ナタリー PowerPush - RHYMESTER

混迷の日本に告ぐ「選ぶのはキミだ」

RHYMESTERの1年9カ月ぶりとなるシングル「The Choice Is Yours」。この表題曲はIllicit Tsuboiをプロデューサーに迎え、JACKSON SISTERSの代表曲としても知られるマーク・キャパニの「I Believe In Miracles」を引用したナンバーだ。ダンサブルでキャッチーな曲調とは裏腹に、リリックでは問題の絶えない現代社会に向かって「誰が敵 そして誰がフレンド 誰が悪魔 そして誰が聖人」「選ぶのはキミだ」という力強いメッセージが投げかけられている。

今回ナタリーでは、宇多丸、Mummy-D、DJ JINの3人に初のインタビューを敢行。今作のプロデュースを担ったIllicit Tsuboiとのエピソードやリリックの真意、さらにはヒップホップシーンにおける現在のRHYMESTERの立ち位置を語ってもらった。

取材・文 / 鳴田麻未 インタビュー撮影 / 高田梓

Tsuboiくんは意図的に事故が起こせる人

──「The Choice Is Yours」について、まず“Illicit Tsuboiプロデュース”というトピックから訊かせてください。RHYMESTERはアルバム「マニフェスト」以降、楽曲ごとにさまざまなプロデューサーを起用していますが、今回のTsuboiさんはどんな経緯で決まったんですか?

Mummy-D 次のアルバムはどんな方向にしようかって話してるとき、なんとなく今回はヒップホップのラフな部分、音的には結構ラグドで汚い感じを押し出していこうっていうことになったんだよね。90年代のザラザラしたヒップホップというか、今みたいにハイファイでパキッとしてない感じ。それはちょっとチャレンジングっていうか、時代に逆行してるような部分もあって、ヘタすると人気のないアルバムになる恐れがある(笑)。だけど、自分たちの本当に好きなヒップホップを追求しようって結論になって、最初に名前が挙がったのがTsuboiくんだったんです。

──近年のRHYMESTERの楽曲プロデューサーは、BACHLOGIC、DJ Mitsu the Beats(GAGLE)、DJ HASEBE、DJ Wataraiなど、スタイリッシュで“今っぽい音”を作れる方が多かったなという印象なんですけど、Tsuboiさんはそれと対極とも言えるポジションにいますよね。

Mummy-D そうだね。簡単に言うとローファイってことだね。

DJ JIN 今回Tsuboiくんに頼んだのは、サンプリングミュージックっていうのも大きいよね。楽譜とか音符には表現できない、ヒップホップの得体の知れない力みたいなものを共有したかったから。

──彼と制作を共にしていかがでした?

Mummy-D あの人、狂ってるよね。

──(笑)。どういうことですか?

Mummy-D

Mummy-D Tsuboiくんはね、静かに、安定して気が狂ってる。俺らがかっちりした曲を作って持っていっても、ちゃんと狂ったものになる。ヒップホップのどこらへんがおかしいのかを、きっちり理解できてる人なの。直感だけでやってるのとはちょっと違うと思うんだよね。だからこっちも安心できるというか。

──ちゃんと理解しつつ狂ってると。

Mummy-D 意図的に事故が起こせる人なんだよね。だから俺らも最初にコンセプトは言ったけど「自由に事故ってください」って感じだったし、「それはちょっとやり過ぎじゃない?」っていう部分を多少修正してもTsuboiくんの根っこがものすごく事故ってるから、しっかりおかしい、みたいなね。

──そういう彼のプロダクトと、RHYMESTERのやり方は感覚が合っていた?

Mummy-D うん。基本的に同じ時代のヒップホップを聴いて育ってきてるしね。最初にTsuboiくんから6曲くらい入ったデモをもらったんだけど、それを聴いて「やっぱりおんなじものが好きなんだな」って感じた。そのアウトプットの仕方が、俺らはもう少しかっちりしてるけど。

宇多丸 確かに俺ら、どうしても理詰めで考えちゃうっていう部分はあって。その良さも当然あると思うんだけど、Tsuboiくんはそこに不条理を持ち込んでくれたっていうか、ちゃんとカオスにしてくれた。理屈の外側にカオスがあるっていうのかな。だから今回やろうとしているバランスにベストな人選だったなって思います。

──今回やろうとしているバランスって?

宇多丸 メッセージとして出した「混沌とした時代の中でどう生きるべきか」ってことを、音でもカオス感で表現してくれたっていうか。サンプリングだから懐古的なヒップホップってことじゃなくて、あっちこっちでいろんな音が鳴っていて、こんなミックス聴いたことないっていう音像になってるので、よくよく聴いてみてほしいです。

ニューシングル「The Choice Is Yours」 / 2012年8月22日発売 / Ki/oon Music

CD収録曲
  1. The Choice Is Yours
  2. The Choice Is Yours -Instrumental-
  3. The Choice Is Yours -Acapella-
通常盤DVD収録内容
  • The Choice Is Yours -Music Video-(副音声付き)
RHYMESTER(らいむすたー)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」リリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動再開を果たして以降、精力的に作品リリースおよびライブ活動を行っている。