大橋トリオ|「音楽ってこういうことでいいのかな」意識変化の中で踏み出した11年目の第一歩

大橋トリオがバレンタインデーに12枚目のアルバム「STEREO」をリリースした。キリン「淡麗グリーンラベル」のCMソング「SHE」や、TBSテレビ系「世界遺産」のテーマ曲「鳥のように」、布袋寅泰がギターで参加した「Embark」など11曲を収めたこの作品で、彼はいっそう磨きをかけたハイブリッドな音楽性を発揮している。Blu-ray / DVD付き商品には、昨年12月8日に東京・東京国際フォーラムAにて行われた10周年記念公演「ohashiTrio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT "TRIO ERA"」の模様を収録。盛りだくさんの10周年アニバーサリーイヤーを完走し、11年目の第一歩を踏み出した大橋に話を聞いた。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / moco.(kilioffice)

ノリだけでいける人がすごくうらやましいです

──DVD / Blu-rayにも収録されている昨年12月8日の10周年ライブの感想から教えてください。

今までで一番大所帯で、単独では一番大きいハコで、布袋寅泰さんと持田香織さんもゲスト出演してくれて、この上なく豪華なライブになりました。最初はピアノソロで始まって、バンドが入って、その後ストリングス隊とホーン隊が入って。最後は1人で弾き語りをしました。1本マイクのコーナー(参照:大橋トリオ「鳥のように」インタビュー)もやりましたよ。

──大橋さんってこうしてお会いすると物静かで落ち着いた雰囲気ですけど、ライブのときはどんなテンションになるんですか?

まったく変わらないです。

──興奮して我を忘れるみたいなことは?

ないですね。そうなるのは飲んだときぐらいです(笑)。自分の中でいろいろハードルがあって、ライブ中は常にそれと冷静に向き合っていなければいけないので、気が抜けないんです。演奏を間違えちゃいけないとか、音程を外しちゃいけないとか、喉をこういうふうに使わないと声が裏返るとか。そういうことですね。だからノリだけでいける人がすごくうらやましいです。そういう人は普段の努力によって良好なコンディションにできているんでしょうね。僕は普段努力しない人間なので。

──そんなことはないと思いますが(笑)。布袋さん、持田さんとの共演はいかがでしたか?

左から大橋トリオ、布袋寅泰。(Photo by Yuusuke Katsunaga)

布袋さんはさすがでした。どういう感じで出てくれるか、ひそかに楽しみにしていたんです。普段の佇まいは僕とはまったく対照的で、“HOTEI!”って感じじゃないですか。お客さんも「HOTEIー!」って。それを聞くと僕は「呼び捨てで大丈夫? 知り合ったら絶対言えないからね!」と思っちゃいますけど(笑)。あの日のライブは、もしかしたら気を遣って大橋トリオ側に寄せてくれたりするのかな、とも思っていましたけど、僕の望み通り“ザ・HOTEI”って感じで出てきてくれました。ラメ入りのセットアップを着て、髪の毛も逆立ててね。スターでした。

──なるほど。

持田さんは本当に素敵でした。彼女とは普段も多少、仲がいいと言うか、メールのやりとりもしたりしていて、信頼してくれているし。自分がこんなことを言っていいのかわからないけど、すごく距離が近くなれたなと思います。とても気さくですし。それは布袋さんも同じですけどね。いろんな意味で刺激になったと思います。

──ほかのミュージシャンの方からも持田さんの気さくさはうかがったことがあります。大橋さんとは世代も近いですよね。

左から大橋トリオ、持田香織。(Photo by Yuusuke Katsunaga)

持田さんが1つ上ですね。世代的に話が合うということは特にないんですけど、人間的に話せる人という感じです。

──布袋さんとも前からお付き合いがありますよね。

前に布袋さんのオフィシャルサイトで対談にお呼ばれしたことがあるんですけど、インタビュアーの方が「大橋さんとはどういう関係なんですか?」と聞いたら「友達ですよ」とおっしゃって、「えー?」と(笑)。「友達だよね、大橋くん」って言われて「いやー、友達では、ない……かな?」ってつい言っちゃいました。そう思ってくれるのはすごく光栄ですけど、恐れ多すぎます(笑)。すごく紳士的で、憧れの大人っていう感じです。カッコいいですよ。

「こねくり回さないと面白くない」から「ストレートでいいんだ」への変化

──新作「STEREO」にはその布袋さんも参加されていますね。

華を添えていただきました。「Embark」の3、4パートあるギターをすべて弾いていただいています。この曲は12月のライブで初披露しているので、レコーディングでは話が早かったですね。ライブではギタリストが何人もいるから、布袋さんにはメインのパートとソロと味付けだけお願いしたんですけど、レコーディングでは全パート弾いてもらうようにお願いしました。

──大橋さんはアルバムごとにテーマを設けて制作に取り組んでいらっしゃるそうですが、今回は?

テーマはあったりなかったりなんですけど、前回(「Blue」)と今回はないです。最初は“ダンス”っていうテーマにしていたんですけど、作っていくうちにしんどくなってきて。どうしても四つ打ちの曲が多くなるじゃないですか。四つ打ちじゃなくても踊れる曲はあるんだけど、そう考えたら前のアルバムのこの曲もダンスナンバーじゃん?って思ったり、すでにやり尽くしていることに気が付いて。それで最後のけっこうギリギリのところで頭を切り替えて、“ダンス”という縛りをゆるくしたんです。

──僕は、常にいろんなスタイルが混じっているのが大橋さんの音楽のユニークなところだと思うんですが、今回は前作からさらに混交が進んだ感じがしました。

前がどうだったかということは本当に意識していない、と言うか意識しないようにしているんです。ダンスに限らずひと通りやり尽くした感があるので、変に過去を振り返ると何もできなくなっちゃうんですよ。だからそれはもう考えないようにして、今純粋に自分の中から出てくるものをちゃんと拾い上げてあげようと。ま、言葉で言うほど美しくいけたかどうかはわからないですけど(笑)。

──出てくるものを拾い上げていった結果、できあがりについてご自分ではどう思われますか?

大橋トリオ

もうちょっとやれたかなとは思いますね。ダンス縛りで途中までやって、切り替えるのがちょっと遅かったし、正直に言うと全体的に時間がなさすぎたかな。自分で自分の首を絞めてるんですけど。毎回そうなんですよ。「今年こそ早く取りかかろう」って思うんですけど、考えるのも自分、やるのも自分で、そのスタンスをスタッフも尊重してくれているので、行き詰まったときは自分で解決するしかない。そこから抜け出す作業がかなり大変なんですよね。そういうときはもう何もしない。新しい音楽を聴くとかインプットをすると、影響を受けてさらにダメになっちゃうし。今の自分を素直に出せるコンディションに持っていくのが難しかったですね。

──昔の音源も聴き直してみたんですが、「聴きやすくなった」って言うと変ですけど、表現がストレートになってきている気がします。

今は余計にこねくり回していないかなとは思います。「もっとこねくり回さないと面白くない」と思ってやっていたものが、「ストレートに出してしまっていいんだ」という意識に変わったのか。あるいは時間がなかったか(笑)。過去の作品はちゃんと作っているなと思うんですよ。しっかり考えて、よくアレンジして。今回はそういうのじゃなくてもいいかな、と思っていました。

大橋トリオ「STEREO」
2018年2月14日発売 / rhythm zone
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CD収録曲
  1. VENUS
  2. Embark
  3. タイミング
  4. 面白きかな人生
  5. SHE
  6. 双子の約束
  7. birth
  8. STEREO
  9. スノーマン
  10. 鳥のように

ボーナストラック

  1. SHE -SIRUP Remix-
Blu-ray / DVD収録内容

ohashiTrio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT "TRIO ERA" 2017.12.08 at TOKYO INTERNATIONAL HALL

スペシャルゲスト:持田香織(Every Little Thing) / 布袋寅泰

  • はじまりの唄
  • SHE
  • Baumkuchen
  • マチルダ
  • バンドメドレー(摩天楼バタフライ~GOLD FUNK~CLAMCHOWDER~Happy Trail~僕らのこの声が君に届くかい)
  • トリドリ
  • A BIRD
  • 静かな夜
  • 宇宙からやってきたにゃんぼー
  • Fairy
  • 月の裏の鏡
  • 鳥のように
  • Battle Without Honor Or Humanity
  • バンビーナ
  • Embark
  • MAGIC
  • アネモネが鳴いた
  • HONEY
  • Bing Bang
  • 生まれた日

VENUS (music video)

大橋トリオ(オオハシトリオ)
大橋トリオ
マルチプレイヤー大橋好規によるソロプロジェクト。音楽大学を卒業後、2003年に映画「この世の外へ クラブ進駐軍」にピアノ演奏とビッグバンドアレンジで参加。その後も映画やCMの音楽制作や楽曲提供、サポート演奏などで幅広く活躍する。2007年に大橋トリオ名義のアルバム「PRETAPOTER」を発表し、2009年にはミニアルバム「A BIRD」でメジャーデビュー。以降もコンスタントに作品をリリースし、2010年3月にカバーアルバムシリーズ「FAKE BOOK」をスタートさせた。2017年には活動10周年を記念し、3カ月連続で配信シングルをリリース。第1弾として8月にキリン「淡麗グリーンラベル」のCMソング「SHE」、第2弾として9月に本人役で出演している映画「AMY SAID エイミー・セッド」のテーマ曲「AMY SAID」、そして第3弾として10月にTBSテレビ系「世界遺産」のテーマソング「鳥のように」をリリース。12月に活動10周年記念ライブを東京・東京国際フォーラム ホールAで行った。2018年2月にニューアルバム「STEREO」発売。