音楽ナタリー PowerPush - MIYAVI × テリー・ルイス(Jam & Lewis)

プロデューサーの声で紐解く「Real?」

アーティストをリスペクトするプロデュース法

──曲作りはどういうプロセスで?

2014年3月26日(現地時間)にドイツ・ベルリンのColumbia Clubで行われたライブの様子。(c)Yusuke Okada

テリー できあがったのを聴いてくれればわかるだろ?……っていうのは冗談だけど、今回はとにかく時間がなかった。MIYAVIはミュージシャン以外にも、父親やムービースターの顔もある(※参照:MIYAVI、アンジェリーナ・ジョリー監督映画で役者デビュー)。忙しいんだよ。だから一緒に作業をしたのはほんの数日で、あとは基本的にバラバラだったね。

MIYAVI うん。スケジュールは本当に厳しかった。映画のプロモーションもあったからね。

テリー 逆にこっちはこっちで家族とバケーションを計画していたところだったんだよ、2週間くらい。それをキャンセルしたら家族が悲しむ(笑)。

MIYAVI 父親は大変だよね(笑)。でも、その中でがんばってくれて本当に感謝してる。

テリー MIYAVIのためならがんばるよ。君のことも、君の楽曲もとても好きだからね。そもそも俺が好きでやっていることだから。

MIYAVI 最初にデモを持っていくとき、メロディや構成をもっと変えるって思っていたんだ。でもテリーはアーティストをすごくリスペクトしてくれて。歌詞も英語だったからテリーに協力してもらったんだけど、こっちのテーマやイメージをしっかりくみ取ってくれた。

テリー 制作はすごくやりやすかった。時間的にはクレイジーだったけどね(笑)。

MIYAVI あとサウンドのことでいえば、ジミーもキーボードやトークボックスを足してくれたり、女性シンガーも入れてくれた。最終的にすごくいい雰囲気になったよね。おかげでコマーシャルじゃないっていうか、アーティスティックな部分を表現できたし、今までの“MIYAVI”の感じも意識させながら、さらに新しいベクトルも提示できた曲になったと思うよ。

MIYAVIが何をやりたいのか

──テリーさんは「Real?」のデモを聴いたとき、どういうアプローチをしようと思いましたか?

2014年3月15日(現地時間)にイギリス・ロンドンのO2 Shepherd's Bush Empireで行われたライブの様子。(c)Yusuke Okada

テリー 誰をプロデュースするときもそうなんだけど、まずはアーティストがどういうことをしたいのかを考える。MIYAVIはとても自分自身を持っている人だ。だから彼がどういうことをやろうとしているのかを知り、それを大幅に変えるんじゃなくて、最大限に生かそうと思った。彼のスタイルを最大限に生かして、いいところをより広げるようなイメージかな。

MIYAVI なるほど。

テリー そして結果として今のファンにも気に入ってもらって、できればこの曲がきっかけになって新しい人にも彼を知ってほしい。そう思って作業に臨んだよ。

──信頼関係がしっかりと構築されているようですね。

テリー うん。でもそれはアーティストとプロデューサーという関係だけじゃなくても、人間関係すべてに言えることだよ。信頼し合ってから始めないと。

MIYAVI その通りだね。

テリー そのためには、まずはこちらの心を広げないといけない。互いに弱いところを見せ合えるような関係じゃなければ、その先はない。作業に入ったときにも遠慮したり臆したりすることなく、最後に「あのときは大変だったよね」って笑い合えるような関係を作るのは大事なことなんだ。それが最初のステップだと思うし、もちろんMIYAVIと最初に会ったときもそうしたよ。

MIYAVI 今回テリーにプロデュースしてもらって、いろいろ驚かされたんだ。楽しかったし、アーティストに対するリスペクトをすごく感じるんだよね。テリーのおかげでグルーヴとかまだまだ自分に足りていないところを知ることができたし、だからこそ信頼できた。やっぱり信頼がなければ人と新しく何かを作ろうと思ってもできないんだよね。今回でお互いのことを知れたから、次は何もないところから新しい絵を描くように、“MIYAVI”のイメージを一緒に作るようなことをやってみたいな。

テリー それができたら楽しいだろうな。

MIYAVI そのときはベースを弾いてくれよ。俺ギター弾くから。

MIYAVIは世界に聴いてもらう価値のあるアーティスト

MIYAVI あと今回は、テリーに日本語を使うことの重要性に改めて気付かせてもらっていて。

MIYAVI

テリー MIYAVIは世界中で聴いてもらう価値のあるアーティストだから、いろんな言語で歌ってほしいと思っているんだ。

MIYAVI でも俺は8年くらい前にはまったく英語をしゃべれなかったし、今でも英語で歌うことは簡単なことじゃなくて。伝えたいことが伝われば歌詞はどこの国の言葉でもいいんだけど、テリーはあえて「MIYAVIのオリジナリティだから」ってことで、英語の歌詞に日本語のフレーズを入れることを勧めてくれた。

テリー どこの言葉でもいいんだけど、英語の中に別の言語が入っていることで世界中のリスナーのとっかかりになるんじゃないかって思うんだ。

MIYAVI スペイン語とかは? あとフランス語もいいと思う。フランス人は日本の文化もすごくリスペクトしてくれるし、全然知らないものもそのままアートとして受け入れてくれるからね。

テリー 辞書をたくさん用意しないとね(笑)。

──テリーさんは、MIYAVIさんの最大の武器はどこだと感じますか?

テリー MIYAVIはギタリストとしてももちろん優れているけど、ただそれだけじゃない。何より個性が強い。そしてMIYAVIにはできることがたくさんあるんだ。ギターだけじゃなくて、ほかにも見せていけるものがたくさんあると思う。そういう意味で、映画の出演はMIYAVIの幅を広げるひとつのきっかけになるだろうね。

MIYAVI そうかな。

テリー そしてライブももっと多角的に見せていくべきだ。老若男女が楽しめる演出をしていくのがいいんじゃないか? スピリチュアルな面も見せていくべきだし、みんなに人間性が伝わるような演出をしていくのがいいと思う。君は人に好かれるからね。ほら、MIYAVIがアーティストとしてできることはいっぱいあるんだ。ギターは君の魅力のひとつでしかないよ。

MIYAVI 歌は?(笑)

2014年3月15日(現地時間)にイギリス・ロンドンのO2 Shepherd's Bush Empireで行われたライブの様子。(c)Yusuke Okada

テリー うん。君は歌もダンスもできる。そこにギターがあって演技が加わる。そういったものをライブで多角的に見せて、君の人間的な魅力がみんなに伝わればいいと思う。ステージでの君はすごく魅力があるから、それがもっとわかりやすく表現できたら素晴らしいって思っているんだ。プリンスみたいにね。俺がイメージしているのは、ダンスや芝居なんかがあるようなステージだ。ヒットソングを出すのも大事なことだけど、アーティストとして大事なのはそれだけじゃない。プリンスはアメリカであまりヒットソングは出していないけど、でもそれ以上に自分をうまく見せているから伝説になっているんだよ。そしてMIYAVI、君もそういう存在なんだ。

MIYAVI うーん……すごく考えさせられるね。でもそれが俺のミュージシャンとしての道……というか役割かもしれないよね。

テリー うん。アーティストにも役割はある。今、アメリカではライブ中に観客は写真や動画を撮っていて、みんなが瞬間を楽しまないような世の中になっている。そういうご時世だけど、“今”を実感させるってことも音楽の役割だと思うんだ。

MIYAVI それは「Real?」に込めたメッセージでもあるね。“今この瞬間を楽しむ”。しかしこういう話をしていると、Skypeでテリーと話しているこの時間もより大切にしなきゃと思わされるな。一瞬一瞬に感謝しなきゃね。テリーにはいろいろ教えられるよ。

ニューシングル「Real?」/ 2014年9月10日発売 / Virgin Music / TYCT-30037
[CD] 1296円 / TYCT-30037
収録曲
  1. Real?
  2. Set It On Fire

<Bonus Tracks -Live at Shepherds Bush Empire, London->

  1. Day 1
  2. Cry Like This
  3. Ganryu
  4. Survive
  5. Horizon
ライブDVD「MIYAVI, THE GUITAR ARTIST -SLAP THE WORLD TOUR 2014-」/ 2014年9月10日発売 / Virgin Music / TYBT-19009
初回限定盤 [DVD2枚組] 8100円 / TYBT-19009
DVD 1収録内容

The Documentary Film of SLAP THE WORLD TOUR 2014(※日英字幕付)

DVD 2収録内容<Tour Final Show at Zepp DiverCity, Tokyo>
  1. Horizon
  2. Strong
  3. Chase It
  4. Justice
  5. Secret
  6. A-Ha
  7. Selfish Love -愛してくれ、愛してるから-
  8. Silent Anger
  9. Guard You
  10. Cry Like This
  11. No One Knows My Name [Slap It]
  12. Survive
  13. Futuristic Love
  14. Day 1
  15. Ganryu
  16. Ahead Of The Light
  17. Free World
  18. What's My Name?
  • 48Pツアースペシャルブックレット(ライブ写真+MIYAVI、BOBOインタビュー)

※通常盤は、初回限定盤終了後より販売予定。

  • MIYAVI(ミヤヴィ)
    MIYAVI

    1981年大阪府出身のソロアーティスト / ギタリスト。エレクトリックギターをピックを使わずにすべて指で弾くという、独自のスラップ奏法でギタリストとして世界中から注目を集めている。これまでに北米、南米 、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなど約30カ国で250公演以上のライブを行い、4度のワールドツアーを成功させている。2010年10月リリースのアルバム「WHAT'S MY NAME?」では、ギターとドラムのみの編成でロック、ファンク、ヒップホップ、ダンスなどジャンルを超越したオリジナルなサウンドを確立。2012年11月にさまざまなジャンルの“サムライアーティスト”とのコラボレーションアルバム「SAMURAI SESSIONS vol.1」を発表した。アーティストやクリエイターからも高い評価を受けており、CMへの楽曲提供や、布袋寅泰、野宮真貴、Good Charlotteらの作品への参加など、精力的な活動を続けている。2013年6月には、自身の名を冠した海外デビューアルバム「MIYAVI」をリリース。さらにアンジェリーナ・ジョリー監督によるハリウッド映画「UNBROKEN」へ出演することが発表されるなど、活動の幅を広げていく。2014年にはSMAPのシングル「Top Of The World」を作曲し話題を集め、9月には世界ツアーを収めたライブ&ドキュメントDVD「MIYAVI, The Guitar Artist -SLAP THE WORLD TOUR 2014-」と、Jam & Lewisをプロデューサー迎えたシングル「Real?」を同時リリースした。

  • Jam & Lewis(ジャムアンドルイス)

    ジミー・ジャムとテリー・ルイスによるアメリカのプロデューサーユニット。ファンクバンドThe Timeとして、プリンスのバンドでデビューした。The Timeの活動と並行して、The S.O.S. Bandをはじめさまざまなアーティストのプロデュースを手掛け着実に実績を積む。The Time脱退後プロデュースワークを本格化させると、ジャネット・ジャクソンが1980年代に発表した「Control」「Rhythm Nation 1814」などを手掛け人気を不動のものにした。1990年代にはマライア・キャリーやBoyz II Men、メアリー・J.ブライジなどのプロデュースを担当しヒットを連発。2000年代以降は活動を控えつつも、2007年にチャカ・カーンの「Funk This」を全面プロデュースしグラミー賞を受賞するなどシーンに存在感を示している。なお邦楽アーティストのプロデュースも行っており、宇多田ヒカル「Addicted To You」「Wait&See ~リスク~」などがヒットを記録した。