音楽ナタリー PowerPush - ORIGINAL LOVE

田島貴男 ポップスにロマンを求めて

田島貴男の言語感

──「クレイジアバウチュ」もシングル曲的なキャッチーさの中に、絶妙に耳に残るフックがあって。これもジャズの要素が忍び込ませてあるんですね。

そうですね。ディミニッシュコードにテンションが入った和音をブレイクに入れるみたいなのは。

田島貴男

──その一方で次の「きりきり舞いのジャズ」はタイトルでジャズと謳っているけど……。

いかにもなジャズではない(笑)。この曲はモッズミュージックを意識したところがあって。ジョージィ・フェイムとかモーズ・アリソンとか、モッズが好きなジャズというかさ。それを自分が今やったらどうなるかなと思って作ったのがこれですね。でもギターソロはジャズで。初めてジャズのギターソロを弾きました(笑)。まあまあジャズギターになってるでしょ? 「99粒の涙」もジャズギターのエッセンスが入ってるけど、こっちはもっと古い、戦前のジャズの雰囲気ですね。

──8曲目の「四季と歌」からは再び小松&佐野コンビのリズムセッションが続きますが、「四季と歌」は「ラヴァーマン」とはまた違った方向で大衆性の高い曲という印象でした。

この曲は四季を歌った曲にしようと先にタイトルを決めたんだけど、そんな曲書いたことないから決めてからが大変で(笑)。どうやって歌詞を書いたらいいかわかんないし、曲の長さが足りなくて。

──あはははは(笑)。

春、夏、秋までは入ったけど冬が入んないからリズムレコーディングをしたあとなのに編集して構成を変えました。弾き語りとか「ひとりソウル」でいろんな街を回るようになって……Negiccoとの対談のときも言いましたけど、街=土地こそがノスタルジアなんだって気付いたんですよ。それを歌にしたくて。「99粒の涙」はラグタイムミュージックのようなムードを持った、僕が好きな古いアメリカンミュージックをロックンロールでやってみた曲です。作っていくうちに、ここにもジャズっぽさを入れたくなって、最後にジャズギターのソロを足して。ちょっとチャールストンみたいになったかなと。歌詞は……どういうふうに書いたんだっけな。忘れちゃった(笑)。

──歌詞にはいつも独特の言語感があって、田島さんはスラスラと言葉が出てくるタイプの人なのかなと勝手に思っているのですが、実際はどうなんですか?

全然、全然! いつも死にそうになりながら書いてますよ(笑)。独特の言語感って、自分ではわかんないんですよね。例えばどういうところが独特なんですか?

──「胸に矢が刺さっている男」なんかは特に顕著だと思うんですけど、単にカッコいいだけじゃない独特の濃さがあって、それがおかしさにつながるんですよね。メロディとしての響きや歌の乗り方も相まって、普通のフレーズでも「えっ?」と思う瞬間が多々あって。

ピチカート・ファイヴのときからちょくちょく言われるんだよね。「カッコいいんだか面白いんだかわかんないんだよ」って。

「ウイスキーが、お好きでしょ」がアルバムに与えた影響

──そんな中でラストの「希望のバネ」はメロディも歌詞も極めてさわやかで、後味のサッパリした終わり方だなと思いました。

これは「希望のバネ」って言葉が最初にポンと浮かんで。

──「希望のバネ」って言葉にはやっぱり一瞬「えっ?」と思いましたけど、これだけが真っ先に浮かんだんですね。

田島貴男

あははははは(笑)。そう。これもけっこう前に作った曲だけど、歌詞は何度も書き直して、最終的にこの形になったのは最近なんですよ。最初は背景をどうしようかなとか、こういう登場人物がいて……とクドクド考えてたんだけど、結局どんどんシンプルになっていきましたね。

──この何年かでどんどんフットワークが軽くなっている田島さんのスタンスが、そのまま歌詞に反映されている感じがしますね。

うん、そうだと思う。だんだんシンプルに書き換えていったというのは、自分自身がそういう気分だからなんでしょうね。「ウイスキーが、お好きでしょ」をボーナストラックで入れましたけど、この曲をやったのも自分の中で大きかったんですよ。

──サントリー「角ハイボール」のCMですっかりおなじみの曲ですね。

これね、5~6回OKテイクを歌い直したんですよ。もうちょっとこうしてください、ああしてくださいって。あとから考えたらそれがめちゃくちゃ勉強になったんです。最初のバージョンの歌はもっと濃かったんですけど、何度も歌い直していくうちにこの形になって。僕のボーカリストとしての部分と、一般の人に歌としてスッと入ってくる部分の接点がこの歌い方なんだ、という発見があったんですよね。次のアルバムを作るときは、この歌い方を基準にしていこうと。「ラヴァーマン」も昔だったらもっと力んでグイグイ歌ってたと思うんだけど、あっさり軽やかに歌うように心がけて。その分、歌入れにはすっごく時間かかりましたけど。年末から始めて正月も歌ってて……かれこれ3カ月ぐらいかかったのかな。

──なるほど。この曲がアルバムの最後にボーナストラックとして入っているのは、けっこう大きな意味があるんですね。

大きなきっかけをくれた曲なんです。今回のアルバム制作は、実は「ウイスキーが、お好きでしょ」からスタートしていたのかなって思うんですよね。だからCMのディレクターさんにはすごく感謝しています。

140字からはみ出た情念を表現する“わかりづらいポップス”

──資料には「これぞオリジナル・ラブ! そしてそれは同時に新たなるオリジナル・ラブでもある!」という惹句があります。まさにその通りの作品になっていると思うんですけど、田島さん自身は「これぞオリジナル・ラブ」というものをどう考えていますか? ORIGINAL LOVEとはなんなのか。

田島貴男

なんだろう、わっかんないなあ(笑)。ポップスであることは大前提なんだけど、僕がやるポップスはわかりにくいポップスなんだよね。でも、大ヒットするような、スタンダードになりうるポップスを作りたいという気持ちは、小西(康陽)さんとピチカート・ファイヴをやってた頃から変わらない。大衆的ではありながらもちゃんと深みのある、時代によって違う聞こえ方がするようなポップスを作る場所がORIGINAL LOVEで。それが成功したり失敗したり、試行錯誤を繰り返しているのがORIGINAL LOVEなんです。

──時代性と普遍性はポップスの命題ですよね。

この間「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」という映画を観たんだけどさ、共感するところがあったんですよ。今はTwitterやFacebookが浸透したSNSの時代で、情報が錯綜した中で即効的に「いいね!」ボタンが押されるものがもてはやされるようになっていて。アートが持つ底の深さが切り捨てられる時代性に対するあがきを「バードマン」という作品に感じたんだよね。音楽はシングルが中心で、1本の映画を楽しむようにアルバムが聴かれる機会は少なくなってしまって、そこに込められた人間味みたいなものが単純化されていってる。「君こんな奴だよね、はい次」みたいなことでは本当はなくて、その下にある事情や経験で得た生の感情、人間の本性のようなものまでがひそかに表現されているのがポップスだと思うんですよ。スタンダード曲はそこをすくい取ってくれる音楽だからこそ長く愛されるし、わかりやすいようでわかりにくいのがスタンダードポップスなんです。

──なるほど。

僕はポップスのそういったところにロマンを感じるし、自分が歌うのはそんなポップスであってほしい。ただ、そういったことを全部汲み取っていたら、多すぎる情報を処理する今は追っ付いていかない毎日でしょ。Twitterがいい例で、140字に圧縮してその外にあるものは切り捨てるしかなくて。140字からはみ出た情念が表現されないことが、現代の心の荒れ方につながっているのかもしれない。そこからはみ出た心情をすくい上げて歌ってあげることができるかもしれないのがポップスで、これからのORIGINAL LOVEも“わかりづらいポップス”をやっていかなきゃなと思うんですよ。「バードマン」を観てそのことに勇気付けられましたね。

ニューアルバム「ラヴァーマン」 / 2015年6月10日発売 / 3240円 / WONDERFUL WORLD RECORDS / XQKP-1007
「ラヴァーマン」
Amazon.co.jp限定仕様 [CD+ステッカー]
通常仕様[CD]
収録曲
  1. ラヴァーマン
  2. ビッグサンキュー
  3. サンシャイン日本海
  4. 今夜はおやすみ
  5. フランケンシュタイン
  6. クレイジアバウチュ
  7. きりきり舞いのジャズ
  8. 四季と歌
  9. 99粒の涙
  10. 希望のバネ
<ボーナストラック>
  1. ウイスキーが、お好きでしょ / 田島貴男
ORIGINAL LOVE 2015年夏のツアー
「ラヴァーマン・ツアー」
  • 2015年6月23日(火)
    東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • 2015年6月26日(金)
    宮城県 Rensa
  • 2015年6月27日(土)
    岩手県 Club Change WAVE
  • 2015年7月5日(日)
    福岡県 電気ビルみらいホール
  • 2015年7月10日(金)
    大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2015年7月11日(土)
    愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2015年7月18日(土)
    東京都 渋谷公会堂
ORIGINAL LOVE(オリジナルラブ)
ORIGINAL LOVE

1985年結成のバンド・レッドカーテンを経て、1987年よりORIGINAL LOVEとしての活動を開始。1991年7月にアルバム「LOVE! LOVE! & LOVE!」でメジャーデビューを果たす。同年11月発売の2ndシングル「月の裏で会いましょう」がフジテレビ系ドラマ「BANANACHIPS LOVE」の主題歌に採用され全国的に注目を集めた。その後も「接吻 kiss」「朝日のあたる道」などのシングルでヒットを記録し、1994年6月発売の4thアルバム「風の歌を聴け」はオリコン週間アルバムランキング1位を獲得。以降もコンスタントに作品を発表し、柔軟な音楽性を発揮している。2015年6月には通算17枚目のオリジナルアルバム「ラヴァーマン」をリリース。現在はバンドスタイルでのライブのみならず、田島貴男1人での「ひとりソウルツアー」や「弾き語りライブ」も恒例化している。