ナタリー PowerPush - 川田まみ

“青臭い大人”の挑戦が生んだ新機軸

楽しくてうれしくてハッピーな音楽をやるということ

──ずばり、川田まみの真髄とは?

言葉にしてしまうとありきたり過ぎるんですけど、自分に正直に楽しく音楽をやっていきたかったんだなって。最終的に自分自身が楽しくてうれしくてハッピーな音楽をやって、それを聴いたみんなが喜んでくれるっていうことが、一番いいことなんだろうなって思ってます。「バンドと一緒に川田まみの真髄を追求しなきゃ」って考え込んでるのと、クラブでビール片手に歌ってるのって、矛盾しているように見えるかもしれないんですけど、実は一緒。バンドについて悩んで悩んで、その結果メンバーと合わせた瞬間、すごくいい音が鳴ったらそれはやっぱり楽しいしハッピーなことですし。ビールを飲むのももちろん楽しいですし(笑)。そういう意味ではクラブで歌うこともバンドと音を合わせることも私にとっては同じことだし、CDも同じ。今回の「Break a spell」もかなり真剣に楽しんで作りましたから。

──それは聴いていてちゃんと伝わりました。まず「東京レイヴンズ」のエンディングを観て、ビックリしたんですよ。1クール目のエンディング曲、南條愛乃さんの「君が笑む夕暮れ」はオーガニックなバラード。「本編では派手なバトルなんかもありましたけど、最後にホッとひと息ついてください」って感じの曲だったのに……。

ねえ(笑)。

──あはははは(笑)。8ビート主体のキレのいいビートとリズムギターの上に、アップダウンの激しいメロディラインと、ぶっといシンセが乗っかっている。前作「FIXED STAR」の正統進化形。洗練されていながらもまず聴いたことがなくて、でもエモいロックナンバーで。

Aメロ歌うのホントに大変なんですよ(笑)。いつも私の曲って作曲がI'veの中沢(伴行)さんで、アレンジが中沢さんと尾崎(武士)さんなんですけど、今回は作曲が尾崎さんなんですね。しかも尾崎さんはシングルA面の曲を書くのは今回が初めてで、すごく気合いが入ってたんですよ。なのでアレンジャーの中沢さんも含めて、打ち合わせもしたんですけど、いつもほど曲にはタッチしなかった。基本的には尾崎さんに託したら、この曲ができあがってました(笑)。

──そして川田さんもOKを出した、と。

そうですね。レーベルやアニメのスタッフさんから「ノリのいい曲をお願いします」っていうオーダーがあったからこういう曲にしたっていう部分もあるんですけど「ならエンディングっぽくないことをやれるんじゃん?」って。

言ってしまえば中2なんですよ、中2

──なぜそういうチャレンジを?

以前のインタビューでもお話したんですけど、I'veって過渡期に差し掛かっている気がするんですよね。キャリアを積んだことでできることは増えてきたんだけど、落としどころが見えやすくなってきてしまったというか。うっかりするとそこに落ちてしまいそうで。でも私も尾崎さんも中沢さんも音楽に対する初期衝動や青臭さみたいなものは今も変わらず持っているつもりなので、変に余裕を見せて「こうでしょ」っていう曲は作りたくないですし。キャリアを積んだ私たちなりの青臭さをいかに表現してみたかったんです。まあ、言ってしまえば3人とも大人なのに心が中2なんですよ、中2(笑)。

──あはははは(笑)。

ただ経験はあるから、中2的な作り方をしても川田まみの作品としても、「東京レイヴンズ」のエンディングテーマとしてもブレないだろうっていう自信はありましたし。あと、私個人の話をするなら、最近曲との関わり方が変わってきてるから、こういう曲ができたのかなっていう気はしています。「Break a spell」はその関わり方が変わった第1作目で、曲を尾崎さんにほぼ完璧にお任せしたように、歌詞ともどこかそういう感じで向き合ってたんですよ。

──でも作詞家は川田さんですよね?

そうなんですけど、曲や「東京レイヴンズ」に対してちょっと客観的でいられたんです。以前の私は音にも詞にもタイアップ先の作品にも、周りが見えないくらいずっぽりハマっちゃってたんです。アニメの主人公と心の中で対話する感じというか「お前なんなのよ?」「お前のことわかんねえよ」みたいな感じでとことんアニメと付き合っていた。

──「とある魔術の禁書目録」の主人公の上条当麻のことを「暑苦しいから嫌いだ」って言ってましたもんね(笑)。

そうそうそう(笑)。でも対話を重ねていくうちに「なんだいいヤツじゃん」ってなって。そうやって共鳴しながら作っていたんですけど、今回は「私が川田まみをプロデュースする」っていう感覚だったんです。私が川田まみという人と(「東京レイヴンズ」の主人公)土御門春虎が手を繋げるように仕向けた感じがしていますね。アニメや楽曲の外側に立って「なるほど。『東京レイヴンズ』っていう作品があって、春虎っていう主人公がいて、エンディングを歌う川田まみって人がいる、と」「じゃあ川田まみはこの作品や春虎に対してこういう感じでアプローチすればアガるじゃん?」って、俯瞰で作ってみたのが今回の曲なんです。

──俯瞰に立とうと思ったのはなぜ?

これが自分でもよくわからないんですよ(笑)。もしかしたら最近、Rayちゃんの曲の作詞をさせてもらったりしたことで、楽曲をバックアップする作家的な意識が芽生えてきたからなのかもな、っていう気もしてるんですけど、あんまり自覚はなくて。なんか気付いたら表現の仕方が変わってきた感じなんです。

ニューシングル「Break a spell」 / 2014年2月26日発売 / NBCユニバーサル・エンターテイメント
初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 / GNCV-0034
初回限定盤 [CD+DVD] 1890円 / GNCV-0034
通常盤 [CD] 1260円 / GNCV-0035
CD収録曲
  1. Break a spell
  2. remaining snow
  3. Break a spell(instrumental)
  4. remaining snow(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
  • Break a spell PV
  • PV Making
  • TV Spot -in stores now ver.-
川田まみ(かわだまみ)

2月13日生まれ、北海道出身の女性シンガー。学生時代から歌手を志し、2001年に島みやえい子の推薦でI'veのオーディションに参加し合格。同年11月に発表された「風と君を抱いて」で歌手デビューを果たす。2004年6月にリリースされた「I've Girls Compilation 6『COLLECTIVE』」収録曲「IMMORAL」「eclipse」で高評価を受け、2005年2月に中沢伴行プロデュースによるシングル「radiance / 地に還る~on the Earth~」でソロデビューした。以降、さまざまなアニメのテーマソングを手掛け、独特の繊細なビブラート、透き通るように伸びやか、かつ力強い歌声で幅広い層からの支持を獲得。2012年8月に通算4枚目のアルバム「SQUARE THE CIRCLE」をリリースし、2013年2月には初のベストアルバム「MAMI KAWADA BEST BIRTH」、ニューシングル「FIXED STAR」を立て続けに発表した。そして2014年2月、アニメ「東京レイヴンズ」後期エンディングテーマ「Break a spell」をリリースする。