもテーマだけ伝えて、各クリエイターから返ってきたものを信頼する。そうやって自分たちの意図とは異なるバグを発生させた結果、いい現象が発生するのがシュガーズっぽいな、みたいな。

僕ら人間はバグらなダメ

──その意図を知らなくとも、気持ちよく聴ける曲がそろってますよね。

Seiho もちろんそれはポップスとして一番大事なことなんで。

Avec Avec 実は「猿」というのも今作のテーマの1つで。今、人工知能の研究に興味があって、キーワードの1つが「感情」なんです。猿、人間、人工知能と進化していく中で、感情とは何か? AIが感情を持つことはあるのか? そもそも猿に感情はあるのか?ってことの追求なんですけど。ここで言う感情が、つまり音楽のことなんですよ。ネアンデルタール人がコミュニケーションを取るときに言語ではなくて歌ってたらしくて。

Seiho うれしさを表すときも「うれしい」という限定された言葉がなかったから、歌とか音楽で表現していて、それが感じているうれしさを相手にそのまま伝えられる力があった。

Avec Avec わかりやすく言うと、ここで僕とSeihoが真面目な話をしていてもバックにコミカルな音楽が流れたらギャグじゃないですか? 逆にバカバカしい話しても感動的な音楽が流れたらシリアスに聴こえる。音楽は言葉が持っている意味を変えてしまうほどの“全体性の力”を持ってるんです。ここら辺の話は僕がすごく影響を受けたスティーヴン・ミズンの「歌うネアンデルタール-音楽と言語から見るヒトの進化」という本に詳しく書いてある話です。

──なるほど。

Avec Avec

Avec Avec 以前、テレビでボノボの子供に知能テストを受けさせる番組を観たんです。「これ持ってきて」って言うと、ちゃんと持ってくる。それは人間の言葉がわかっているように見えるんですけど、実はそうじゃなくて人間の言葉を言っても伝わらないときは伝わらない。で、どうやって理解しているのか調べたら、ボノボ特有の理解の仕方があって、ちょっとした目線とか場の空気ですべて判断して正解しているらしいんです。だから顔を遮断して言葉だけだと全然答えが違う。

──ボノボ、超空気読みですね!

Avec Avec そういうものを音楽が持っていたにも関わらず、僕ら人間は言葉を信じすぎて大事な感情の部分を疎かにしてしまった。

Seiho 例えばAIが音楽を作るようになったら、感情に訴えるような表現してくる可能性があるんです。目の動きとか、空気の温度、その人の心拍数まで全部わかるからそういうものを計算して。だからこそ僕ら人間はバグらなダメなんです(笑)。

Avec Avec そして言葉や技術じゃない部分で、AIを超えなきゃいけない。例えば「この音圧にしたい」と思って、そのための技術や方法論を確立させて、その標準に合わせていったりしますよね。そうやって1個のゴールに向かって、あたかも正解があるように向かっていくときにはバグって生まれにくいんです。それじゃ似たようなものばかりで面白くない。

Seiho で、シュガーズはそういうものを意識しながら、テーマを持って音を作る。

Avec Avec テーマは先行するけど、音の方向性は先行させないんです。

2ndアルバム「ママゴト」 / 2016年8月10日発売 / 2700円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64603
2ndアルバム「ママゴト」
収録曲
  1. ポテサラ
  2. ママゴト
  3. 週末のクリスタル
  4. いたみどめ
  5. ただいま。
  6. マリアージュ
  7. いつかの夢から連れだして
  8. HAPPY END
  9. 1987
  10. レストラン-熱帯猿-
  11. SWEET HOME

Sugar's Campaign単独公演「あしたの食卓」

2016年8月25日(木)大阪府 SUNHALL
2016年8月26日(金)東京都 UNIT
Sugar's Campaign(シュガーズキャンペーン)

Avec AvecことTakuma Hosokawaと、SeihoことSeiho Hayakawaの2人によるポップユニット。2011年に始動し、ゲストボーカルを招く形で活動している。2012年1月に「ネトカノ」を YouTube にて公開し、ネットやクラブ、インディーロック界隈など各所で話題になる。約2年半後の2014年8月にアナログ、9月にCDで「ネトカノ」を発売。11月に初の単独公演「ネトカノリリパ」を開催し、SPEEDSTAR RECORDSよりメジャーデビューすることを報告した。2015年1月にメジャー1stアルバム「FRIENDS」を発表。個々の活動と並行してSugar's Campaignとしてマイペースに活動を続け、2016年8月にニューアルバム「ママゴト」をリリースした。