ナタリー PowerPush - ピロカルピン

手が届きそうで届かない 「蜃気楼」を探す旅の始まり

生きる喜びに満ちあふれた笑顔

──そんな「未知への憧憬」は、PVも撮影されたそうですね。

松木 はい。新潟県にある有形文化財・旧師団長官舎という場所で撮ったんですが、趣のある古い洋館のような雰囲気でした。

岡田 最初は「わざわざ新潟まで行って、しかも屋内で何を撮るんだ?」って思ったんですけど(笑)、行ってみるとすごく雰囲気のある建物で。その場所に行かなければ出せなかったものが映像に収められてると思います。

──しかも一発録りだったとか?

スズキ そうなんです。やっぱりピロカルピンはライブバンドなので、そういうライブ感も出したいねっていうところで。

──すごく緊張したんじゃないですか?

松木 それが、逆に今までで一番緊張しなかったんです。理由は、一発録りでは起こらないようなことがいろいろ起こっていて……。

──周りの背景が途中で変わっていたり、それまであったものがなくなっていたりするという仕掛けがあると聞きましたが。

岡田 それを見てたら自分たちはあまり緊張しなくてすみました(笑)。僕たちのことはそっちのけっていうくらい。あと今回のPVは、僕はピロカルピンの音楽とリンクしてるところもあるのかなと。パッと見はただ演奏してるだけだけど、よく観るといろんな細かいところに変化やこだわりがあって、それはバンドにも通じることなんじゃないかなって思うんです。

PV場面写真

松木 あとこのPVで見てほしいのは、荒内の笑顔!(笑) 本当に生きる喜びに満ちあふれてるような笑顔なんですよ。

荒内 まあ、確かに生きる喜びは感じてました(笑)。初めての撮影方法という楽しさと、純粋に演奏に対する楽しさが混ざった笑顔ですね。

蜃気楼を追い求める旅が永遠に続く

──今後のピロカルピンについてですが、メジャーという新たなフィールドに来て、どんな音楽的広がりを見せていってくれるのかとても気になります。

岡田 それに関しては、今回の「蜃気楼」というタイトルが未来を暗示している気がして。ずっと先に蜃気楼が見えてて、そこに行きたくて行くんだけど、実際来てみると何もなかった。で、また先に見える蜃気楼を追って……っていう、その繰り返しなのかなって。つまりメジャーに行けて満足だから何かが変わるってことは永遠になくて、その蜃気楼を追い求める旅が永遠に続く感じなのかなと。

──なるほど。

岡田 ただその蜃気楼が生まれる「元」っていうのは必ずあるはずで。僕らはそれを信じて突き進んでいくだけ、っていう感じかもしれないですね。

──7月にはバンド史上最大となる大きなハコでのライブも控えてますし。

松木 そうなんです。東名阪のワンマンライブツアーを回ってファイナルは赤坂BLITZなんですが、不安と楽しみが半々といった感じ。でも広い会場じゃないとできないことや、そこじゃなきゃ生まれない空気があることを渋谷CLUB QUATTRO(2011年7月開催)のときに感じているので。今回もすごく意味があるライブになるんじゃないかと思います。あとはピロカルピンの音楽を聴いてくれてる人の中には、今までライブハウスに行ったことがない人、ライブハウスにはちょっと行きづらいという人も意外といるんじゃないかと思ってて。今回はそういう人たちでも来やすいハコだと思うので、ぜひ遊びに来てもらえたらと思っています。

スズキ 赤坂BLITZって、実はメンバーそれぞれが昔好きなアーティストを観に行ったとか、いろんな思い入れのあるハコなんですよね。だから素直にうれしいっていう気持ちもあるけど、当然不安もある。ただ、今こうしてメジャーが決まってリリースが決まって、ってさまざまなことが進んでいく中で、まずはひとつ、目の前の大きな目標を成功させたいなっていう気持ちですね。

ニューアルバム「蜃気楼」2012年5月16日発売 2100円(税込)ユニバーサルJ UPCH-1876

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CD収録曲
  1. メトロ
  2. 未知への憧憬
  3. 暗夜航路
  4. よだか
  5. タイムパラドックス
  6. 祈りの花
  7. 不透明な結末
ピロカルピン(ぴろかるぴん)

ピロカルピン

松木智恵子(Vo, G)、岡田慎二郎(G)、スズキヒサシ(B)、荒内塁(Dr)からなる4人組ギターロックバンド。2003年に松木と岡田が出会い、バンドの原型が誕生。2009年7月にタワーレコード限定シングル「人間進化論」とHMV限定シングル「京都」を同時発売しデビューした。
2010年11月から2カ月連続でシングル「存在証明」「終焉間際のシンポジウム」を発表し、繊細な世界観とダイナミックなサウンドで話題を集める。2011年3月、3rdアルバム「宇宙のみなしご」をリリース。このアルバムのタイトルは森絵都の同名小説にちなんだもので、森の快諾により名付けられた。
2011年5月にはドラムが荒内にメンバーチェンジ。7月3日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ「幻聴シンポジウム vol.1」を行い、成功を収めた。11月には初の3曲入りシングル「青い月」を発売。そして、12月に行われたワンマンライブにてユニバーサルJへの移籍を発表した。2012年5月にメジャーデビュー作となるアルバム「蜃気楼」をリリース。