音楽ナタリー Power Push - 野水いおり

野水いおり×大槻ケンヂ×橘高文彦 “ジョイント”される3つの才能

野水いおりだから歌える「ダンシング!」「トゥナイト!」

──なぜ大槻さんは、球体関節人形とヒロインが夢とうつつを行ったり来たりする詞を書くことに?

大槻 最近わりと「ベタでいこう」と思っていて。この曲は風の強い春の日、桜の花びらが舞い散る中野通りと哲学堂公園という、まさにベタな光景の中で書いたんですけど、その影響もあるかな。まず野水さんの印象から「やっぱりゴシックな感じだろうな」と思って、ゴシックが好きな女の子は最近球体関節人形なんかが好きだっていうしなあ、っていうベタな発想に至ったというか。でもそれこそがいいのだと自信を持って。

野水いおり

野水 親の影響なんですけど、私、子供の頃から球体関節人形がすごく好きで。当時「ワーズワースの冒険」っていう番組で、人形作家の天野可淡さんを、可淡さんの作った少女やネコの人形の目を通して紹介するという企画をやっていて。それを母がビデオに録っていたのを観て以来、ハマってしまって。なので詞をいただいたときは「私、球体関節人形のことお話していないのに!」「これは運命だ!」って1人で興奮してしまっていました(笑)。

大槻 いや、これはある意味ネタバレでもあり、まさにって話でもあるんだけど、筋少が「月光蟲」(1990年)っていうアルバムを出した頃かな? ちょうどその頃に天野さんがお亡くなりになったこともあってか、年間で10冊くらい「KATAN DOLL」っていう本をファンの人からプレゼントされたことがあったんですよ。

野水 あっ、そうだったんですか!

大槻 うん。だから「筋少好きな人は球体関節人形が好きなんだろうな」っていう印象があったんです。でも球体関節人形ってちょっと怖いよね?

野水 そうですね。しかも可淡さんのお人形は目が寂しそうで、アンニュイな雰囲気も持っているから、怖くもあるし不思議でもあって。そこがすごく素敵なんです。

大槻 あと詞を書き上げておいてから言うこっちゃないんだけど、球体関節人形って踊れるのかな?

橘高 ああ。「ドールダンシング 踊れ踊れ」のところ?

大槻 うん。でも球体“関節”人形だから大丈夫か。あそこはまさに野水さんの曲ならではの詞なんですよ。あれ筋少の曲だったら「球体関節の ドールダンシング」「球体関節の ドール トゥナイト」とは書かなかったと思う。

橘高 そうね。

大槻 だから僕も実はライブで歌う野水さんを思い浮かべてたのかもしれない。「ドールダンシング」「ドール トゥナイト」のキメのところではファンの人に絶対サイリウムを振ってもらいたいもん。

橘高 サイリウム片手に「ダンシング!」「トゥナイト!」ってジャンプしてもらいたいよね(笑)。

野水 やってもらえるようにファンの皆さんにお願いしてみます!

大槻 でもホントにゴシック&ロリータな女の子がファンと一緒に飛び跳ねながら歌うのが似合う感じも含めて、この曲は日本のある種のヘヴィメタルを代表する1曲にして、ゴスロリ好きな女の子のアンセムになるポテンシャルも秘めてる曲になったと思うんだよなあ。

野水いおり、ステージのド真ん中で妄想を全開にする

大槻 あとさあ、この曲は途中にセリフがあるでしょ。

──ギターソロのあと「私が人形だった頃 幻想とリアルは球体関節でジョイントされていた……」って語りが入りますね。

大槻 あそこ書いてるうちについ長くなっちゃったんだけど、よく収まったね。

橘高 あっ、あそこはちょっと尺を伸ばした。でもあの長さでよかったよね。

大槻 うん。あのセリフが特に素晴らしかったから気になってたんですよ。

野水 ありがとうございます。manzoさんが「セリフを入れるには長さが足りないかも」って気付いてくださって。楽曲を流しながら「ちょっと読んでみて」って調整してくれたんです。

橘高文彦

橘高 歌の符割についてもそういう感じだったよね。今回は僕が筋少代表。ギターを弾いて、manzoさんと一緒にアレンジしたんだけど、大槻の詞って音符の数と語数がだんだん合わなくなっていくことがあって。それが面白いんだけど、筋少のレコーディングのときにはいつも、まず音符と語数がズレてるところの符割をある程度調整することから始めるんです。で、今回もその筋少方式。難しそうなところの符割は仮歌の段階で決めて、あとはご自由にっていう感じ。野水さんの思うがままに歌ってもらってますから。

野水 でも歌い方は皆さんとディスカッションしながら決めさせていただいていて。セリフのところは楽器レコーディングでお会いしたときに橘高さんとmanzoさんと3人で打ち合わせをしたんですけど、そのとき橘高さんが言ってくださった「少女の妄想が全開になる感じでいいのかも」というひと言がすごく印象に残っていたんです。

──抑えたトーンなのに、メロディを歌っているとき以上に強い感情をにじませている印象を受けました。

野水 「妄想全開」のひと言をいただいて、内にこもって独り言のように言うのか、外に向かって誰かに話しかけるのか、どちらが妄想を全開しているように聞こえるのかを考えるようになって。結局その真ん中というか、独白ではあるんだけど、ステージの上でスポットライトを浴びている感じ。あくまでただ1人の胸の内のことを明かしているだけなんだけど、それが大勢の前でブワーッとあふれ出てしまって、誰もが知るところになったというイメージで読んでみました。

橘高 Aメロの「幻想とリアルはどこ」「人形と人間 どこ」のボーカルもセリフのところと同じ感じで決めたんですよ。まず「幻想とリアル、人形と人間っていう似て非なるものが重なり合ってるわけだから」って話から「人間のいろんな感情や葛藤が重なっていく感じで歌おう」という話になって。

野水 そのあと「声のトーンを変えたほうがいいのか」とか、いろいろお話をさせていただいて。徐々に激しくなっていくBメロやサビにちゃんとつながるようにいくつも違うトーンの声を重ねてみました。

ニューシングル「D.O.B.」 / 2015年7月29日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / VTZL-97
通常盤 [CD] / 1404円 / VTCL-35204
CD収録曲
  1. D.O.B.
    [作詞:藤林聖子 / 作曲:ミライショウ / 編曲:CHOKKAKU]
  2. 水底のremains
    [作詞:野水いおり / 作曲・編曲:雅大]
  3. 球体関節人形の夜
    [作詞:大槻ケンヂ / 作曲:橘高文彦 / 編曲:橘高文彦・manzo]
初回限定盤DVD収録内容
  • 「D.O.B.」MUSIC VIDEO
野水いおり(ノミズイオリ)
野水いおり

北海道出身のボーカリスト、声優。2010年アニメ「そらのおとしもの」で本格的に声優としてのキャリアをスタートさせる。そして2011年、自身がヒロイン・ハルナ役を務めたアニメ「これはゾンビですか?」のオープニングテーマ「魔・カ・セ・テ Tonight」でアーティストデビューを果たす。以降アニメ「問題児たちが異世界から来るそうですよ?」のオープニングテーマ「Black † White」(ブラック・ホワイト)や、「デート・ア・ライブ」エンディングテーマ「SAVE THE WORLD」などのシングルやミニアルバム「月虹カタン」、フルアルバム「Hat Trick」などを発表する。またその傍ら、アニメ「うぽって!!」で共演した声優の富樫美鈴、佐土原かおり、味里とともにユニット・sweet ARMSを結成し、また幼少の頃から愛好しているホラーマンガの作家を迎えるトークイベント「宵闇倶楽部」を不定期開催するなど幅広い活動を展開。2015年7月にはアニメ「空戦魔導士候補生の教官」のオープニングテーマとなる表題曲や、ファンだと公言する筋肉少女帯の大槻ケンヂ(Vo)と橘高文彦(G)が制作に参加した「球体関節人形の夜」が収められたシングル「D.O.B」をリリースする。

大槻ケンヂ(オオツキケンヂ)

1966年生まれ東京出身の男性シンガー、作家。中学の同級生だった内田雄一郎と筋肉少女帯を結成し、1988年にアルバム「仏陀L」でメジャーデビュー。不条理かつ幻想的な詩で独自の世界観を確立する。またバンド活動と並行して、小説やエッセイを執筆。青春小説「グミ・チョコレート・パイン」は2007年に映画化され、話題となった。また1995年にはソロアーティストとして、アルバム「ONLY YOU」をリリース。1999年には新バンド・特撮を結成し、精力的なライブ活動を展開する。2006年に筋肉少女帯が再活動。現在はバンドやソロなど、さまざまな活動を行っている。

橘高文彦(キツタカフミヒコ)

1965年生まれ大阪出身のギタリスト、作曲家、プロデューサー。1984年デビューのヘヴィメタルバンド・AROUGEの一員としてプロミュージシャンとしての活動を開始し、1989年、筋肉少女帯に加入。以降バンドのギタリストとしてはもちろん、メインソングライター、アレンジャーとして数多くの楽曲を手がける一方で、1994年にはソロプロジェクト・Fumihiko Kitsutaka's Euphoria名義のアルバム「Euphoria」を発表する。1999年には筋肉少女帯脱退と前後して二井原実(Vo)、和佐田達彦(B)、ファンキー末吉(Dr)とともにバンドX.Y.Z.→Aを結成。国内のみならずアジア圏でも大きな人気を獲得する。そして2005年にソロアルバム「NEVER ENDING STORY」で大槻ケンヂと共演し、また2006年にはユニット・大槻ケンヂと橘高文彦名義で「踊る赤ちゃん人間」を発表したのを機に大槻らとともに筋肉少女帯を再結成。2010年にはソロ名義のベストアルバム「DREAM CASTLE ~BEST OF FUMIHIKO KITSUTAKA~」もリリースしている。

筋肉少女帯 ニューシングル「混ぜるな危険」
2015年8月5日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
初回限定盤 [CD+DVD] / 2970円 / TKCA-74245
通常盤 [CD] / 1296円 / TKCA-74249