ナタリー PowerPush - じん(自然の敵P)

いいメロディを書く“強さ”、物語を終わらせる“強さ”

「次へ次へ」「もっともっと」を促すプレイリスト

──そのアルバムの構成についても伺いたいんですけど、アレンジのコンセプトと同じ。いい意味でとっちらかっています。例えば5~8曲目なんですけど、明るくてトライバルな「夕景リサイタル」から、母なる者が我が子への愛を歌うバラードの「群青レイン(Re Ver.)」につながって、どネガティブなエレクトロの「アウターサイエンス」がきて……。

「オツキミリサイタル」が待っている、という。言ってしまえば、ビックリしてほしかったんですよ。僕、バラードが3曲連続で続いたら確実に早送りをするタイプ……、いや2曲でも予断を許さないかもしれない(笑)。今回のアルバムでは46分間の中にそういう澱みを作りたくなかったので。「46分という時間をいかに短く感じてもらえるか」っていうことはけっこう考えました。だから曲順については1曲1曲が次の曲へのフックになるというか、どの曲も「次を聴きたい」っていう気持ちを引っ張っていってくれるものになっていて、リスナーさんには聴き終えたあとには「あっという間だったな」って感じてもらえるといいな、という気持ちは込めました。で、そうやって集中した聴き方をしてもらうためには曲調をバラけさせたほうがいいんだろうな、とは思っていて。「おっ、次は何がくるんだろう?」「次は?」「次は?」って気にしながら聴いてもらったほうがいいんだろうな、って。

ちょっと物足りないエンディング

──1stアルバムが「メカクシティデイズ」、つまり「カゲロウプロジェクト」の舞台となるメカクシティという街の“日々”を歌ったアルバムで、今回は「メカクシティレコーズ」。メカクシティの“記録”。すでに他媒体でもおっしゃってることですけど、今回で「カゲロウプロジェクト」の音楽編は一旦……。

完結ですね。

──ある作家がエッセイの中で、物語のような時間芸術の作家の中には「物語を作りたい」という衝動はあっても「終わらせたい」という思いはないんじゃないかって書いてたんですね。「どうせ幕を引くならキレイなオチを付けたい」という気持ちはあれど、誰も積極的に幕を引きたいとは思ってないんじゃないか、って。

ああ、その方のおっしゃることはすごくわかります。でも僕自身、長々と延命してカッコ悪くなってしまった作品っていうものもたくさん見てきているので(笑)。

──格闘マンガなんかにありがちなパターンですよね。あるライバルを倒したら、さらに強いライバルが現れて……。強さのインフレを起こし続けることで回答を無限に延期する(笑)。

じん(自然の敵P)

そうですそうです(笑)。で、これまたその一方で「金色のガッシュ!!」や「封神演義」のようなマンガもあるんですよ。すっごいキレイにストーリーが終わるんだけど「えっ、これでオシマイ? なんかちょっと物足りねえなあ」くらいのさじ加減になっている。この「物足りねえなあ」を感じさせたら作者の勝ちというか、読者は「物足りねえなあ」って思わされたら負けなんですよね。物足りないからずっと心に残り続けちゃうわけですから。実際のストーリーはキレイに完結しているのに、自分の中ではまだ物語が続いているかのような気分になる。僕自身、そういう作品がすごく好きだから「カゲロウプロジェクト」を立ち上げた当初からオチは見えていたというか、ダラダラ延命するつもりはなかったんです。

──でも「カゲロウプロジェクト」って延命可能な物語ですよね。実はそこがこのプロジェクトの持つ構造の優れたところであるとも思っていて。「メカクシティ」という街の「メカクシ団」という一味が主人公なんだから、団員を増やしたり、一味以外の人、要はメカクシティに暮らす人々のことを歌うことで、物語はいくらでも続行できる。そして登場人物を増やすということは、つまり街や一味を立体的に描くことにもつながる。延命すればするだけ世界が豊かになる物語ですよね。

そうなのかもしれないんですけど「カゲロウプロジェクト」って、いろんな楽曲の中でも歌っているとおり、ある夏の物語なんですよ。北海道出身だからっていうのもあるんでしょうけど、僕の印象では夏ってそんなに長く続くものではなくて。儚くて、「もう終わっちゃうのか。ヤだな」って思うもの。逆に秋になって改めて思い返してみたときに輝くものであって。「カゲロウプロジェクト」も、「子供の頃は夏になるとワクワクしたなあ」とか「よくわからんけど、なんか冒険とかしたわ」とか「好きなことに夢中になったなあ」っていう、聴いてくださる方の実際の夏の思い出と同じようなものであってほしかったんです。

夏の終わりの切なさを漂わせたい

──だからか「メカクシティレコーズ」って「アベンジャーズ」的なド派手さをたたえたアルバムではあるんだけど、どこか死の匂いがするというか。終わることの切なさを感じさせるものになっている気もします。

じん(自然の敵P)

そうですね。「夏っていっぱい面白いことあったなー」っていうのが基本的なテーマではあるんだけど、それって「でも、夏は終わってくね」「終わるんだよ」っていうことでもあるので。確かその寂しさは感じてもらいたいなとは思ってました。切なさフェチ、終わりフェチだったりもするもので(笑)。で、将来、この作品のことを思い出したとき、終わっちゃったことへの物足りなさや切なさを感じつつも「あーっ、面白かった!」って言ってほしいんですよ。

──それこそ「金色のガッシュ!!」や「封神演義」のように。

ええ。ちょっと構成の話に戻すと、今回も1stアルバムと基本的な構成は同じなんですよ。「サマーエンドロール」っていうインストというかナレーションで始まって、アルバム終盤に「クライングプロローグ」っていうナレーションが入っている。一応この「クライングプロローグ」で「メカクシティレコーズ」っていうストーリー自体は終わってるんだけど、今回は1stと違って、そのあとに「サマータイムレコード」っていう歌モノを入れていて……。

──あの曲って要はエンディングテーマですよね?

はい。言ってみれば、あの曲はスクリーンにはエンドロールが流れているときのBGMのイメージですから。

ニューアルバム「メカクシティレコーズ」 / 2013年5月29日発売 / 1st PLACE / IA Project
初回生産限定盤 [CD+DVD] / 3885円 / MHCL-2278
通常盤 [CD] / 3045円 / Project MHCL-2281
収録曲
  1. サマーエンドロール(Instrumental)
  2. チルドレンレコード(Re Ver.)
  3. 夜咄ディセイブ
  4. 少年ブレイヴ
  5. 夕景イエスタデイ
  6. 群青レイン(Re Ver.)
  7. アウターサイエンス
  8. オツキミリサイタル
  9. ロスタイムメモリー
  10. アヤノの幸福理論
  11. マリーの架空世界
  12. クライングプロローグ(Instrumental)
  13. サマータイムレコード
じん(自然の敵P)(じん しぜんのてきぴー)

1990年10月20日生まれ、北海道利尻島出身のボカロP。幼少期より音楽に親しみ、学生時代にはバンド活動を行う。2011年にニコニコ動画に投稿した「人造エネミー」でボカロPとしてデビュー。瞬く間にニコ動ユーザーの間で話題を集め、数々の楽曲でランキング上位入りを果たす。2012年5月、それまでに発表した楽曲の世界観を1枚のアルバムに集約した1stフルアルバム「メカクシティデイズ」をリリース。楽曲に登場するキャラクターの物語を小説化した「カゲロウデイズ -in a daze-」で、小説家としてもデビューを果たし、さらに2012年8月リリースの1stシングル「チルドレンレコード」はオリコンシングル週間ランキング3位に輝く。そして2013年5月、連作の音楽編完結版となる2ndアルバム「メカクシティレコーズ」をリリースした。