音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善(SING LIKE TALKING)×atagi(Awesome City Club)×角舘健悟(Yogee New Waves)×高橋海(LUCKY TAPES)

佐藤竹善が新鋭“シティポップ”バンドに望むこと

4人それぞれのルーツ

──すごく根本的な質問ですけど、竹善さんがバンドを始めた理由を聞かせてもらえませんか?

佐藤 僕は、小学校までは演歌しか聴いてなくて。中学生になってThe Beatlesに出会ったんですね。その時点ではThe Beatlesは解散していたんですけど、同時にブレイクする前のオフコースや山下達郎のサウンドにハマって。そのうち自分もプロのミュージシャンになりたいと思うようになったんです。で、大学に入ってからフランク・シナトラやカウント・ベイシー、Steely Danなんかのサウンドを研究するようになりました。僕はもともとベーシストだったから、サウンドに関しては単なる歌の伴奏にはならないようなものにしたいという思いをずっと強く持ってますね。ここにいる3人のバンドからもそういう思いは強く感じます。話は逸れるけど、デビュー当時は全然お金がなくて、四畳半のアパートに住んでいて。でも自分が作るサウンドや歌は貧乏臭くならないように意識してましたね(笑)。

角舘 ああ、リアルな生活感を隠すみたいな(笑)。

atagi その気持はわかる気がする。僕も自分がコンプレックスに思ってることを曲に出したくなくて。自分のコンプレックスの反対側にあるものが曲の中でグーッと押し出されてるところがありますね。

角舘 atagiくんのルーツはどんな音楽なの?

高橋海(LUCKY TAPES)

高橋 気になる。

atagi 僕のルーツになっているのは、銀座のソウルバーで働いていた時期に聴いた音楽ですね。60年代から80年代にかけてのソウルミュージックをDJがお店で1日中流していて。銀座だから、それなりにお金を持ってる人が飲みながらソウルステップを踏んで踊っていて、その光景にカルチャーショックを受けたんですよね。あと、ソウルミュージックって実はこんなにリズムが重いんだと思って。最初はちょっと気色悪いとさえ思ったんです(笑)。ずっとブラックミュージックのリズム=タイトだと思っていたのが覆されて。それからどんどんソウルミュージックにハマっていきました。

佐藤 僕らの時代もソウルミュージックを聴くためにソウルバーで飲んでましたね。六本木にTEMPSというソウルバーがあって、僕もそこに一時期毎日のように飲みに行って、お金がないからDJと仲よくなって気に入ったレコードをカセットテープに録音してもらったりしてね。

角舘 そういうエピソード、すげえいいっすね。

佐藤 うん、いい時代だったなって思う。盛り上がるとみんな踊り出すんだけど、僕は踊ってる人を見ながらじっと曲を聴いてた(笑)。あと、来日したミュージシャンも店に遊びに来たりするんですよ。彼らと話してると、さっき話に出たリズムやグルーヴの重さってあくまで自然体で出ていることがよくわかるんですよね。いい意味で何も考えてない(笑)。そうやって曲だけではなく実際にその音を鳴らしている人とコミュニケーションをとることで実感することもありますよね。

角舘 なるほどなあ。僕はルーツがはっきりしてなくて。昔も今もカッコいいと思った音楽ならなんでも聴きたいと思ってるんですよね。その上で一番好きなのは松田聖子とか、昭和に流行した歌謡曲のメロディラインだったりします。あと当時の歌謡曲の歌詞で描かれている風景にすごく憧れを覚えるんです。最近はラグタイムや1940~50年代のアメリカのコーラスグループとか古い音楽を聴いてますね。

高橋 僕が最初に影響を受けたのはMTVで観た2000年代のUSのトップチャートに入ってたようなR&Bやヒップホップで。セブンスのコード感とかはそのあたりの音楽から学んだところがあります。今は自分がいいと思った音楽をジャンルに関係なく柔軟に受け入れて参考にしたいと思ってますね。

佐藤竹善(SING LIKE TALKING)

佐藤 やっぱりみんな、それぞれルーツをたどっていく縦軸と自分がいいと思ったらなんでも聴くという横軸を自然に両立させてるんだよね。僕もそこにすごく共感しますね。MTVといえば、当時「Walk This Way」のMVを観たときにAerosmithとRun DMCがまさにジャンルの壁を壊してくれたなと思って歓喜したんだけど、それと同時にこれから10年後にはDJがいるメタルバンドみたいなやつらがどんどん出てくるなと思ったんですよ。それを周りにいるレコード会社のスタッフや評論家に話したんだけど、「そんなことありえないでしょ」って笑われて。でもアメリカのヘヴィロックバンド勢がDJを従えて出てきたときに「ほら!」って思いましたよね。

角舘 結局、音楽を作ってる人たちのほうが音楽を売る人たちよりも文化の未来が見えてるところってあるんですかね。

佐藤 そうかもしれない。

atagi あと僕、バンドが意図していることをリスナーに伝えるのは難しいんだなって思うことがあって。

佐藤 それはどんなアーティストも必ず経験するし、一生続くことでもありますね。デビューして3年、5年は自分たちの精神力で乗りきれるんだけど、活動が8年、10年と続いていくと自分の精神力を持続するのも難しいし、当然ファンの人たちが離れていくこともある。自分自身も歳をとると、どうしても新しい物事に対する興味がなくなってしまうところもあるんだけど、その上でどれだけ常にアンテナを立てて「この音を、この歌を聴いてほしい」って提示できるかがすごく重要になってくる。

音楽家 or 音楽屋

角舘 竹善さんはかなり多作じゃないですか。ベテランのアーティストっていっぱい曲を作る人が多いイメージがあって。SING LIKE TALKINGのディスコグラフィーを見ると、シングルを30枚以上リリースしていて、ベスト盤も5枚組でリリースしていてすげえなと思って。自分の音楽人生を思ったときにそういう未来が全然見えないんですよね。

佐藤 いや、見えないほうがいいと思うよ(笑)。僕らの時代の感覚で言えば、メジャーレーベルから作品をリリースするのって契約社員みたいなもので。そういう環境に身を置いてプロとして音楽で生活していると「大衆性とファンのために」という大義名分がどんどん自分の中に入り込んでくる。でも若いときはそんなこと考えないじゃないですか。だからこそ、若いうちに曲をいっぱい作っておくことが大事だなって思うんだよね。

角舘健悟(Yogee New Waves)

角舘 例えばですけど、音楽人生の中で自分にとって最高の1曲を作りたいと思うのか、それともコンスタントに売れる曲を作るのかって、アーティスト的なのか作家的なのかというスタンスの違いにもなると思うんですけど。竹善さんはそのあたりはどう思ってますか?

佐藤 偉そうな言い方になるけど、自分は音楽家から音楽屋になったら終わりだなっていつも思ってる。一度でも自分自身が楽しめない音楽を作ってしまったら、そのギャップを埋めるのは大変な作業で。後輩でも仲間でもすごく売れてるけど精神的に幸福じゃない人をいっぱい知ってるんですね。世の中的にはすごく売れていて有名だけど、自分が本当に追求したい音楽を今さら作れないような立ち位置の人もいる。僕らは大スターにはならなかったけど(笑)、1日にご飯を食べる回数は基本的に3回というのは、年収が500万の人でも5億の人でも変わらないからね。それを思うと自分が楽しむ音楽を作り続けることを再優先すべきだと思ってます。寡作であるか、多作であるかというのはアーティストのタイプによって分かれますよね。フランク・ザッパのように60枚以上もアルバムを作る人もいれば、Steely Danのように打ち込みの時代になった瞬間に「俺たちの時代じゃない」と言って20年もアルバムを作らなかったバンドもいるわけで。自然に自分と向き合えば自分がどちらのタイプなのか答えは出ると思います。

──健悟くん自身はどうありたいんですか?

角舘 音楽家としてのスタンスをとりながら、音楽屋的な仕事もしてみたいという気持ちがありますね。自分のスタイルを確立した上で、いろんな音楽を作るのが夢です。

SING LIKE TALKING ニューシングル「Longing ~雨のRegret~」2015年10月7日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
「Longing ~雨のRegret~」 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [2CD] 2700円 / UPCH-7052~3 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1296円 / UPCH-5858 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Longing ~雨のRegret~
  2. The Ruins ~未来へ~
  3. Waltz♯4
初回限定盤BONUS CD収録曲
  1. Openig(INTRODUCTION~WALTZ#3)
  2. Ordinary
  3. Hold On
  4. How High The Moon ~ Together
  5. 無名の王 -A Wanderer's Story-
  6. 離れずに暖めて
  7. 祈り
  8. リンゴ追分 ~ La La La
  9. I'll Be Over You
  10. My Desire ~冬を越えて
SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリングス~
  • 大阪公演
    2015年10月11日(日)大阪府 オリックス劇場
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO OSAKA 06-6344-3326
  • 東京公演
    2015年10月12日(月・祝)東京都 昭和女子大学 人見記念講堂
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO TOKYO 03-3405-9999
SING LIKE TALKING ニューシングル発売記念 生出演スペシャルプログラム
SING LIKE TALKING(シングライクトーキング)

SING LIKE TALKING佐藤竹善(Vo, Key, G)を中心に藤田千章(Syn, Key)、西村智彦(G)の3人によって1982年に結成。同年プロデビューを目指して上京し、オーディションでのグランプリ受賞などを経て、1988年9月にシングル「Dancin' With Your Lies」でメジャーデビューを果たす。佐藤の透明感あふれる美しいハイトーンボイスとエバーグリーンで高品質な楽曲は、一般の音楽ファンだけでなく耳の肥えたリスナーも魅了。特に佐藤の圧倒的な歌唱力は同業者からも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたほか、小田和正や塩谷哲とはユニットも結成し活動を行った。2003年にアルバム「RENASCENCE」のリリースとそれに伴うツアーを行ってからは、バンド活動を休止。メンバーはそれぞれソロ活動や他アーティストのサポート、プロデューサーとして活躍してきた。2009年にイベントでひさしぶりにライブを行った後、再始動に向けて準備期間に突入。2011年3月にシングル「Dearest」、5月にアルバム「Empowerment」を立て続けにリリースし、本格復活を果たす。2015年10月にニューシングル「Longing ~雨のRegret~」をリリース。このシングルは2018年のデビュー30周年に向けたカウントアップライブ「Sing Like Talking Premium Live 27/30 –シング・ライク・ストリングス-」に向けて制作された、ストリングスをフィーチャーした作品となっている。

Awesome City Club(オーサムシティークラブ)

Awesome City Club「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップを“RISOKYO”から“TOKYO”に向けて発信する男女混成5人組バンド。2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo, G)、モリシー(G, Syn)、マツザカタクミ(B, Syn, Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo, Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。初期はCDを一切リリースせず、音源はすべてSoundcloudやYouTubeにアップし、早耳の音楽ファンの間で話題となる。ライブを中心に活動しており、海外アーティストのサポートアクトも多数。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル・CONNECTONE(コネクトーン)の第1弾新人アーティストとしてデビュー。4月にmabanuaプロデュースの1stアルバム「Awesome City Tracks」、9月に2ndアルバム「Awesome City Tracks 2」をリリースした。

Yogee New Waves(ヨギーニューウェーブス)

Yogee New Waves2013年6月に結成された「都会におけるPOPの進化」をテーマに活動する音楽集団。現在はKengo Kakudate(G, Vo)、Naoki Yazawa(B)、Tetsushi Maeda(Dr)の3人にサポートギタリストを入れた形で活動している。2014年4月に4曲入りの「CLIMAX NIGHT e.p.」を全国流通させ、9月に1stアルバム「PARAISO」を発表した。アルバムのリリースツアーでは全国8カ所を周り、ツアーファイナルの東京・TSUTAYA O-nest公演はソールドアウト。12月にはNew Action!と共催で新宿の3会場を使ったサーキットイベントを開催し、こちらもソールドアウトを記録している。

LUCKY TAPES(ラッキーテープス)

LUCKY TAPES高橋海(Vo, Key)、田口恵人(B)、濱田翼(Dr)、高橋健介(G, Syn)からなる4人組。結成直後に発表した5曲入りの作品「Peace and Magic」はわずか3カ月で完売し、2015年4月にデビューシングル「Touch!」をリリース。8月には得能直也をエンジニアに迎え、デビューアルバム「The SHOW」を発表した。