舐達麻|俺たちは普通の人間、だからこそ誰よりも真剣に音楽をやってる

埼玉県熊谷市を拠点に活動するヒップホップクルー・舐達麻(なめだるま)。心地いいビートに乗せてイリーガルなライフスタイルをラップする彼らは、2018年末頃から徐々に注目を浴び、2ndアルバム「GODBREATH BUDDHACESS」をリリースした2019年、一気にその名を轟かせる。アルバムは昨年の日本語ラップシーンを代表する名盤として高く評価され、収録曲「LifeStash」の「たかだか大麻 ガタガタぬかすな」というリリックは音楽ナタリーで行った日本語ラップ座談会で「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」として選ばれた(参照:舐達麻、Moment Joon、KOHH……2019年もっともパンチラインだったリリックは何か? | パンチライン・オブ・ザ・イヤー2019 (前編))。

音楽ナタリーでは、現在新作を制作中だという賽 a.k.a. BADSAIKUSH、G-PLANTS、DELTA9KIDにインタビュー。彼らの音楽に懸ける思いを聞いた。

取材 / 坂井ノブ 文・構成 / 三浦良純 撮影 / cherry chill will.

同じ熱量で努力していたら新作は確実に前作を上回る

──3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大でライブができない期間が続いていましたが、いかがでしたか?

舐達麻

賽 a.k.a. BADSAIKUSH 曲作りはコロナとは関係なくずっとやり続けてます。曲を作るほうが好きなんですよ。コロナが流行る前も普段から仕事してるわけでもないし、いつも遊びながら曲を書いてるだけなんで、コロナではマジで何も変わってないです。ただ、作った曲のMVをホテルの一室で撮ろうとしてもホテルが営業してなかったり、ホントは海外に行ってMVを撮る予定だったんですけど、それも無理になったり。そういう面で制作に支障をきたしている部分はあるかもしれないです。

──舐達麻は昨年飛躍的に知名度を高め、8月にリリースした2ndアルバム「GODBREATH BUDDHACESS」でその評価を決定的なものとしました。シーンでの注目度がグッと上がったことで、モチベーションや曲作りへの取り組み方は変わったりしましたか?

賽 a.k.a. BADSAIKUSH

BADSAIKUSH 最初はとにかく熊谷に棲息して日々曲作りをしてる俺たちみたいな奴がいるんだということを世に示すために曲を作ってMVを出すことが大事だったけど、それはもう伝わったと思うんで。ヒップホップでも、ほかのジャンルでも「1stアルバムが一番いい」って言われがちじゃないですか。俺はそんなことないってずっと思ってるんです。音楽に対する熱は冷めないし、同じ熱量でずっと努力していたら前作を上回るのは確実なんです。ファーストインパクトとか初期衝動みたいなものもわかるけど、それを絶対上回る。俺たちは2ndアルバムでそれを証明したんです。3rdアルバムはもっとよくなりますよ。

──2015年に1stアルバム「NORTHERNBLUE 1.0.4.」を発売した頃から、自分たちがよいものを作っているという自信はあったんですよね?

BADSAIKUSH 1stアルバムは今聴いたらそんなによくない。もちろんいい曲もあるけど。でも自分たちを過信してた部分があったんで「なんで俺たちが売れてねえのにこいつらが売れてんだよ?」みたいなフラストレーションはありました。これがヒップホップだろ、と思ってやってる中で「大丈夫か、こいつら?」と思うようなアーティストが超騒がれていて。

何かに本気で取り組んで、それが自分の人生の一部になることが初めてだった

──そんな厳しいリスナー目線を持つ舐達麻の音楽性に影響を与えたアーティストはいるんですか?

G-PLANTS いないですね。

BADSAIKUSH 俺たちだけで「こういう音楽がいいんじゃないのか」っていうのを何年も繰り返してきた結果が今です。逆にこうなっちゃダメだっていうのはめちゃくちゃいる。

──「100MILIONS(REMIX)」では「NujabesにTOKONA-X / 受け継いだ血」とラップしていますが。

BADSAIKUSH 2人は文句の付けどころがないです。カッコいいまま死んでしまったらレジェンドになる。でも、売れてからがみんな大変なんですよ。いい歳こいて覚醒剤にハマっちゃったり、お金のために音楽やるようになっちゃったり、近くに行って見てみると、カッコよくなくなった理由とか第一線からいなくなった原因が見えてくるんです。決して年齢だけじゃない。今のシーンに「この人みたいにやってみよう」っていう人はいないです。それこそスヌープ・ドッグくらいかもしれない。

G-PLANTS

G-PLANTS あれだったらなりたい(笑)。いろんなメディアで面白いこと言ったり、いい曲を作って、映画にも出てる。ああいうのがカッコいいじゃないですか。

──ラップを始めた頃から音楽に対して強い情熱があったんですか?

G-PLANTS 最初は「これで天下獲るぞ!」という感じではなく、よく遊んでた仲間で自然な流れで「ラップしてみれば?」って始まった感じですね。

BADSAIKUSH レコーディングもスタジオでやってたわけじゃないし。友達の家とかで。

G-PLANTS メシ食いながらラップするみたいなね。

BADSAIKUSH 大義名分ですよね。曲作るためにウィード吸って。俺たちは働いたことがなくて、みんなヒマだった。

──遊びでやってる中で次第に夢中になっていったと。

BADSAIKUSH 俺は曲単位で成長を実感できてるから、それが楽しくてしょうがないです。何かに取り組んでうまくいったことなんかなかったのに、音楽はやるたびにどんどんよくなっていくし、こうしたほうがもっとよくなるなと思って実行したら、実際によくなる。それってたぶん向いてるんだと思うんです。俺はサッカーやってたけど、サッカーではそうならなかった。何かに本気で取り組んで、それが自分の人生の一部になることが初めてだった。誇りを持てたんです。

忌野清志郎さんは超リスペクトしてる

──他媒体のインタビューでは「THE TIMERS、THE BLUE HEARTS、尾崎豊とかみたいに言われたいんですよね」とロックのレジェンドを目標として挙げていました。

BADSAIKUSH 別に深く考えて言ってないんで。

──イメージとしてのレジェンド?

BADSAIKUSH そう。ブルーハーツは聴いたことないけど、歌詞カードは見たことがあるってくらい。でも、見たらすごかった。聴いてないけどとんでもない人たちだってのがわかる。それを見たのが20代後半だったんですけど、あれを10代で見てたら話は変わってきたかもしれないですね。

──THE TIMERSは?

BADSAIKUSH エフエム東京(現TOKYO FM)をディスってる曲とかYouTubeに上がってる曲を本ちゃん(G-PLANTS)に教えてもらって超飛ばされましたね。忌野清志郎さんは超リスペクトしてます。普通に一番。世界に誇れる著名人なんじゃないかと思う。アメリカでさえ非合法だった頃に大麻がどうとか歌ってて「なんだこのアジア人!」って絶対なるじゃないですか(笑)。あんなのさっさと字幕つけて世界に向けて配信しろよって思いますよ。今、大麻について歌っても、あの方の二番煎じでしかないと思います。

──忌野清志郎さんが切り拓いた道を歩んでいると。

舐達麻

BADSAIKUSH 絶対そうです。それにしか影響受けてないんで。あの時代のことは知らないですけど、どんな扱い方をされていたのかはだいたい想像できる。あの人は別に犯罪者ってわけじゃなさそうだし。

──犯罪者ではないですけど、テレビの生放送で放送禁止用語を使ってエフエム東京を批判する歌を公然と歌うのは事件ですよね。

BADSAIKUSH 大麻がどうとか歌って、最後に「デイ・ドリーム・ビリーバー」っていう誰でも知ってるクラシックを歌って黙らせるっていうのがカッコいいですね。