ナタリー PowerPush - RHYMESTER

混迷の現在を描いた渾身のヒップホップアルバム

Illicit Tsuboiのデモがアルバムの骨格を作った

──今回のアルバムではThe Anticipation Illicit Tsuboiさんプロデュースの楽曲が非常に多いですね。

Mummy-D 「ダーティなヒップホップ」っていうテーマが最初にあったから、そういう音ができる人にトラックをお願いしようってことで、まずツボイくんに発注したんです。そしたら8曲入りのデモ音源をくれたんだけど、それがまたツボイワールド全開の内容で。8曲が全部つながってて1曲になってるんだよ(笑)。

DJ JIN あれは完全に狂ってたよね(笑)。

──昨年夏にリリースした「The Choice is Yours」もその8曲の中から?

Mummy-D うん。結果的にそのデモの中から5曲を採用したんですけど、「The Choice is Yours」が最初にできて、次が「ゆめのしま」だったんだよ。その時点で「『ゆめのしま』で始まって『The Choice is Yours』で終わるアルバムにしよう」っていうアルバムの骨格みたいなものがぼんやりと見えたんだ。

宇多丸 曲順は毎回すごくモメるとこなんですけど、今回は本当にすぐに決まりましたね。デモトラックをもらった時点で、ほぼ決まってたと言っていいくらい。

──ツボイさんのデモの影響がそれだけ大きかったんですね。

Mummy-D そうだね。

宇多丸

宇多丸 ツボイくんが作ってきたデモにストーリーがあったから、アルバム全体の構造を頭に入れながら制作することができたというか。あと先行して出した「The Choice is Yours」の反応がすごく良かったから、この曲をアルバムのオチに持ってくれば、絶対的なカタルシスが生まれるという確信というか、自信もあって。

──ちなみに本作ではツボイさんの名義が曲によって微妙に違うんですが……。

Mummy-D それはどうやら本人のモードの違いらしい(笑)。5曲目の「ダーティーサイエンス」はThe Anticipation "Mad" Illicit Tsuboi名義なんだけど、本人曰く「今まで"Mad"名義の曲は2つくらいしかない」らしい(笑)。

宇多丸 「ファンの中には"Mad"名義の曲しか聴かないって人もいるんですよー」とも言ってたね(笑)。

ダブルミーニングを使って人を勇気づけるような曲にしたかった

──「ゆめのしま」は、どのように制作されたのですか?

Mummy-D

Mummy-D この曲ではまず「今の日本を歌う」っていうのがあったんですよ。

──「ゆめのしま」というのは、ゴミの埋め立て地「夢の島」とのダブルミーニングですよね?

Mummy-D うん。「夢」って言葉にはいい意味も悪い意味もあるじゃない? 例えば、「夢を忘れないで」っていうときの「夢」は希望を指すけど、「あれは夢だったね」っていうときの「夢」はネガティブな意味での幻想を指すよね。それがいまの日本の状況にも通じるなって思ったんだよ。「ゆめのしま」って言葉の語感はいいけど、実際は江東区にあるゴミの島なわけじゃん(笑)。

──はい。

Mummy-D シミったれた感じは嫌だったから、そういうダブルミーニングを使ってちょっとでも人を勇気づけるような内容にしたかったの。結構大変な状況でも、言葉によって意外と気分が変わったり、なぜか希望があるような気がしてくることがある。そういう言葉の力みたいなものに、最近やっと目覚めたんだよね。

もっとも苦労した楽曲「ダーティーサイエンス」

──アルバムタイトルにもなっている「ダーティーサイエンス」ですが、この曲は「ヒップホップ賛歌」ともいうべき熱い内容ですね。

宇多丸 実は、最初にDが書いた歌詞は全然違う内容だったんですよ。

Mummy-D そうだね、この曲は何度もやり直したよ。3回くらいトライしたかな。

宇多丸 とにかく、この「ダーティーサイエンス」っていうアルバムコンセプトにたどり着くまで大変だったんです。

Mummy-D アルバムのタイトルが「ダーティーサイエンス」になるって決まったあとに、「じゃあ、(この曲は)このコンセプトでやってみようか」って。

──「粗暴なのにインテリジェンスがあるヒップホップ」というコンセプトで。

宇多丸 そう。それでDが1バース目でヒップホップのサウンドについて歌ったから、俺は次のバースでヒップホップのリリックについて歌ったという。

Mummy-D そしたら、誰もお願いしてないのに最後に大変なスクラッチが付いたんですよ(笑)。

宇多丸 プログレのような展開のね(笑)。

──あの1分30秒におよぶスクラッチはJINさんが?

DJ JIN いや、ツボイくんなんです(笑)。

宇多丸 本当は最後のバースが終わったら、すぐ終わっちゃう曲だったんですよ。でもツボイくんが「これ、アルバムのタイトル曲なんでしょ? じゃあ……」って。"Mad"の要素が入ってきた(笑)。

Mummy-D できあがりを聴いて、本当にびっくりしたよ(笑)。

宇多丸 ぶっ飛んだな。

DJ JIN 彼は昔DJバトルに出場してたようなスクラッチスキルの持ち主なんです。

ニューアルバム「ダーティーサイエンス」/ 2013年1月30日発売 / Ki/oon Music
初回限定盤 [CD+DVD] / 3360円 / KSCL-2194~2195
通常盤 [CD] / 3059円 / KSCL-2196
アナログ盤(完全生産限定盤) [アナログ2枚組] / 3800円 / KSJL-6163~6164
CD収録曲
  1. ダーティー
  2. ゆめのしま
  3. スクリーム
  4. ドサンピンブルース feat. キエるマキュウ
  5. ダーティーサイエンス
  6. グラキャビ
  7. ナイスミドル
  8. サバイバー
  9. Deejay Deejay
  10. ノーサイド
  11. It's A New Day
  12. The Choice Is Yours
初回限定盤DVD収録内容
  • 「ゆめのしま」Music Video
  • 「It's A New Day」Music Video
  • 「Deejay Deejay」Music Video
RHYMESTER(らいむすたー)

宇多丸、Mummy-D、DJ JINからなるヒップホップグループ。別名「キング・オブ・ステージ」。1989年にグループ結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でインディーズデビューを果たす。1998年発表のシングル「B-BOYイズム」、翌1999年発表の3rdアルバム「リスペクト」のヒットで日本のヒップホップシーンを代表する存在に。2001年からは活動の場をメジャーへと移し、4thアルバム「ウワサの真相」リリースする。2007年、日本武道館での「KING OF STAGE Vol.7」公演を成功させるも、これを最後にグループ活動を休止。その後2009年10月にシングル「ONCE AGAIN」で本格的に活動再開。宇多丸はラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」のメインパーソナリティを務めるほか、テレビなどでも活躍している。Mummy-DとDJ JINは他アーティストのプロデュースなども行う。2010年にアルバム「マニフェスト」、2011年にアルバム「POP LIFE」とミニアルバム「フラッシュバック、夏。」をリリース。2013年1月30日には9thアルバム「ダーティーサイエンス」を発表する。