山なんて持ってません

──完全に抜けてますね。

松尾　だけど、俺は奥さんとの不仲の件はお金の話だと思う。要するに、「魔物」をどうやって運営していくかっていう話を聞くと、これは成田家は壮絶に負債を負ってるんですよ。

──本人の無邪気な行動によって。

松尾　そうなんです。そして、山があったわけではないんです！ それを聞いたら心が痛くなっちゃって。

──みんな「あいつは金持ちだからタカッちゃえ！」ぐらいの感じでいるけど……。

松尾　そうなんですよ！ 成田は金払いがいいとか、そういう話じゃないんですよ。違うんですよ、山はない！

──つまり、金もそんなにない！

成田　サービスで「山を売って（笑）」って言ったことはあるんですけど、山なんか持ってなくて、おじいちゃんや父が土地を売ってくれたことはありますけど。

松尾　それまでは俺も、金持ちのボンボンの道楽で、親が負債を被ってカバーしてるような話だと思ってたけど、もうちょっとエグいんですよ、実際は。

──奥さんにとっては「またフェスやって赤字を出されたら困るのに、あなたは何やってんのよ！」っていう普通の話で。

松尾　そう、普通の話なんですよ。そこが抜けてるんです。だから俺はホント心が痛くなっちゃって。例えば「夏の魔物」というロックフェスが今回10回目で辻褄が合えばいい、要するにお客さんが少なくたって黒字を出せばいいんですよ、お金の話だけでいえば。でもこの人、どうにもこうにも数字の結果を出すことに関してあまりにも無謀なの。

──リアリティがないんですよね。去年も「お客さんが入らなかったら今回でやめますよ」とか言ってたけど、赤字でもまたやるんだろうなっていう感じが常にあって。

松尾　やるのはいいんだけど、そのへんの結果が10回目にしてどう出るのかっていうことが僕の今の関心ごとなんですよね。

TOSHI-LOWから言われたこと

成田　去年、TOSHI-LOW（BRAHMAN、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND）さんに怒られたんですよ。

──「お前らがちゃんとするまで出ない」って言われ続けて、「ちゃんとしたから出てください」ってオファーして。

成田　実際、歳を重ねるにつれて、タイムテーブルがきっちりとしてきたりとか、そういうフェスとしての形はちゃんとしてきたんです。ただやっぱり、家族が介入する部分がうちのフェスは多くて。僕が気付いていない間にも、母がメインステージでマイクでしゃべるとか。そういうのを見て、TOSHI-LOWさんが「お前のフェスなのに、家族が前に出てきてる。お前がやってるんだから、家族は切り離して、自分でしっかりやれ。それで初めて『夏の魔物』が形になる。そのときにもう1回出てやるから」みたいなことを言われて。

──ステージでキレてたって噂は聞きましたけど。

成田　TOSHI-LOWさんですか？ まったくキレてないですよ。キレたのはダイノジの大地さんが泥酔してBRAHMANのライブに乱入して……。

──ステージに居座っていた大地さんにキレてTOSHI-LOWさんが彼をブン投げたけど。

成田　でも本番が終わってからも、TOSHI-LOWさんに挨拶に行ったら「今日すげえいいイベントだった」って言ってくれて。「今日はプロレスとかアイドルとかいっぱい出てるけど、自分はバンドが一番だと思ってやってるから。そういう気持ちを持って『魔物』に出たし、そういうライブをしたと思う」って言ってくれて。ただTOSHI-LOWさん的には、家族にお金のことも含めてすべてを頼るのはやめろってことで。今年は、頼らずやろうとこのとき決心しました。

松尾　違うんだよ。成田くんはそうやって言うじゃないですか。けど、お母さんの話を聞くと、お母さんはがんばってますから、そりゃアナウンスぐらいしますよ！

思い通りにならない理由

──お母さんが悪いわけじゃなくて、お母さんが何かをやらざるを得なくなる状況が悪いわけで。

松尾　自分の理想はあるのよ。だけど自分が思ってることをみんなが共有してると思っちゃってる人だから。

──説明不足が原因で次々と人が離れていくっていう。

松尾　そうなんですよ。だけど現実的に家族が動いてるわけだから、それは切り離せないですよ。

──地元でずっと地道にやってるわけですからね。

松尾　そうそうそう！ お母さんはお母さんで、むっちゃこの人のことを思って一所懸命やってて。成田くん本人も自覚してるのに、ホント人の気持ちの細かいところを見ないんだよ。でも本人が考えてることは非常に前向きなことばかりだし、行動力はすごい。実際、今回メジャーデビューってことも含めて結果になって表れてるんですけど、メンバーや家族の気持ちは1人ひとり違うっていう部分がホント見事にすっぽ抜けてるから。

──今回のインタビューの前半部分みたいなことですよね（笑）。

松尾　まず目標を掲げる部分があって、そこはできてると思うんですけど、現実的な部分に関してはメンバーだって家族だってホントに細かく対応していかないと、誰もついて来ないんですよ。それを当事者なのに優柔不断だから、「自分が目標に向かって進みたいんなら全部ちゃんとしなきゃダメだよ。それができないんだったらやめたほうがいいんじゃない？」ってハッパかけといたんですけど。自分のやりたいことはこうなんだって言ってるだけじゃダメですよ。

成田　そうですね。その通りです。

松尾　もっと大きな人間になれよって言ってるんですけどね。