音楽ナタリー PowerPush - きのこ帝国

進化の先に見つけた原点「フェイクワールドワンダーランド」

荒削りだった部分が洗練されて届きやすくなった

──きのこ帝国が今までやってきたシューゲイザーとかオルタナティブロックっていうフィールドは広がっても限度があるというか、本当に好きな人はいるけれどもシーンとしてはやっぱりそんなに大きくないと思うんです。これまでアンダーグラウンドなシーンにいたバンドが今回みたいなポップでわかりやすい作品、要は“売れ線”のものをリリースするのって勇気がいることなんじゃないかなとも思うんですが。

そんなことはないですね。私たちの中では「渦になる」がオリコン10位に入ることだって別にかまわないというか、そうなってほしいと思ってやってきてるんです。「渦になる」から「フェイクワールドワンダーランド」までずっとメインストリームをやってるつもり。自分たちはずっと歌モノバンドで、そこにいろんなアプローチがサウンドとしてあるよっていう提示の仕方をしてきたつもりだったんです。でもその感覚は世の中とは乖離していて、周りからはシューゲイザーだとかサブカルみたいなくくりで語られちゃうんですけど。

佐藤(Vo, G)

──これまできのこ帝国がやってきたことは全部地続きなんですね。その中でわかりやすさが増してる感覚はありますか?

うーん、まあ客観的に見たらそうなのかもしれないですけど、こっちからすると荒削りだった部分が洗練されていってるっていうイメージですね。自分たちがやりたかったことがちゃんと整理整頓されて、ちゃんと聴かせて届けられるようになってきたみたいな印象のほうが強いです。

──なるほど。荒削りな頃の音楽については今どう感じてますか?

あのときのライブの感じは今でもカッコいいと思ってます。でもそれってなんかずっとはやれないんですよね。今の気持ちの音楽を今の気持ちでやることが強いということを過去の経験でわかっているので、あまり昔に引っ張られないで表現したいなって思います。

音楽を好きじゃない人に響く音楽はすごい

──洗練されてきたことによって、きのこ帝国の音楽がさらに幅広い層に広がっていく気がします。

だといいですね。みんな音楽を聴き始めるきっかけって街中で流れてるJ-POPだとかを初めて覚えて歌ってみたいなことが多いと思うんですよ。自分も岩手出身なのでわかるんですけど、田舎って音楽に関しても情報量がものすごく少なくて。そういう売れてるものしか入ってこないっていう世界の中でも自分に響いてくる曲があったっていうことは覚えていて、音楽を聴いたときの原体験をいまだに大事な気持ちとして持ってるというか。音楽を好きじゃない人に響く音楽ってすごいんですよ。それを作るのってたぶんすごく難しくって。でもそれがやれたらなんか音楽家としてはもう冥利に尽きることだと思うんです。だから音楽に詳しい人とかいても全然えらいと思わないし、純粋な気持ちでみんな音楽を聴いたらいいのになっていうふうにいつも思ってるんですけどね。

──「東京」という曲には今佐藤さんが言った「音楽を好きじゃない人に響く音楽」が多いですし。

初めてそこに近付いた感じはします。くるりさんであったり、銀杏BOYZさんであったり、桑田佳祐さんであったり。いろんなアーティストが「東京」というタイトルのいわゆる名曲を発表してますしね。

佐藤(Vo, G)

──「東京」っていうタイトルの曲は田舎の子がコンビニで流れてるのを聴いても「わあ、いい曲」って思うような曲じゃないといけないわけですよね。そういう曲が書けた今、きのこ帝国はこれからどうなっていくんでしょう?

内緒にしておきます(笑)。でもいい曲作って、いい音鳴らして、完成したものをちゃんと世に出すっていうのができたらいいなって思います。

──今と変わらずということですね。

そうですね。変わらずだけど、稼働量を増やそうと思ってます。毎日サラリーマンのように朝7時とかに起きて夜7時くらいまで曲を書いたり働いたりしてっていうのやろうかなって。社会人としての自覚を持とうと思ってます。来年ぐらいから(笑)。

ニューアルバム「フェイクワールドワンダーランド」 / 2014年10月29日発売 / 3024円 / DAIZAWA RECORDS / UKDZ-0159
「フェイクワールドワンダーランド」
収録曲
  1. 東京
  2. クロノスタシス
  3. ヴァージン・スーサイド
  4. You outside my window
  5. Unknown Planet
  6. あるゆえ
  7. 24
  8. フェイクワールドワンダーランド
  9. ラストデイ
  10. 疾走
  11. Telepathy/Overdrive
ライブ情報
CITY GIRL CITY BOY

2015年1月15日(木)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:15 / START 19:00
料金:前売 3500円(ドリンク代別)

2015年1月21日(水)東京都 赤坂BLITZ
OPEN 18:15 / START 19:00
料金:前売 3500円(ドリンク代別)

きのこ帝国(キノコテイコク)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」、同年12月に5曲入りCD「ロンググッドバイ」を発売。2014年2月に初の東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブを成功させる。同年9月に100円シングルとして「東京」を先行リリースし、10月に2ndフルアルバム「フェイクワールドワンダーランド」を発表。2015年1月には東京と大阪の2会場で単独公演「CITY GIRL CITY BOY」を開催する。