音楽ナタリー Power Push - ESTACION 南壽あさ子×鈴木惣一朗

2人が再び冬を描いた理由

余分なものをそぎ落として、自分の形に

──南壽さんの音楽を季節感というテーマで演出していくというアイデアは秀逸です。

鈴木 おっしゃるように、南壽さんの音楽を季節に当てはめていくことで何かが生まれるんじゃないか、って予感が最初にあったからね。あと面白いのは「ジャズをやってみましょう」って提案してみるんだけど、決してジャズにはならないんだね、スウィングしないから。

南壽 私の中ではしているつもりなんですけどね(笑)。

鈴木 「できない領域がある」ってところがプロデュースしていくうえでのポイントで、大抵はできなかったりすると、アーティストは背伸びしたりして自分を大きく見せようとするんだけど、南壽さんは「それはできないです」ってはっきり言うんです。でもできない領域を踏まえつつ、どう楽しめるかがカギ。

南壽あさ子

南壽 音楽が好きでここまでやってきましたが、人よりも音楽の知識は少ないと思うし、そういった面での自信はまったくないんです。進歩するための努力は続けていくにせよ、現時点で「できないことはできない」とはっきり言うことのほうがいいと思う。じゃないと、今やっていることを楽しめない。とにかく今できることのベストを尽くす。あと課題をもらって初めて考えてみることで、そこから自分の知らなかった部分が出てきたりもするんです。

──1つ質問なんですが、南壽さんはないものねだりをすることってありますか?

南壽 もうちょっと声が大きければなあっていつも思います。

鈴木 もっと食べればいいんじゃない?

南壽 声が大きな人のことを、うらやましいなあって思うんですよね……。

鈴木 その雰囲気で「南壽です!!」って大きい声で言われたら相当ビックリするよ。

南壽 大きな声が出るアーティストさんに対して、自分とは違う資質を持っていて素敵だなあと思うことはよくあるんです。でもそこに近付きたいというより、私はこういうふうに生まれて来たんだから、そのままでがんばろうと思うようにしていて。小さい頃から歌手になりたかったんですけど、昔は歌い上げる人じゃないと歌手になれないと思い込んでいました。だから強く太い声を出さなきゃ、と無理していた時期もあったんですが、そうではないことにだんだん気付き始めて。自分にはできない余分なものをそぎ落としていくといろんなものが見えてきて、自分はこれしかない、という形にたどり着いたんですよね。

“冬感”からは離れられない

──前作「少女歳時記<冬>」と今作「もうひとつの冬」を聴いていると、おそらくほかの季節をテーマにしても同じような温度感を持った音楽が生まれるんだろうな、と予想できるんですよね。あと前作との比較でいうと、春を待つ気持ちが歌われた「しんしんしん」や「カシュカシュ」が1曲目と2曲目に置かれているせいもあって、春がさほど遠くない時期のイメージが湧いてきたりもする。ひょっとして今後届くかもしれない春をテーマにした作品の青写真がここにある気がするんです。

南壽 春の風景がそこまで見えている冬ってことですね。

鈴木惣一朗

鈴木 「カシュカシュ」は言わば冬眠の歌で、希望の季節である春に向かって冬をどう過ごすかが描かれている。冬って静穏な季節だと捉えられがちだけど、実は内にエネルギーをため込む時期だったりする。だから、今回の「もうひとつの冬」を作るとき「前作よりもエネルギーを抱えたもの、強さを持ったものにならないだろうか」と思っていたんです。まあ、そうやって考えていたせいで力が入ってしまった(笑)。南壽さん自身、強い人ですごく頑固だし、自分にも厳しい人。

──だからアルバムの内容が濃くならざるを得なかったと。

鈴木 うん、そうだね。「しんしんしん」を最初に録音したんだけど、もうすでにそういうモードに入ってたな。今度はあんまり地味な感じにはしたくなくて静かなオケなんだけど、グッと力が入ったものにしたかったんだよね。早いけど、この次は共作をもっとやってみたいと思ってて、もっとマニアックなことにも挑戦できるんじゃないかなと考えてる。最近はアブストラクトなものをやる気がまったく起きなかったんだけど、南壽さんとならハサミを渡してパーカッションをやってもらったりだとか、そういうのもいいかもしれない。

──そういったアプローチと季節感をどうやって絡めるかってことを考えるといろいろと楽しみが増えますね。

鈴木 ただどうやったって“冬感”からは離れられないような気はする。「次も冬だ!」とここでは言い切れませんけど、とにかく今の状態を高めていきたいというのはあります。

南壽あさ子特集 Index
第1弾 「つながり」続けたその先に
第2弾 歌とゲーム、それぞれが描く「旅」
第3弾 南壽あさ子×鈴木惣一朗 2人が再び冬を描いた理由
ESTACION ニューアルバム「もうひとつの冬」 / 2016年11月23日発売 / 2500円 / QBISM / QBISM-014
「もうひとつの冬」
収録曲
  1. しんしんしん
  2. カシュカシュ
  3. 冬の海
  4. Blue Valentine's Day
  5. 心に太陽を持て
  6. 冬は糸を連れ
  7. 灯台守
ESTACION(エスタシオン)
ESTACION
右 / 南壽あさ子(ナスアサコ)

1989年千葉県佐倉市出身のシンガーソングライター。幼少の頃からピアノを始め、大学時代に軽音部に所属。その後音楽活動を本格化させ、2010年よりライブ活動を行う。2012年6月には湯浅篤をプロデューサーに迎えたシングル「フランネル」でインディーズデビュー。翌2013年10月にはシングル「わたしのノスタルジア」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たす。2016年7月に所属レーベルをヤマハミュージックコミュニケーションズへ移籍することを発表した。同月に「エネルギーのうた(弾き唄い Ver.)」、8月に「八月のモス・グリーン」を配信限定シングルとして発売し、9月に移籍後初のCDシングル「flora」をリリース。また同年11月には鈴木惣一朗とのユニット・ESTACIONの新作音源「もうひとつの冬」を発表した。

左 / 鈴木惣一朗(スズキソウイチロウ)

1983年にWORLD STANDARDを結成し、細野晴臣プロデュースのもと「WORLD STANDARD」でデビュー。音楽プロデューサーとしてハナレグミ、ビューティフルハミングバード、中納良恵(EGO-WRAPPIN')、南壽あさ子、湯川潮音、羊毛とおはな、あがた森魚といったアーティストの作品に携わっている。また音楽雑誌への寄稿や本の執筆も行っており、1995年に執筆した「モンド・ミュージック」はロングセラーを記録した。2015年12月には南壽あさ子とのユニット・ESTACIONとしてミニアルバム「少女歳時記<冬>」をリリース。2016年11月にはESTACIONの新作音源「もうひとつの冬」を発表した。