音楽ナタリー Power Push - RIP SLYME

10thアルバムに見るリップの現在形

DJ FUMIYAインタビュー

余計な音は入れない

──今回こちらのお願いでMC4人とFUMIYAさんに分けてお話を聞かせてもらうことにしたのですが、それは作曲する人と作詞する人では思っている以上に違う脳の使い方をしてるのでは、と改めて思ったからなんです。

そうですねえ。というか、俺は曲作りを全体的に見てるから、そういう部分で違うと思います。

──「10」の各曲のサウンドですが、今作もやはりバラエティ豊かで、キャッチーな曲もピリッと技が効かせてあって感嘆しました。

でもシンプルでしょ? 今回。スッキリしてるっていうか。

──はい。全体のコンセプトは設けずに作られたアルバムですが、ほぼすべての曲のコンポーザーでありサウンドプロデューサーであるFUMIYAさんの中で、個人的なテーマや課題はあったんでしょうか。

RIP SLYME

余計な音は入れないっていうことですね。パソコンで曲を作り始めると、音って無限に足せるんだけど、そうすると逆にすべてが薄まってくっていうか。オケはある程度シンプルで、音色1個1個にこだわらないとダメなんですよね。「最初のデモが一番よかった」という現象ってあるじゃないですか。「このシンプルな感じがよかったのに、どこで気合い入ってこんなんなっちゃったんだ?」みたいなことをなくそうっていう気持ちはありましたね。「もうこれでいいや、音入れない」っていうタイミングを見極めるというか。

──経験や技術を身に付けたがゆえの課題と言えそうですね。

そうですね。あと、長くやってるとテクニックもついてきて「ここをこうやればこうなる」っていう答えが自分でもわかるから、正解に置きにいくこともできるんですよ。それをやめるっていうのも頭にあった。「FIVE」の頃なんかはMPCだけで作ってるから嫌でもシンプルになるんだけど、だから隙間があって1個1個の音が立ってるんだよなとか、その頃の気持ちを大切にしないとやっぱりダメだなあと思ったんですよね。あの頃みたいな音を作るってわけじゃなくて、考え方とか気持ちの面で。だからみんなのラップも、何回も録ればいいってわけじゃない気がするし。本当は1、2回やって本チャンを録ったほうがフレッシュなものが録れる気がする。

──そうやって過去のアルバムを聴き返すことってあるんですか?

めったに聴かないけど、酒飲んでベロベロに酔っ払って聴いてみることはありますよ。「やっぱいい音してんなーこんな音数少ないのに」とか、立ち返ることはある。「これでいいんだよね」って。

──実際、機材の量ってどんどん増えていってます?

増えてるし、やっぱ欲しくなっちゃうんだけど、最近は止めるようにしてる。今回も本当はMPCに戻そうかなって思ったんだけど、さすがにそれはできないって思って(笑)。

──取捨選択して、本当に必要な音だけにしたと。

そうそう。メインになる音を決めて、メインを支えるような音作りしなきゃっていうのが本来の考え方で、隙間にどんどん音を入れてくと一番聴かせたかった音が見えなくなっていくっていうか、個性がなくなるから。逆に音色を探すのにはすごい時間をかけました。

4人に「できる?」って投げかけてる感じ

──ノーザンソウルをイメージしたという「ピース」から、近年普及したダンスミュージックの新ジャンル・ジャージークラブの要素を取り入れた「JUMP」まで、もはや半世紀近くの幅広い年代の音楽がFUMIYAさん流にデフォルメされて1枚に収まっているのはやっぱりすごいですね。

そのとき自分が作りたい曲とか、自分の中の流行りがバラバラなんですよね。その中で作った何十曲のデモから引っ張ってきてるから、いつも通りなんだけどグチャグチャっていうか。これでも曲順でなんとなく色分けするようにがんばったんですよ。例えば「いつまでも」から「青空」「TIDE」は気持ちよくメロウな感じ、そのあとの「Happy Hour」「JUMP with chay」「Vibeman feat.在日ファンク」あたりはサンプリング的な質感、とか。で、最後は切ない感じで締める。

──なるほど、そうですね。

好みが日によって違うこともしょっちゅうあって。寝る前に聴いてたのがテクノで、何か思いついたら、今作ってる曲を止めてでもそっちに取りかかったりするんです。ガレージロックみたいなトラックを作ったり、レゲエっぽいのを作ったりするけど、やってる途中からもうテクノの曲が作りたくてしょうがなくなってきて(笑)。

──そのように時代もジャンルもバラバラなトラックを最終的には“RIP SLYMEの曲”として落とし込むわけですが、それにあたって何か意識はするんですか?

むしろ4人に「できる?」って投げかけてる感じですね。でも結局あの4人の声が乗っかったらリップの曲になるから、(4人は)怒るかもしれないけど遊んでるっていうか。「これ、できるかなあ」っていう気持ちで渡すと「難しい」とか言いながらもやってくれるし、それが楽しさの1つではあるんですよね。BPM180くらいのドラムンベースみたいな曲のあと、すぐに90くらいの遅い曲を渡したり、毎回メチャクチャだから(笑)。

──それほど開きがあるのって珍しいことなんですかね?

うーん。ラップグループで、ラップする人がオケを作るグループではあんまりないと思う。ラップしやすいオケとかBPM帯があるはずだから、絶対そっちに寄ると思います。トラックメーカーが別だとこういうふうになる場合もあるかもしれない。でも1回、かっちりコンセプト決めてやってみたい気もするなあ。例えば全部ヒップホップのトラックにしようとか、全部四つ打ちにしようとか。時間があればチャレンジはしてみたい。

10thアルバム「10」2015年9月30日発売 / unBORDE
3240円 / WPCL-12240 / Amazon.co.jp
初回プレス盤
通常盤
収録曲
  1. Powers of Ten
  2. ピース
  3. POPCORN NANCY(Album ver.)
  4. KINGDOM
  5. だいたいQuantize
  6. いつまでも
  7. 青空
  8. 気持ちいい for Men
  9. TIDE
  10. Happy Hour
  11. JUMP with chay
  12. Vibeman feat.在日ファンク
  13. メトロポリス
  14. この道を行こう
  15. 時のひとひら
RIP SLYME(リップスライム)

RIP SLYMERYO-Z、ILMARI、PES、SU、DJ FUMIYAからなる4MC&1DJヒップホップユニット。1994年に結成され、2001年3月にシングル「STEPPER'S DELIGHT」でメジャーデビュー。その後2ndアルバム「TOKYO CLASSIC」がミリオンヒットを記録する。さらに国内のヒップホップユニットとして初めての日本武道館ワンマンライブを行い、日本にヒップホップ文化を広く浸透させた。2010年には、メジャーデビュー10年目を記念しベストアルバム「GOOD TIMES」とカップリングベストアルバム「BAD TIMES」を発表。2015年9月には通算10枚目のオリジナルアルバム「10」をリリースした。