音楽ナタリー Power Push - コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

前野健太

こんなキラーフレーズ、子供たちからもらっていいのかな

“なんなんだろう”がないと詩は書けない

──前野さんの楽曲には、「ねえ、タクシー」「TOKYO STATION HOTEL」のようにストーリー性を持った歌詞もあれば、「ファックミー」のように強烈な単語が刻まれた歌詞もあり、いずれも言葉に対する前野さんの強いこだわりを感じます。言葉という点では、岩井さんは劇作家として、森山さんはダンサーとして、それぞれの創作の中でずっと言葉に向き合っていると思いますが、今回の創作では、そんな三者の言葉に対するアプローチの違いが、共鳴し合っているようですね。

前野健太

そう、確かに全然違うところから来るんですよ、未來さんや岩井さんの発言って。角度が違うのかな。そんな2人の一筋縄ではいかない、理解不能なところが、やっぱり最高です。3人の中で、子供の詩情みたいなものに一番近いのは俺なのかな。俺は詩が好きなんですよ。物語が面白いっていうのはあんまり思わなくて、言葉から生まれたふわっとした、この「ふわ」が好きなんですよね。それを僕は詩情と呼んでるんですけど。

──前野さんは子供が書いた言葉から、どんなインスピレーションを受けましたか?

僕は昔、写真をやってたんですね。でも音楽も好きで、どっちもやりたかったんだけど写真を捨てた時期があった。というのは、何かと出会ってパッと感じ取った詩情のようなものが、カメラを持ってるとそっちに入っちゃって、詩が書けないと思ったんです、当時の僕は。今はちょっとまた考えが変わってきたんですけど、でもやっぱり「これはなんなんだろう」っていう感覚は大事にしてないと、詩は書けないなって思います。その感覚はもしかしたら、子供たちが書いたものと近いのかもしれない。例えば昨日移動中に、冬の光を見て。この「冬の光」ってなんだろうって考え始めて、周りの情景を並べていくと、ふわっと1つの歌のようなものができてくる。そういう気持ちで詩を書いていたいんです。その点、子供たちはわからないものがたくさんあるからかな、詩を書きたいと思って書いてるわけじゃないのに、すごく詩情にあふれた言葉を書きますね。「友達じゃがまんできない」っていう自分の曲があるんですけど、これは女性にぱっとそういう言葉を言われたとき「あ、これ歌だ」って思ったんですね。歌泥棒なんですよ(笑)。歌ばっかり探しているので、子供たちが書いたものを見たときも、「すごい! 全部タイトルになるような歌ばっかりだ!」って興奮して。「毛は木を船にした」とか「頭は八百屋に体は海に」とか、すごい歌詞ばっかだなって。その1フレーズが欲しくて恋愛するって言ったら相当業が深いけど、つまりはフレーズが欲しいので。

──そのフレーズの泉が、今回は恋愛ではなく子供たちのお話にあったと。

ええ。子供たちからこんなキラーフレーズもらっていいのかなって。フレーズ持ってる人には頭が上がらないですね。そうそう、城崎に滞在中、オフの日があって、電車でぐるっと日本海を回り、鳥取の手前の浜坂で降りて海に行ったんですけど、岩場に牛が打ち上がってて。白黒の、デカい乳牛がね。そのときハッと思って、「この光景は『なむはむだはむ』だ!」って。

──あははは! 実験映画みたいですね。

実写でやったらすごいことになりそう(笑)。まさに子供が書いた話みたいですよね。

“子供たちの言葉の精霊”のつもりで

──前野さんは2013年にリリースされた「ハッピーランチ」の過去のインタビューで、「ねえ、タクシー」を例に取りながら、“自分の感情を歌うだけじゃなく、もっと広く歌いたい”と語っていらっしゃいました。今回はそもそも子供から生まれた物語が題材で、公演によっては0歳児から観劇できる日もあったりと、観客の幅がかなり広くなりそうです。今回の創作が、今後の前野さんの活動に影響を与える部分はありそうですか?

前野健太

影響でいったらすでに受けていると思いますけど、今はまだ作っている段階なので、はっきりとわかりません。でも何カ月かして、とんでもなく大事な時間だったとやっと気付くだろうなとは、思っています。あとね、これは言っておきたいんだけど、岩井さんも未來さんも音楽の人だったんだなってこと! 2人ともギター弾いて歌を作って歌える人たちなんです。ワークインプログレス発表会で最後に俺が歌った「毛は木を船にした」って曲は、岩井さんの作詞作曲ですからね。いい歌って感情の受け皿が広いんですよ、だからあの歌は感情が込められるし、自分の歌として普段生活してる感情で歌える。未來さんもギターやベースもガンガン弾けるし、今回僕は“歌好き”ってことで加入してますけど、歌好きで言ったらたぶん2人も僕と変わらないくらい歌好き。音楽なんてみんなメチャクチャ好きだし。だからちょっとバンド感があるんですよ。なんでここで“バンドやろうぜ!”って感じになってるのか不思議なんですけど……(笑)。

──そうだったんですね(笑)。今回前野さんは舞台に“初出演”となりますが、舞台作品への関わりは「わかったさんのクッキー」(岡田利規作・演出、前野は劇中歌を提供)に続けて2作目となります。演劇へのご興味は深まりましたか?

演劇はとにかく稽古が長いですね(笑)。僕、芝居したいっていうのはあんまりないし、できない。でもオペラはやりたいですね。急に「ゥワー!」ってなるのおかしいじゃないですか。でもそれが好きで。先生について発声とかちょっと習ってみたい。

──楽曲提供じゃなくて、ご出演なんですね(笑)。稽古が長いとおっしゃいましたが、今回は本番も3週間と長いですよね。

ねえ。僕競馬が好きなんですけど、競走馬の調教ってレース当日に向けてピークを持っていくんですよ。ライブもそういうやり方で臨んでるんですけど、今回そういうやり方だと初日で終わっちゃうので、そうじゃないやり方で楽しめたらいいなって。

──初舞台で26ステに立たれるとはすごいです。

すごいも何も、ほとんど何も聞かされずに未來さんにタイ料理屋に呼び出されて、ほとんど何も聞かされずにとにかく岩井さんって人に会ってほしいと言われて今に至るので。俺、いっぱい出る(アンサンブルの)役の1人だと思ったの! そうしたらこんな歌ったり踊ったり……まして東京芸術劇場ですよ?

──(笑)近年は映画などにもご出演され、役を演じるご経験もされていますが、今回はどんなスタンスで舞台に立たれるのでしょうか。

子供たちが書いた言葉、詩みたいなものに僕は重きを置きたいので、言葉の詩情の精霊っていうか……2011年に「トーキョードリフター」(監督:松江哲明)って映画に出たときに、あれは震災後の街を僕がバイクで移動してひたすら歌う映画なんですけど、僕が妖精に見えた、街の妖精が歌ってるようだったと言う人がいて、それが面白いなって思ったんです。それからすると、今回は子供たちの書いた言葉の精霊、かな。妖精か精霊か、そんな感じなんですかね、もしかしたら。

前野健太

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

コドモ発射プロジェクト「なむはむだはむ」

2017年2月18日(土)~3月12日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

原案:こどもたち
つくってでる人:岩井秀人、森山未來、前野健太
そもそもこんな企画どうだろうと思った人:野田秀樹

チケット情報

東京芸術劇場ボックスオフィス
チケット好評発売中

前野健太(マエノケンタ)

1979年生まれ、埼玉県出身。シンガーソングライター。2007年に自主レーベルよりアルバム「ロマンスカー」をリリースし、デビュー。2009年、ライブドキュメンタリー映画「ライブテープ」(監督:松江哲明)で主演を務める。同作は第22回東京国際映画祭の「ある視点部門」でグランプリを受賞。2011年にも同監督の映画「トーキョードリフター」で主演を務める。同年、第14回みうらじゅん賞を受賞。近年はFUJI ROCK FESTIVALをはじめ大型フェスへの出演や、岡田利規作・演出「わかったさんのクッキー」への楽曲提供、文芸誌でのエッセイ連載、小説執筆など、活動の幅を広げている。アルバム最新作はジム・オルークをプロデューサーに招いた「ハッピーランチ」(2013年)。2014年にはライブ盤、2015年にはCDブック「今の時代がいちばんいいよ」を発表。2016年末に主演を務めた「変態だ」(企画・原作:みうらじゅん、監督:安斎肇)が公開された。


2017年2月15日更新