ナタリー PowerPush - 宮崎薫

9つの物語で紡ぐ私の世界 メジャーデビュー作「9 STORIES」

まずはそのままの自分を表現することから

──宮崎さんの音楽はほとんどが音がスッカスカで、それはスパイス知らずの天然音楽とも言えるんだけど、ほぼ歌声だけで勝負するというやり方は、自分をちゃんと表さないと、どこに当てていいかわからない音楽になるってことだと思うんですよ。つまり、味の素を入れない料理のようなものだから、自分という素材がおいしくないと話にならないよね。

インタビュー写真

そうなんですね。そこは本当に、まずは自分を表現することからってよく思ってましたね。そのままの自分を……。一番最初に曲を作り始めたときは、曲の中で答えを出してそれを届けないといけないってなんとなく思ってたんですけど、(今作を)作っていく中で、このままでいいんだって思うようになってからは本当に小さい些細なことや自分のパーソナルなことを書くようにしていって。それが響けばいいなって今は思ってます。曲を作りながら自分を見つめ直したり自分と向き合ったりしたときに、意外な自分の一面を見つけたりとかもして。でもそれを人に見せたらどうなるんだろう? そんなのあり得ない、だって引かれちゃうっていうような部分ってきっとみんなあると思うんですよね。でもそれを隠していては自分と向き合えないし、そのままを出す勇気は音楽の中にありますよね。それがちょっと恐いなって思うこともありますけど(笑)。

──その踏ん切りをつけるために、極端な発想とか残酷なほど強い言葉で相手に対する気持ちとか別れの気持ちをつづっている歌詞もあるんですけど。こういうものを歌うことによって自分の中で何が変わっていきましたか?

歌うことで本当にそれが気持ちになっていくというか、言い聞かせていたことがしっかりと自分になるというか。そういう部分はすごくありましたね。何かを決断し切れなかったりするときに、歌って歌って、結果決断できるようになるということはすごくありました。

──今はこうやってアーティストとして活動してるわけですが、学生をやめて社会に出るということは、受け手の人生が終わって送り手の人生が始まったり、受動態が終わって能動態になっていくことで。

そうですね。

──振り返ってみると、この半年間で自分を何が動かし、どうやって自分は社会に適応していったと思いますか?

社会に適応……してるかどうかはわかんないですけど、でも本当になんにもしてくれなくなっちゃうじゃないですか。今までは、先生とか大人がいていっぱいいろいろ教えてくれて、与えられたことをやってれば良かったというか。勉強も教科書を与えられて、「ここからここまでやってきて」って言われてそれをやるということを繰り返してきましたけど、でも今は自分から見つけていかないとなんにもないっていうか。それって恋愛とかも一緒だと思うんですけど、自分でボーッとしてるだけじゃなんにもないんだなっていうことはこの半年ちょっとですごく思いました。だから曲を作るにあたって、自分で何かしなきゃ、どうにかしなきゃっていう焦りはあったと思います。このまんまじゃマズいみたいな、そればかりで。だからこそ、今の自分を切り取ったこのアルバムが、社会人1年目の同じ世代の人たちにどっかで共感してもらえたらいいなとは思ってるんです。

卒業して「卒業写真」の聴き方が変わった

──何曲か曲について具体的にお訊きしたいんですけど。今の自分の立場に置き換えた部分も大きいと思うんですが、ユーミンの「卒業写真」をカバーした理由から教えてください。

ユーミンさんは、「ひこうき雲」「MISSLIM」「COBALT HOUR」とか初期のアルバムが特に好きで。「卒業写真」は3枚目の「COBALT HOUR」に入ってるんですけど、もちろんすごく有名な曲ですし、それこそ小さい頃から学校とかでも歌ったりしてはいたんですけど、なんとなく恋愛の曲だと思っていたんです。昔の彼と今の私みたいなものを思い出して懐かしんで切なくなって、っていう曲だと思ってたんですけど、実際に自分が卒業してみて主人公と同じ立場になったときに──卒業してまだちょっとしか経ってないですけど──「あ、こんな曲だったんだ」って聴き方が変わって。昔の自分と今の自分が自問自答してる曲だったんだって勝手に思ったんですよね。とても有名な曲なのでハードルはすごく高かったんですけど、学生のときのことを思い出すことも多いので、この曲の聴き方が変わった今、すごく歌いたいなと思ってカバーさせてもらいました。

──そして「ByeBye」という曲について語ってください。

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好きだけど離れなきゃいけない、好きだけどうまくいかない、っていう感じって学生の頃に恋愛でよくあったと思うんですよね……。だから、そういう切ない感じの曲だと思っています。

──この中にある「不思議だね 人間って 自分からつらい道 選んでる」って歌詞、名言だよね。

そうですね、確かに(笑)。……「なんでこうしなきゃいけないんだろう?」とか「大人ってなんでこうなんだろう?」とか「好きなのになんで一緒にいちゃいけないの?」っていうような、なんでなんで?みたいな気持ちって子供のときはすごく──まぁ今もあるんですけど(笑)──あったと思うんですよね。でも、大人になっていく中で選ばなきゃいけないわけじゃないですか。年を取るごとに自分の道を自分で決めていかなきゃいけなくて、その中で「なんで?」って思いながらも決断しなきゃいけないっていうのは学生のときとかもやっぱりあったんですよね。そういう、大人になるときに抱く大人への気持ちっていうのがその1行に映し出されてるなと思いますね。

──もう1曲だけ教えてください。「家へ帰ろう」という曲。この曲だけ非常に温かい気持ちにさせてもらえる世界が広がっています。

そうですね。一番仲が良かった子が海外に留学しちゃったんですけど、たまに連絡を取ると、ひとりで向こうに行っちゃってるので寂しいこともあるみたいで。向こうでできた友達にも文化の違いからあんまりわかってもらえなかったりするんだなって、よく思うんです。遠い友達から電話があるときって、多分何かがあったときなんですよね。自分からは何があったとは言わないんですけど、すぐ何かあったなってわかって、こっちから「大丈夫?」って言うんです。そういう友達、長くやってきた友達が今は遠くにいますけど、絶対につながっていられる曲が作りたくて。私はこう思ってるよってことをいつも伝えてはいますけど、それを覚えていてほしいなっていうのはやっぱりあって、そういうふうに友達に届けばいいなって思いながら作りました。

──切ないからこそ気付ける温かさですよね、それって。

そうですね。だから私は友達を励ますっていうよりは、一緒に悲しくなりたくって。友達が悲しかったらやっぱり私も悲しいし、うれしいことがあったら私もうれしいし、十何年友達をやってきてそれは今でも変わらないので、「悲しいときは一緒に悲しくなって」っていうことを伝えたかったんです、すごく。そういう考えとか友情ってたくさんあると思うし、だから何年か後に「9 STORIES」を聴いて「ああ、あのときはこんなんだったな」って今同じ立場の人に思ってほしいし、何年か後の社会人1年生の人も聴いてもらいたいですし。その時々を曲にはしていきたいですね。

メジャーデビューアルバム「9 STORIES」/ 2012年10月10日発売 / avex trax

収録曲
  1. 君と空
  2. ByeBye
  3. 卒業写真
  4. Stay
  5. Gimme your love
  6. さよなら
  7. 家へ帰ろう
  8. タイムカプセルの丘
  9. Graduation from me
DVD収録内容
  1. 「君と空」ビデオクリップ
  2. 「ByeBye」ビデオクリップ
宮崎薫(みやざきかおる)

プロフィール画像

1989年生まれ。東京出身。幼少の頃をロンドンで過ごし、親の影響で常に音楽が身近にある環境で育ち、自然と人前で歌うようになる。学生時代はクラシックバレエとピアノ、トランペットを学びつつ、手伝いで友人のバンドに参加。都内のライブハウスで活動するも「自分で歌いたい」という気持ちが強くなり、ボーカリストとしての自分を再認識する。19歳のとき、音楽の仕事をすることを改めて決意。楽曲制作と同時にデモテープの作成を始める。2011年には地道に送り続けたデモテープが業界関係者の耳に止まり、イベント出演をきっかけに出会ったスタッフとともに楽曲制作を開始する。2012年、大学卒業と同時に音楽活動を本格的にスタートさせた。同年6月、タワーレコード限定にてインディーズデビュー盤「Graduation from me」をリリース。その後10月にはアルバム「9 STORIES」でavex traxよりメジャーデビューした。