ナタリー PowerPush - 加藤ミリヤ

彼女の孤独と本当の姿

加藤ミリヤのニューシングル「Lonely Hearts」は、8年前に発表された自身の代表曲「ディア ロンリーガール」に通ずるテーマを持った、現代のティーンに贈るメッセージソング。ビデオクリップには、恋愛問題、友達関係、ネットを使ったいじめなどにもがき苦しむ少女たちの物語が克明に描かれている。

今回のインタビューでは、ミリヤの曲名に頻出する「Lonely」というキーワードについて聞いた。彼女はさらに、大人へ嫌悪感を持っていた理由や孤独感を抱くようになった発端、「スイーツ系」とも揶揄される自身のパブリックイメージといった語りづらいテーマに対しても真剣に向き合い、正直な胸中を打ち明けてくれた。

取材・文 / 鳴田麻未 撮影 / 上山陽介

「ディア ロンリーガール」を出して「私がやるべきことはこれなんだ!」

──今回リリースされる「Lonely Hearts」は「『ディア ロンリーガール』から8年。もがき苦しむティーンのための、時代の代弁者からのメッセージソング」というキャッチコピーが付いていて、「ディア ロンリーガール」を彷彿とさせる曲調と歌詞が特徴ですね。長い目で見ても、ミリヤさんのキャリアの中で大きな意味を持つ作品になりそうだと感じました。

加藤ミリヤ

そうですね。私も来年10周年を迎えるし、加藤ミリヤの音楽ってなんなんだろうって思いながら過ごしてはいて。私が自分で曲を作って歌う人間として何を伝えたいかというと、今は特にメッセージ性が重要だと思うんですね。中でも本当に自分にしかできない歌の表現はなんだろう、と考えてました。その中で、私のターニングポイントになった曲「ディア ロンリーガール」が浮かんだんです。

──「ディア ロンリーガール」は加藤ミリヤの名を世の中に広めた曲ですが、自分でもあの曲が最初のブレイクポイントだったという自負がある?

はい。あれは10代のときに書いた曲で、同世代の女の子たちが自分に注目してくれるようになったきっかけの曲です。「ディア ロンリーガール」を出してから明らかに、ライブに来るのがほぼ全員女の子になったんです。その前まではヒップホップやR&B路線の曲が多かったから、お客さんも特にB-BOYが多かったし。

──デビュー曲(「夜空」)がBUDDHA BRAND「人間発電所」のサンプリングですからね。

そうそう。で、「ディア ロンリーガール」を作った頃は、自分も高校に通ってたし、歌手活動もがんばりたいけどわりと手探りだったし、自分とか世の中に対してモヤモヤした気持ちを持っていて。そのとき思っていたことをとりあえず書こうと思って作ったんです。そしたら、本当に景色が変わったんですよね。すごいたくさん女の子から手紙が送られてくるようになって、「自分のこういう思いを歌にしてくれる歌手の人なんていなかったけど、初めてそういう人に出会えた」「これは私たちの曲」みたいな。そのとき、「私がやるべきことはこれなんだ!」って思ったんですよね。

──ミリヤさんの中でも意識改革がなされたと。

それまではやっぱり自分のために、自分を救いたくて曲を書いてた。でもその時点で、もう私が書く歌は“私”のためじゃなくて、“私たち”のためだって。私たちの曲を書くっていうことが自分はやりたいし、やるべきことだ!って思いました。それからずっと、そういう気持ちが続いてます。

──なるほど。それでなぜ今、このタイミングで「ディア ロンリーガール」と同じような題材を扱おうと思ったんでしょうか?

加藤ミリヤ

最近自分が一番気になっていることなんですよね、ティーンの子たちが今何を考えてるのかっていうことが。私、雑誌の「Popteen」の連載で、現役の女子高生たちと毎月1回必ず実際に会って、話してっていう時間を持たせてもらってるんですよ。じゃないと今回の歌詞は書けなかった。自分が大人になって、いじめとかのトピックスが遠くなっちゃた今、何を考えてるかもわかんないし。でも会ってわかることってやっぱりたくさんあって、それですっごい心が揺さぶられたんですよね。

──うんうん。

今回は、思い悩んでた10代のとき、自分がもし加藤ミリヤの曲を聴いたとしたらどう思ってたんだろう、とか考えました。モヤモヤした心が一瞬だけでも軽くなったのかなって。それで、またそういう曲を書こうって思ったんです。

──サウンドの方向も回帰した感がありますね。

最近私のシングルは4つ打ちがメインで、それは踊りのエンタテインメント性を自分のライブに持たせたかったっていうのがあるんですけど、この前に出した「EMOTION」がダンスを題材にしたドラマの主題歌になったり、ダンスコンテストの課題曲になったりして、ダンスと自分の音楽がつながった感じがある程度したから、4つ打ちはちょっとここで1回休憩しようと思うことができたんですね。それが1つと、今作のようなR&B、ヒップホップの方面はやっぱり自分が一番好きな音楽なので、それをやりたいなという気持ちはもともとありました。

間違ってるのに誰も言い出さないことに警鐘を鳴らしたい

──まずこの曲のターゲットを明確にしておきましょう。何歳から何歳までの方を想定して書かれましたか?

11歳から18歳ぐらいかな。いわゆる反抗期、思春期の時期。その子たちに向けて書いたし、その子たちに届くようにプロモーションをしていきたいって話もシングルリリースに当たって話しました。

──ビデオクリップには、過激だけどリアルな描写がたくさん出てきますね。イケてる友達についていこうと必死に振る舞う女の子、いじめが原因で退学したことをインターネットの掲示板で話題にされる女の子、校内でキスしているレズビアンのカップル、彼氏に暴力を振るわれても好きでい続ける女の子……ああいう姿をPVで表現しようと思った理由というのは?

今回は、深く傷付いたことある人たち同士、寄り添い合って生きていくことができるってことを伝えたい曲なので、ビデオもそういうのを明確にしました。今実際に若者に起きてる問題を、若い人と遠ざかってる大人にもちゃんと伝えたいし、私は美しい愛だけじゃなくて、それ以上にもっと深いドロドロした部分を表現したくて。なのでビデオには、愛で傷付いている人たちをたくさん出してあげたいなって思いました。

加藤ミリヤ

──表現に対する規制も厳しい昨今、直接的だったりハードだったりするシーンを盛り込むのは勇気が要りますよね。

そういう、テレビでは取り上げづらかったり、目を背けたくなることに真っ正面から向き合っていきたいんです。例えば男性同士の同性愛は最近テレビでもよく観るけど、レズビアンの方たちはなかなか日の目を見ないですよね。なんで受け入れられないのかなって考えて、ちょっとでも誤解があるんだったらそれを正したいと思ったし、間違ってるって思ってるのに誰も言い出さないことに対して警鐘を鳴らすというか、私はそういうことをやりたいですね。あとビデオは、ティーンにこだわってキャスティングしているので、10代の子にしか出せないヒリヒリ感みたいなものが出せたかなって。

──実際、今の中高生が抱えている問題ってかなり深刻だと思いますか?

思います。まあ本当に人によると思うんですけど。親に大切にされてないって感じる子たちだったり、虐待されてる子もいます。そういうのを自分の歌で救えるなんて大それたことは思ってないんですけど、ただフッと寄り添いたいっていう気持ちだけは強くあるんです。私は自分が音楽によって救われたから、少しでもそういうふうに思ってもらえたらいいなって思いながら曲を書いてます。

ニューシングル「Lonely Hearts」 / 2013年10月2日発売 / Sony Music Records
「Lonely Hearts」初回限定盤 [CD+DVD] 1680円 / SRCL-8359~60
「Lonely Hearts」通常盤 [CD] 1300円 / SRCL-8361
CD収録曲
  1. Lonely Hearts
  2. Only U
  3. Aitai (Loneliness Remix)
  4. Lonely Hearts (Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • Lonely Hearts -Music Video-
加藤ミリヤ(かとうみりや)
加藤ミリヤ

1988年生まれ、愛知県出身のシンガーソングライター。2004年9月にシングル「Never let go / 夜空」でメジャーデビューする。その後「ECDのロンリーガール」のアンサーソングである「ディア ロンリーガール」、UA「情熱」をサンプリングした楽曲「ジョウネツ」など話題作を数多く発表。10代女性からの共感を呼ぶリアルな歌詞が魅力で、同年代女性のカリスマとして支持されている。2009年5月には同い年の清水翔太とコラボシングル「Love Forever」を発表し、人気アーティスト同士の共演は大きな話題を集めた。また同年11月には初の日本武道館ワンマンライブを開催。2011年に初のベスト盤「M BEST」でオリコン週間ランキング初登場1位を記録する。2013年10月には、ティーンの悩みに寄り添ったメッセージソング「Lonely Hearts」をリリースした。