「あの主人公、女の子だったんですか!?」

池田　僕がいつも一緒に撮影しているスタッフって普段あんまり音楽聴かないんですけど、ジェリーフィッシュはすごい好きで「監督、CDないんですか？ 欲しいんですけど」って言われます。

松尾　うれしいですね。

池田　そういうのもあって、ジェリーフィッシュの曲は音楽やロックが好きじゃない人にも伝わる歌だなあと思ってます。形としてはロックなんでしょうけど、それが例えばアコースティックとか違った形で発表されても、曲のメッセージは伝わるんじゃないかな。そういう素晴らしい楽曲に映像乗せるだけで、素晴らしい映像に見えてしまうので、PVの話をいただくといつもラッキーだなと思います。

松尾　池田監督の映像はひたすらに美しいですよね。ほかの監督がああいう質感で撮ってもあの世界は出ないと思うんです。ちゃんと目線があるっていうか。あと、監督は女の子の撮り方がうまいなって思います。

池田　ありがとうございます。僕は映像の役割って、被写体がベストプラスアルファになるってことなんじゃなかろうかと思っているので「人を撮る」ということを心がけているんです。アングルがいいとか、背景がきれいとか、色味がどうこうとかじゃなくて、写ってる人が一番よく見える撮り方をする。だから「女の子がかわいく撮れる」って言ってもらえるとうれしいですね。

──池田さんが付ける映像って、松尾さんが歌詞で描いてるストーリーやシチュエーションとは違いますよね。

松尾　「忘れ物とあの子」のPVは本当に面白いなと僕も思っていて。あれ、僕が書いたのは、女の子がふられちゃって家に帰っていくっていう話だったんです。でもなんにも説明せずに監督に渡したら男の子が過去の自分に向かって歌ってる歌の脚本が上がってきて。「こういう捉え方もできるのか！」と驚きました。

池田　えっ！ あの主人公、女の子だったんですか!? そうなんだ。もう1本撮れる気がする（笑）。

松尾　ちょっとレーベルに言っときます（笑）。

池田　松尾さんの声で歌われてるんで、先入観で男の子なんだろうなっていう。

松尾　あの曲に「僕」とか「私」って出てこないんですよ。どっち目線でも取れるような書き方はしたんです。説明しないの、いいですね。続けていきましょう（笑）。

池田　そうっすね。そっちのほうが面白いですね！ 答え合わせみたい。

答え合わせシリーズ！

──「忘れ物とあの子」のPVのストーリーはどうやって出てきたんですか？

池田　最初に、歌詞に歌われてることをそのまま映像に、っていうのをイメージしてみたんですけど、なんか違ったんですよね。で、引っかかったのが「忘れ物とあの子」っていうタイトルで……。あれ、実は鉛筆忘れてるんですよ。

松尾　わああー！

池田　廃工場のなかで、昔の“あの子”から鉛筆を受け渡されてるんですよ、「これ忘れてるよ」って。

松尾　おおー！ 答え合わせシリーズ！（笑）

池田　で、最後のシーンで昔の“あの子”が渋谷のスクランブル交差点に来て、鉛筆を挙げてるんですよ。「まだ鉛筆持ってるよ」と。

松尾　なるほど！ 今つながった。

池田　彼は絵描きになりたいって夢を追いかけてるんでしょうね。でもうまくいかないなって。そんなとき昔に戻って「あ、あのときの鉛筆、忘れてたな」「好きで絵を描いていた頃の気持ち忘れてたな」っていうのを教えてもらう。これはいい話だと思って。

松尾　今回のアルバムも“あの初期衝動を取り戻せ”みたいなテーマがあったのでばっちりですね。

池田　僕もちょうど脚本が書けない時期だったんですよ。せこくなったのかずる賢くなったのか「これ書いたらウケるんじゃねーかな」みたいなこととか考え出しちゃってて。そんな中だったので、自分に対しての「昔の気持ちを思い出してよ」という気持ちも込めて少年を出したりして。