ナタリー PowerPush - 水樹奈々

未来へつながる“歌謡曲”の力

「この『苦しゅうない』だけは残してください!」

──非常に濃厚な曲が3曲続いたあとに、DREAMS COME TRUEのカバー「笑顔の行方」が出てきます。このカバーはドリカムのカバーコンピレーション(2014年3月発売「私とドリカム -DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-」)に収められたものですが、なぜ自身のアルバムにも収録しようと?

ちょうど新生活が始まるシーズン。春らしい心躍る曲を入れたいねって話していたときにこのカバーのお話をいただいて。「笑顔の行方」は大好きな曲でしたし、アルバムのテーマにもシンクロしていたので、ぜひ収録させてくださいとお願いしました。

──もともと大好きだった曲を自分なりの解釈で歌うのは、オリジナルとはまた違った難しさがあると思うのですが。

難しかったです! やはり吉田美和さんのパワフルなイメージがとっても強いので、それを一旦全部頭の外に追い出して(笑)、この曲を「水樹奈々の新曲です」といっていただいたらどう歌うかなと考えました。

──次の「アンティークナハトムジーク」は、5拍子から始まってBメロで3拍子になってサビは4拍子、という非常に複雑な展開で。さらに音像的には、フルオケ公演「LIVE GRACE」をあらかじめ意識したかのような。

水樹奈々

デモを聴いたときに「うわあ!フルオケで歌ったらめちゃめちゃカッコいいだろうなあ」と思って“一耳惚れ”した1曲です。実はこれが今回のアルバムで最初に出会った楽曲で、「Vitalization」や「愛の星」よりも先だったんです。

──どの曲がアルバムの起点になったのかを知るのは興味深いところですけど、今回はこの曲から徐々に広がっていったんですね。

はい。去年の3月には手元にあって、絶対に次のアルバムに入れたい!と思っていた曲です。

──そして6曲目の「Fun Fun★People」は、前作の「Lovely Fruit」に続くゴリッゴリのファンク曲で(笑)。ファンキーなサウンドに乗せて「苦しゅうない」とか「バリバリじゃん」とか、端的に言うとダサいんですよね、歌詞が(笑)。

はははは(笑)。あえてのダサさです(笑)。これも昭和の歌謡曲感というか、これだけおしゃれな曲なのに、ダサカッコいい(笑)、昭和テイストの歌詞が乗ってるギャップがいいなあって。デモの段階からほとんどこのままの歌詞が乗ってたんです。バリバリとか苦しゅうないとか。「この『苦しゅうない』だけは残してください!」ってお願いして(笑)。

──歌謡曲というテーマを伝えたわけでもないのに汲んでもらっていたかのような。さっきはド頭の過剰な3曲と言いましたけど、実際はこの6曲目までずっと過剰なんですよね(笑)。次の「FATE」でようやくホッとできるという(笑)。

15曲ずっとアゲ曲だと大変なことになってしまうので(笑)。「FATE」のアレンジはすごく洗練された、R&Bテイストを感じられるサウンドなんですけど、曲の構成はやっぱり歌謡曲に通ずるところがあって。どこか素朴で懐かしい感じがあるんです。歌い上げるバラードよりも、近くにいる人にポツポツと語りかけるような、心がホワッと温かくなる春らしいバラードを探していて。「FATE」はまさにイメージしていた温度感でした。

観てはいけない大人の甘美な世界

──ただ、ホッとしたのも束の間……(笑)。

すぐに「Vitalization」が始まっちゃう(笑)。このバージョンはアニメ「戦姫絶唱シンフォギアG」の中で使われたもので、“Aufwachen”というのはアニメの中に用語として出てくる重要なキーワードなんです。

──この曲についてはシングル発売時のインタビュー(参照:水樹奈々「Vitalization」インタビュー)でも詳しく聞かせてもらいましたが、本当にアグレッシブな楽曲で。

はい。ここから後半戦スタート!みたいな形ですね(笑)。

──そして「哀愁トワイライト」ですが、これはもうタイトルも曲調も、何もかもが「ザ・ベストテン」感にあふれているというか(笑)。しかも子供の頃にテレビの歌謡ショーで観た大人の雰囲気、子供はまだ触れてはいけないものを観てしまったような危険なイメージがあるんですよ。

ありがとうございます! まさにそれがやりたかったんです。この曲も早い段階で候補に挙がった1曲で、三嶋さんも「これイイねえ! おじさんにはたまらない!」って話をしてたんですけど(笑)、私も小さい頃憧れていた大人の世界……観ちゃいけないんだけど夜更かしして観たくなっちゃうような世界観で。

──あの甘美な世界を歌う順番がついに回ってきたと。

そうそうそう! 私もついになれたんだ!って(笑)。

──昔の音楽番組の板付きバンドをバックに歌うムードがすごく合うと思うし、ライブならBillboard Liveみたいなハコで歌うとしっくり来そうですね。

ああ、素敵……。

新たな作家との出会い

──10曲目の「セツナキャパシティー」で作詞・作曲を手がけている丸田新さんは、水樹さんに楽曲提供するのは初めてですよね。

はい。今回初めてご一緒させていただいたんですけど、私が得意とするシンフォニックな要素と、前向きで元気なガールポップサウンドの雰囲気があって、デモの段階ですごく惹かれるものがあったんです。私がこれまで作ってきた楽曲に通じる何かを感じて、収録が決定して……でも、レコーディングでお会いしたらすごくお若い方でびっくりして。話を聞いてみたら、学生時代に私の「SUPER GENERATION」(2006年1月発売の13thシングル。水樹奈々が初めて作詞・作曲を手がけた楽曲)をバンドでコピーしてくださっていたらしくて……!

──やっぱり。調べたら若い作家さんだったので「この人絶対ファンだな」って予想してたんです(笑)。

Elements Gardenのファンだそうで(笑)、レコーディングでは編曲の藤田(淳平)さんに会えて「とても光栄です!」っておっしゃってました(笑)。そんな若い世代の方とこうして共演できることは、すごく幸せです! 新たな発見もたくさんありました。

──続く「Ladyspiker」の中野領太さん、「Rock you baby!」の遠藤直弥さんも今回が初めての共演ですよね。

はい。「Ladyspiker」はデモを聴いて直感で選ばせていただいたのですが、今までありそうでなかった、中低音をメインに構成した楽曲で。次の「Rock you baby!」もそうなんですけど、サビで一気に高くならない(笑)。私の曲は、サビでスコーン!と思いきり高くなったり、音の高低差が激しい楽曲が多いので、この2曲のように中低音をメインで構成した曲は珍しくて、いつもと違ったアプローチができて新鮮でした。

──「Ladyspiker」はアレンジのほうもじわじわとため込んでいくようなロックサウンドですけど、「Rock you baby!」は超ライブ対応というか、グイグイ引っ張っていくようなアレンジなので、中低域を生かしたボーカルがライブでどう表現されるのかも楽しみなところです。

歌詞はライブのステージを想像しながら書いたので、自然と声が枯れるまで叫べ!歌え!という言葉が出てきました(笑)。

ニューアルバム「SUPERNAL LIBERTY」 / 2014年4月16日発売 / KING RECORDS
初回限定盤 [CD+Blu-ray] 3888円 / KICS-93036
初回限定盤 [CD+DVD] 3888円 / KICS-93037
通常盤 [CD] 3024円 / KICS-3036
CD収録曲
  1. VIRGIN CODE
    [作詞:Hibiki / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  2. GUILTY
    [作詞:SAYURI / 作曲:藤末樹・Ramon Riu / 編曲:角田崇徳]
  3. アパッショナート
    [作詞・作曲:水樹奈々 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)]
  4. 笑顔の行方
    [作詞:吉田美和 / 作曲:中村正人/ 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  5. アンティークナハトムジーク
    [作詞:藤林聖子 / 作曲・編曲:古川貴浩]
  6. Fun Fun★People
    [作詞:菜穂 / 作曲・編曲:h-wonder]
  7. FATE
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:陶山隼]
  8. Vitalization -Aufwachen Form-
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:上松範康(Elements Garden) / 編曲:上松範康・菊田大介(Elements Garden)]
  9. 哀愁トワイライト
    [作詞:水樹奈々 / 作曲・編曲:宇佐美宏]
  10. セツナキャパシティー
    [作詞・作曲:丸田新 / 編曲:藤田淳平(Elements Garden)]
  11. Ladyspiker
    [作詞:しほり / 作曲・編曲:中野領太]
  12. Rock you baby!
    [作詞:水樹奈々 / 作曲:遠藤直弥 / 編曲:角田崇徳]
  13. Million Ways=One Destination
    [作詞:前山田健一 / 作曲:伊藤賢治・前山田健一 / 編曲:伊藤賢治]
  14. 僕らの未来
    [作詞・作曲・編曲:矢吹俊郎]
  15. 愛の星 -two hearts-
    [作詞:水樹奈々・吉木絵里子 / 作曲:吉木絵里子 / 編曲:藤間仁(Elements Garden)・上松美香]
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • オリジナルドキュメンタリー「なつのカケラ ~ 水樹奈々 2013夏の出来事」-SPECIAL EDITION-
  • 「SUPERNAL LIBERTY」PHOTO SHOOTING
水樹奈々(みずきなな)

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収めた。2012年12月に通算9枚目のオリジナルアルバム「ROCKBOUND NEIGHBORS」を発表。2013年には台湾にて初の海外公演を行い、同年末には5年連続となる「NHK紅白歌合戦」への出場を果たした。2014年4月には通算10枚目となるオリジナルアルバム「SUPERNAL LIBERTY」をリリース。