ナタリー PowerPush - JUJU

“ストーリーテラー”が語るジャズへの憧れ

ジャズの3大キーワード「混沌」「秩序」「シンプル」

──では、JUJUさんが思うジャズ楽曲の要素を3つ挙げてもらえますか?

うーん……。「混沌」「秩序」、そして「シンプル」かな。

──「シンプル」と「混沌」って反対の意味を持つ言葉ですが……。

ジャズってコード感で考えると、不協和音も多かったりしてすごく混沌としていると思うんです。でも、ジャズのボーカルものの言葉選びっていうかメッセージはすごいシンプルなんですよね。それから「秩序」。私がジャズを好きになった理由は、「これどうやって着地するんだろう」っていうぐらい複雑に曲が展開していっても、最後に一番気持ちいいところでシュンって終わるところだったりするんですよ。それで気付いたのが、たとえ自分の頭の中がぐちゃぐちゃで考えがまとまらなくても、ジャズの曲みたいに、そのうち糸口が見つかって解決する日が来るからっていうこと。それ以来、私はジャズに本当に恋をしてしまった。ジャズがなくてはならないものになったんです。だから「混沌」の中に「秩序」があって、伝えたい思いは思いっきり「シンプル」な言葉で。それがジャズの3つのキーワードな気がします。

──なんだかちょっと人生のキーワードにも通じますね。

そんな気がします(笑)。

──ただ、“JUJUのジャズアルバム”というのは、ポップス要素の濃度やJUJUさんの歌唱も含めて、一般的なジャズアルバムとは少し違う色を持っていると思います。

そうですね。アルバムを作るとき、普段ジャズに触れない方でも聴いたことがあるような曲を選ぶようにして、あまりマニアックな選曲はしないようにとは決めていました。

──マニアックにしようと思えばいくらでもできるはずなのに、ポピュラリティを重視した。それはどういう理由なんですか?

「JUJU」と「ジャズ」って、私の中ではものすごく近いけど、それが近くない方が大半だろうなって思ったからです。そもそも、日本の中でジャズがどこか難しい音楽みたいな捉えられ方をしているのはすごい残念で。いつも私の曲やポップスを聴いてる人たちが、ジャズアルバムってなった瞬間にちょっと抵抗感を覚えたら嫌だなっていうか、そうならないためにはどうしたらいいんだろうって考えたんです。それで「ジャズは知らないけど、この曲はちょっと聴いたことある」みたいな曲が多いほうが取っ付きやすいかなっていうことで、オーソドックスなジャズスタンダードから始めることになりました。

自分をジャズシンガーと呼べるようになるのが人生の目標

──JUJUさん自身、「自分はジャズボーカリスト」という意識はありますか。

まったくないですね。自分のことを「ジャズボーカリストです」って言えるのはたぶん80歳、90歳ぐらいになってからだと思います(笑)。

──まだ届かない?

JUJU

届かない。結局ジャズシンガーの根っこって生き様だと思うので、それがちゃんと確立するのは死ぬときじゃないかなって。とにかく私にはまだまだ足りないものだらけだから、自分のことをジャズシンガーって呼べるようになるのが私の人生の目標です。だから今は「JUJUさんはジャズシンガーですか?」って聞かれたら「違いますね」って言います(笑)。

──それほどジャズに対して深い敬意があるんですね。

いつかちゃんと向き合えるようになったら、じっくり取り組みたいなって思っていて。だから、2011年に「DELICIOUS」を作ったときがそのタイミングだとも思ってなかったんです。あのときひさしぶりにジャズと向き合って制作していく中で、すっごい楽しかったけど、同時にやっぱりジャズを歌うためにはあれが足りない、これが足りないっていうのを目の当たりにした時間でもありました。でも出したことには後悔してないです。もちろんジャズシンガーとしては時期尚早だけど、いつか出すなら今でよかったな、とは思いました。それから2年経って、2011年のときより痛い思いも増えたし見えることも増えたけど、やっぱり2作目を作ってよかったと思います。

歌いたくないものがなくなった瞬間

──先ほど「JUJU」と「ジャズ」の距離感は一般的に遠いだろうとおっしゃっていましたが、そういうふうに自分自身を俯瞰して見ることは常にしているんですか?

ずっとしてますね。っていうか、そもそもJUJUっていうのは私だけのことではなくて、うちのチーム全体がJUJUで、私がたまたま歌う役割だと思っているので。

──ではキャリアを振り返ると、ジャズに大きな憧れを持ったニューヨーク在住のシンガーが、J-POPのフィールドでどんどん売れていくことについては、JUJUさん自身どう感じていたんでしょうか。

もちろん最初の頃は、本当にジャズっぽいものを作りたいという気持ちでした。でもバラードを歌ったときに初めて、聴いていただいてる方から「この曲を聴いて夫婦ゲンカが直りました」みたいな声をいただいたんです。それまでの曲のときってあんまりそういうことがなくて、いったい私はどこに向かって歌ってるのかなってすごく不安だったので、「聴いてる方がいるんだな」とわかったのがすごくうれしくて。それ以来、私は聴いてくれる方が聴きたいものを歌いたいって思ったから、ポップスの中でどんどん聴いてくださる方が増えたのは幸せなことです。たぶんその状況になったからこそジャズアルバムを出せたのだろうし。

──リスナーが求めるものを歌いたいってことは、自分のこだわりはなくていい?

誰かが聴いてくれてるって初めて気付いたときに、歌いたくないジャンルがなくなったんです。それまでは「これは私っぽくないかな」とか「こういうのはちょっと違うかな」とかいろいろな抵抗があったけど、2006年以降は歌いたくないものがまったくなくなりました。

WOWOWライブ「JUJUスペシャル ~JAZZ・COVER・ORIGINAL全て見せます~」
2013年年11月4日(月・祝)
15:00~「JUJU MUSIC LIBRARY」 16:00~「JUJU ジュジュ苑全国ツアー2012 at 日本武道館」 18:00~「JUJU JAZZ TOUR 2013 at ブルーノート東京」
JUJU(じゅじゅ)
JUJU

18歳で単身渡米。ニューヨークでシンガーとしての実績を積んだのち、2004年8月にシングル「光の中へ」でメジャーデビュー。2005年から日本でのライブ活動をスタートさせる。2006年にリリースしたシングル「奇跡を望むなら...」は、異例のロングヒットを記録。2010年3月発表の3rdアルバム「JUJU」は第52回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞し、同年9月にリリースしたカバーアルバム「Request」はオリコン2週連続1位を獲得する。2012年11月には2枚同時に初のベストアルバム「BEST STORY ~Love stories~」「BEST STORY ~Life stories~」をリリース。2011年、2013年にはジャズアルバムを発表している。