しばじゅんが15年も第一線にい続ける理由

──お二人には恋愛をテーマにした楽曲が多いという共通点があるように思います。中田さんから見て、柴田さんの歌詞はどんなふうに映っていますか？

中田　女性のリアルな心情を生々しく描いたものがすごく多いですよね。だから、男からすると「ひえー！ 怖い！」みたいな（笑）。でも、そこにキレイで癒しのある歌声が乗ってくるから、怖さがうまく中和されるところがあって。最終的にはめちゃめちゃ普遍性を持って聴き手に届いてくるんですよ。そのバランスがまさに天才だなって思うし、15年も第一線にい続ける理由だと思いますね。

柴田　私はね、才能がないんなら脱ぐしかないんだって思ったんですよ。

中田　え、あの、なんですか？ 脱ぐって？

柴田　そう。裸になるしかないなって。要は人には見せたくない部分、隠しておきたい部分を出すしかないなってあるとき思ったんですよ。それが恋愛におけるドロドロした感情だったんです。で、それをさらけ出すようになって、たくさん反応もいただけるようになったし、自分としても手応えを感じるようになって。いつしかそれが快感になってきたところがあるんです。

中田　ああ、なるほど。それはすごくわかりますよ、はい。

柴田　人間が一生懸命隠そうとしている感情を言い当てて、聴き手をギクッとさせることに達成感を感じるなんてね、私って性格悪いなってすごく思うんですけど（笑）。でも自分自身もそういった感情を曲にすることで解き放たれるというか、すごくラクになるところがあるので、どうしてもディープでドロドロした世界が多くなってはしまうんですよね。もちろん曲を聴いてくれた人がただただ不快になるようなものは書かないようにしようとは思ってるんですけど。

中田　単にドロドロしただけではないところが柴田さんの大きな魅力ですもんね。同じシンガーソングライターとして、曲を作ることでしか自分の感情を処理できないっていう感覚もすごくよくわかりますよ。その点、俺なんか病気ですから（笑）。常に曲書いてないとダメっていう。曲が書けない期間が1週間でもあると、それがすっごいストレスになる。

柴田　ええ、どうしよう。私、全然曲書いてないんだけど（笑）。

中田　あははは（笑）。いやそれは大丈夫ですよ。それぞれのペースがあるから。

柴田　私の場合、曲として感情を出すことが自分の心と対峙する作業になるので、それがけっこうツラいんですよね。心をほじくる作業になるから。だから締め切りという神様がやって来ないと曲を作らないんです。時間はあっても曲だけは作らないっていう。

中田　“曲だけは”って（笑）。

天上界の人は下に降りてきちゃダメ

──逆に柴田さんが思う中田さんの歌詞の魅力というと？

柴田　女性目線で歌詞を書くことですね。で、しかもそれを艶っぽい声で歌うから、なんかもうすごくエロスを感じるというか。女性が歌うよりも女性の感情をうまく伝えてくれているなって。そういう世界観を持った方ってほかにあまり知らないので、私はすごく惹かれるんですよね。

中田　ああうれしいですね。昔の歌謡曲にはけっこう多かったんですよ、女性目線の歌詞を男性が歌うものが。僕はちっちゃい頃から歌謡曲が好きで、今もテレビで特集があったりすると釘付けになって観たりしてますからね。

柴田　私も！

──そういったルーツにも共通点がありそうですよね。

中田　柴田さんの曲を聴いていると、歌謡曲のおいしいすべてのエッセンスが入ってるんですよ。このコード進行で来たら次はこう来るな、とか。数々の伝説の歌謡曲ディーヴァが歌ってきた決めフレーズを自分のものとして昇華している感じもするし。だから聴いていると気持ちいいポイントがやたら出てくるんですよね。m7♭5（マイナーセブンフラットファイブ）っていうコードがあって、それを使うと切なさが出るんですよ。ちょっとブルージーというかジャジーな雰囲気が出て。それを僕はすごく使うんですけど、柴田さんも多用されていて。

柴田　ん？

中田　え？（笑） 使ってるでしょ？

柴田　どのコードかわからないです。私はアレンジャーさんに曲をその場で弾いてお聴かせするんですよ。「いきまーす」って言って。だからその場でそのコードを弾いてるのかもしれないんですけど。

中田　そっか。コードの名前がどうこうじゃなくて、感覚でやってるんだ。すごいな。玉置（浩二）さんも安全地帯の最初の頃ってギター全然弾けなくて、鼻歌でメロディ作ってたって聞いたことがありますしね。やっぱり天才なんだなあ。柴田さんにはこのまま、コードの名前とか憶えないままでいてほしいですね。そんなの覚えちゃうと一般の人になっちゃうというか。天上界の人は下に降りてきちゃダメだと思う（笑）。

柴田　でもそういうの覚えたら、もっと作る曲のバリエーションが増えるんだろうなって思うんですよ。だから打ち込みを勉強しようかなとか思うんだけど。ズンズンチャッツ、ズズンチャッツみたいな。

中田　打ち込み？ だったら先にギターのコードを覚えましょうよ（笑）。

柴田　でも勉強大嫌いだからなあ。唯一勉強したのがブラインドタッチくらいで。

中田　そっちはできるんだ（笑）。

柴田　はい。暗闇でも打てます。音楽ももっともっと学ばないとなあ。