音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん

精神科医・斎藤環との対話

「昔のほうが好き」って思われたとしても仕方ない

斎藤 かまってちゃんはいじめが歌詞のモチーフになっている曲が多いですよね。私はそれをけっこう重く見ていて。小・中学校のときにいじめに遭ったことが、その後のの子さんの人格に大きな影響を与えてるんだろうなと。

の子 ああ、20代前半までは、こんなふうにいじめられたとか、学校のことばかり歌ってました。でも今はいじめのことはあんまり書かないですね。まあ、書き尽くしたってのもある(笑)。昔の話ばかりだと、言い回しが変わるだけになっちゃうんで。

斎藤 あ、そうですか。

の子

の子 やっぱり「いじめ」が俺のイメージってことでよく語られたりするんですけど、俺が曲で一番描いてるのは「風景」だと思ってるんですよ。その風景の中には苦しんでる人の姿もあるので、その部分をピックアップされちゃうとそうなるのはわからんでもないんですけど。最近の曲はホントに夕暮れの風景ばっかになってんな(笑)。

斎藤 確かに最近ちょっとずつ、歌詞がポジティブになってますね。

の子 それはけっこう言われます。前のほうがよかったって。でも自分も10代の頃、ジョン・レノンを聴いて「後期の曲はどうでもいいな」「やっぱりThe Beatlesのほうがいいな」とか言ってたりしたんで、昔のかまってちゃんが好きな人にそう思われたとしても仕方ないと思う。曲が変わるっていうのは、作った人が素直だってことでしょ? やっぱ人は変わるものだから。もしそれでクオリティが落ちてたら問題だけど、クオリティが落ちてないんだったら別に何を言われてもいいと思います。それで人が離れようが、そんなの知ったこっちゃないです。俺は自分の作品が大好きなんだから、正直それだけでいい。

斎藤 歌詞はどういうときに書いてるんですか?

の子 俺、こたつが好きなんです。うちは昔からずっと同じ位置にこたつがあって。今って夏じゃないですか。俺は夏でもこたつに入ってるんですよ(笑)。曲もそこで考えてます。こたつにいながら、自分の手の届く範囲内で作っていたいなっていう気持ちが常にあるんです。それだと手軽に吐き出せるっていうか。このやり方は一生変わらないですよ。できるなら俺、実家から外に出たくないですし(笑)。

結婚なんて考えるわけないじゃないですか

斎藤 の子さんは実家でお父さんと暮らしてるんですよね。

の子 親父とは今別居してるんです。

斎藤 え、そうなんですか? 仲はいいんですよね?

の子 仲はいいです(笑)。いいですけど、家庭の事情がいろいろあって。俺の精神面の理由で、一緒にいたらすごい大ゲンカになってしまうことがあるんです。だから俺がお金を出して、親父と猫には別の一軒家に住んでもらってる。

斎藤 ああ、そうだったんですか。

の子 親父なくしてかまってちゃんはなかったと思うので、親父には感謝してます。まだバンドが全然知られてない頃は、活動のためにものすごいお金を貸してくれたし。かまってちゃんはYouTubeのMVが特徴みたいによく言われるけど、それも親父が撮ってくれたおかげだし。

斎藤 お父さんが撮るんですか?

の子 でも最近はあんまり撮ってもらってないですね。カート運びのアルバイトが忙しかったりして。それに、撮影ではけっこう走らせたりとかしてたんですけど、親父もう70歳になるんで(笑)。

斎藤 それは走らせちゃダメな年齢ですね(笑)。最近のお年寄りは元気ですけども。

の子 親父はまだまだ元気なんですよ。どっちかというと俺が気を遣ってるところがあって。だから「早く彼女を作らなきゃな」って思ったりしてる(笑)。

斎藤 ああ。で、結婚して安心してもらおうと。

の子 結婚は考えてないです。考えるわけないじゃないですか(笑)。「こたつから出たくない」とか言ってるのに。俺は結婚しちゃダメだと思いますよ。たぶんすぐ離婚すると思います。

斎藤 家庭を持とうとか、あんまり考えないですか?

の子 考えないですね。子供を持つなんて気持ち悪い(笑)。

斎藤 気持ち悪い?

の子

の子 いや、子供を育ててる自分が。たぶん、ファンの中に「の子さんはこうであってもらいたい」というイメージがあるように、自分の中に「俺はこうじゃなきゃ」っていうのがあるんだと思います。あと、俺は子供をあんまりいいように扱わないと思う(笑)。

斎藤 monoさんは結婚しましたよね。(参照:かまってちゃん大特集インタビュー第1弾でmono結婚発表

の子 そうですね。彼は結婚して変わりました。俺はあの人は結婚してよかったと思ってます。まあ、みさこさんもみさこさんでアイドル(バンドじゃないもん!)やって変わったと思うし、ちばぎんもちばぎんで……そうっすね、なんだろ、配信とかやって変わった気がしますけど(笑)。

斎藤 ははは(笑)。でも自分には結婚は向かないと思っていると。

の子 はい。1人でいるのが好きだっていうのもあるし。あと、すごくイライラしてるときに相手に当たってしまうんじゃないかと思って。実際、昔付き合ってた彼女に暴力を振るったことがあったから、その衝動はきっと子供にも向くと思う。うまくやれる自信が全然ない。

斎藤 でも過去と比べれば、そういう気分の浮き沈みはだいぶ減ってきてるわけでしょ?

の子 いやいや、だって俺、親父と別居してるんですよ? 親父とすら一緒に暮らせない人間が結婚なんて(笑)。俺は自分のことをホントにクズだと思ってます。よくいるじゃないですか、実家に寄生してるニートって。でも俺は親父の持ち家から親父を追い出してるんだからもっとクズですよ。

斎藤 ちなみに今まで曲作りでスランプみたいな時期ってありましたか?

の子 そりゃいっぱいありますよ(笑)。

斎藤 「このまま曲が作れなくなってしまうんじゃないか」っていう不安を感じることもあります?

の子 ああ、曲が作れなくなるレベルまではいったことはないですね。多少停滞することはあっても。ただ、歌詞が書けないことはたまにあります。歌詞って人生が出るんで。こたつから半径1m以内だけで生きてると、手に取れるものが周りからすぐになくなってくるんですよ。だから自家発電というか、自分の中にあるまがまがしいものを表に出して曲にしていくしかなくなってくる。

斎藤 歌詞に人生が反映されるとすれば、歌詞のためにネタを仕込む必要があるんですかね。

の子 そうなんですよ。歌詞が書けないというのは人生経験が足りてないっていうことなんですよ(笑)。足りてないのは例えば恋愛だったり結婚だったりするのかもしれないけど。

ベストアルバム「ベストかまってちゃん」2015年6月24日発売 / Warner Music Japan
初回限定盤 [CD2枚組+DVD] 5000円 / WPZL-31016~8 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3240円 / WPCL-12088 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. ロックンロールは鳴り止まないっ
  2. ぺんてる
  3. ちりとり
  4. 夕方のピアノ
  5. 美ちなる方へ
  6. いかれたNeet
  7. ベイビーレイニーデイリー
  8. 怒鳴るゆめ
  9. グロい花
  10. 23才の夏休み
  11. 仲間を探したい
  12. 友達なんていらない死ね
  13. コンクリートの向こう側へ
  14. ズッ友
  15. ロボットノ夜
  16. 自分らしく(2015年新録音ver.)
初回限定盤DISC 2収録曲
  1. 23才の夏休み feat. でんぱ組.inc
  2. 僕は頑張るよっ feat. 榊いずみ
  3. 笛吹き花ちゃん feat. 上坂すみれ
  4. 肉魔法 feat. 赤飯
  5. フロントメモリー feat. 川本真琴
  6. Os-宇宙人 / エリオをかまってちゃん
  7. ロックンロールは鳴り止まないっREMIX feat. tofubeats
初回限定盤DVD収録内容

神聖かまってちゃん「妖怪かまってちゃんネットウォッチツアー」ワンマンライブ@赤坂BLITZ

  1. オルゴールの魔法
  2. ゆーれいみマン
  3. 友達なんていらない死ね
  4. 夜空の虫とどこまでも
  5. 彼女は太陽のエンジェル
  6. 背伸び
  7. ロボットノ夜
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)

神聖かまってちゃんの子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の千葉県在住メンバーからなるロックバンド。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2014年9月に約2年ぶりとなるフルアルバム「英雄syndrome」をリリースし、翌2015年6月には初のベストアルバム「ベストかまってちゃん」を発表。このベストアルバムの初回限定盤に付属したCD“フィーチャリングボーカル盤”には、ゲストボーカルとしてでんぱ組.inc、榊いずみ、上坂すみれ、赤飯が参加したセルフカバーなどが収録されている。

斎藤環(サイトウタマキ)

1961年9月24日生まれの精神科医。筑波大学医学医療系にて社会精神保健学の教授を務める。ひきこもりやいじめ後遺症といった思春期の精神病理学を専門領域とし、「社会的ひきこもり--終わらない思春期」を始めとした数々の著書を出版。マンガや映画などのサブカルチャー、オタクカルチャーに精通しており、著書「戦闘美少女の精神分析」ではアニメで描かれる少女に対する“萌え”を分析した。