ナタリー PowerPush - KEI

人気ボカロPとサニーデイ田中貴が共闘する理由

宅録派ミュージシャンの苦悩

──なんかさっきからKEIさんの証言と田中さんのお話が食い違うんですよ。KEIさんはぜんぜん田中さんに丸投げなんかしていない。ちゃんとプレーヤーとしてプロデューサーと対話しているじゃないですか(笑)。

KEI

KEI でも最終的な判断はやっぱりお任せなんですよ。「弾いたほうが楽しいから」っておっしゃってくれたので実際に全曲で弾いてみたわけですし。

──実際楽しかったですか?

KEI 録ってるときはホント苦しかったです!

田中 いつも1人で録ってるから、ほかのミュージシャンを待たせている感じに慣れなかったんでしょ?

KEI そうなんですよ!

田中  僕らはまあさすがに慣れましたけど、それでも「あっ、今のフレーズちょっと直したいからもう1回やらせてよ」ってなったとき、みんなを待たせていることがちょっと気になったりしますからね。

KEI 先輩をお待たせしている感じがホントにつらかったです(笑)。

田中 あと、ミックスのときにもちょっとやりとりはありましたね。これはKEIくんに限らずなんですけど、1人で宅録しているとどうしても音を重ねすぎるんですよ。でも、実際にスタジオで鳴らしてみると、音の飽和状態が起きちゃっていて「このギターフレーズ、ぜんぜん聞こえてないよ」「この音、入れなくていいんじゃない?」っていうことも起こるんですよね。

KEI なのに、僕は「入れたい、入れたい」と(笑)。

田中 でも、たとえレコーディングしたものであっても、4~5人で実際に演奏しているバンドサウンドっぽさは生かしたかったので「5人組でこんなにたくさんギターが鳴ってたらおかしいだろ」みたいなところについては、きちんと話し合いながら、一番聴かせたいフレーズがきちんとポーンと出てくるミックスバランスを探ってみました。

バンドマン同士だから同じ言葉を持っている

──メンバー間の雰囲気や現場の雰囲気はいかがでした?

田中貴

田中 ボカロ曲っていうこともあって、リハやレコーディングのときにはクリック以外に歌メロも一緒に流していたんですけど、それはかなり新鮮な体験でしたね。楽器隊がアレンジを固めたり、レコーディングしたりする前からボーカリストが歌っていることはまずないので(笑)。ただ、結局のところバンドをやっている者同士だから、リハもレコーディングもすごくやりやすかったですね。初対面でパッとスタジオに入っても「この曲のこのフレーズって○○ってバンドの××っていう曲の感じだよね」「あっ、それですそれです」って感じでちゃんと言葉が通じるから。

KEI 確かにあの雰囲気を共有できている感じはホントに面白かったですね。その共有できる相手が田中さんたちっていうのもホントにうれしかったですし。

田中 逆にKEIくんから「あっ、わかりますか?」って言われて「そりゃわかるだろ!」って答えたりね(笑)。「お互いバンドをやってるんだから、考えてることくらいすぐにわかるよ」って。だから、もし今回プロデュースするのが「ボカロだけでやってます」「バンド経験はありません」「ギターは弾けません。打ち込み1本です」っていうボカロPだったら、もっと制作期間が必要だったのかもしれない(笑)。でも、KEIくんはバンドをやっているし、ライブハウスに立っている。ネットで人気を集めてメジャーデビューというように、僕らとはアプローチの仕方は違うんだけど、基本的な姿勢は一緒。だから、こっちも刺激を受けつつも、ものすごく身近に感じられたんですよね。

KEI ありがとうございます!

「オレ、スピッツにはなれないわあ」

──この豪華な布陣とともにメジャー1stアルバムを完成させた今、KEIさんがやってみたいことってありますか?

KEI できるだけ多くの人にこのアルバムを聴いてはもらいたいし、そういう内容に仕上げた自信はあるんですけど「このアルバムで売れてやる!」っていうガツガツした気持ちはないんですよねえ。これからも今回のように恵まれた環境で音楽を作り続けられればいいな、って感じですね。それが自分にとって一番楽しいことなので。

──田中さんってサニーデイ・サービスでデビューした頃、そういうガツガツした気持ちってありました?

田中 最初はあったかなあ。「なんでオレらのよさがわからねえのかな?」みたいな気持ちは。でもまあ、途中であきらめましたね。「オレ、スピッツにはなれないわあ」って(笑)。

KEI あはははは(笑)。

──実は出会うべくして出会った2人だったのかもしれない(笑)。

田中 ただKEIくん自身には具体的な目標や予定はないのかもしれないけど、僕としては、今やっている別のプロジェクトで楽曲提供なんかをお願いしたいな、とは思ってますね。作家としてすごく能力があると思っていますから。

──おおっ!

田中 今回、僕がボカロPをプロデュースしますっていうことが発表されてから、レコード会社のディレクターさんとかからけっこう聞かれるんですよ。「KEIさんってどんな感じの人なの?」って。たぶんその人たちってこれまでボカロシーンにはあんまり興味はなかったんだと思うんだけど、僕が携わっているということでちょっと気にしてくれているみたいなんですよね。「えっ、田中くんがやってるの? で、どういう人なの?」って。だから「いろんな曲を書けて面白いソングライターですよ」って答えてはいるんですよ。

──さっき田中さんがいらっしゃる前にKEIさんが言っていたのがまさにそういうことなんですよ。バンドマンであり、ボカロPでもあるんだから、ロックシーンとボカロシーンの架け橋のようになれれば、って。

KEI できればそういう存在を目指したいんですよね。繰り返しになっちゃうんですけど、それが今回田中さんにお願いさせてもらった理由の1つでもありますし。

田中 うん。そのディレクターさんが興味を持ってくれたように、サニーデイなり相対性理論なりを聴いてくれていて、これまでボカロには取っつかなかったような人たちが聴いてくれるといいな、とは思いますね。

左からKEI、田中貴
ニューアルバム「dialogue」 / 2013年2月20日発売 / GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
初回限定盤 [CD+DVD] / 2625円 / GNCA-1346
通常盤 [CD] / 2100円 / GNCA-1347
CD収録曲
  1. dialogue
  2. タワー
  3. 走れ
  4. 隔離病棟
  5. 声で言葉で
  6. アイラビユーアイニジュー
  7. Hello, Worker
  8. ピエロ
  9. mercy
  10. Neverland
  11. ユートピア
  12. エコー
初回限定盤DVD収録内容
  • Dialogue PV
  • Interview about "dialogue"
KEI(けい)

ロックバンド・NO LEAF CLOVERのハヤシケイ(G, Vo)のソロ名義。2008年2月、ニコニコ動画にボーカロイドナンバー「スターシップ」を投稿したところ、瞬く間に注目を集め、以来、ギターロックを基調としたアップリフティングながらもどこかシニカルな楽曲を立て続けに発表。ニコニコ動画ユーザーを中心に高い人気を獲得する。2013年2月にアルバム「dialogue」にてメジャーデビュー。

田中貴(たなかたかし)

1994年、メジャーデビューの3ピースバンド、サニーデイ・サービスのベーシストとして活動する傍ら、タルトタタンのサポートベーシストや、声優ユニット・ワンリルキスのプロデュースなども手がける。また2013年2月にはボーカロイドプロデューサー・KEIのメジャー1stアルバム「dialogue」のプロデューサーも務めた。