音楽ナタリー Power Push - James Panda Jr.

“人間形態”で考えるアニメとパンダの不思議な関係

小松未可子は「のりたま」

左から雪村透、松岡政宗。© NAOE/スクウェアエニックス・青春×機関銃製作委員会

──「青春×機関銃」の主題歌やイメージソングは前野さん、松岡さん、小松さんの3人で歌っているわけですが、どれも前野さんと松岡さんのデュエットのようにも聞こえますよね。

そうですね。

──これはゲスの勘繰りかもしれないんですけど、女子人気の高いアニメだから、男性声優2人を前面に押し出したのかな?なんて思ったりもしました。

そういうつもりはなかったですね。確かに今回のオファーをいただいたばかりの頃、アニメのプロデューサーと話す中で、前野さんと松岡さんは「ごはん」で、小松さんは「のりたま」みたいな表現はしてましたけど。

──のりたま?

「ごはんだけでも美味しいけど、のりたまをかけるともっといいよね」って。小松さんとは以前からたくさんお仕事をさせていただいてるんですが、僕はアニメに疎くて、彼女の声優活動についてはよく知らなかったんです。でも、僕のスタッフにアニメ好きの人がいて、彼が「小松さんの少年声は素晴らしい」と。

──200%同意します!

それに洗脳されてしまったというか(笑)。今思い返すと、僕は「青春×機関銃」では小松さんという女性と仕事をしているというよりは、小松さんが演じている立花蛍と仕事をしている感覚。ある種、同性3人のボーカル曲を作っていたというか。前野さんと松岡さんの男性ボーカルに、小松さんの“男の子ボーカル”を振りかけるつもりで作っていた気がします。

──でも女性である小松さん演じる立花は、男の子のような女の子ですから、ある意味二重に倒錯しているような(笑)。

確かに(笑)。あと小松さんは歌のキャリアも長いし、何よりお仕事させていただいているこれまでのご縁があるので、さらに期待してレコーディングしました。前野さんと松岡さんのお2人が歌っている時点で十分素晴らしいんですけど、彼女がいることでさらに芯は固まるだろうなって。

──実際、立花は“のりたま”的。ハモりにコーラスに大活躍していますよね。

本当に立花はやることが多くて(笑)。どんなプロジェクトにもよい誤算と悪い誤算があると思うんですね。やってみなければわからない。プロジェクトを進めていって到達点が見えてくると「思ったよりうまくハマった」「逆に何か足りない」という着地点も見えてくる。でも今回はもし足りなくても小松さんに補ってもらえるという安心感があった。それは非常にありがたかったし、「青春×機関銃」の仕事は心から楽しめました。できあがった音楽に関しても「James Panda Jr.として責任を持てます」と堂々と言えますね。

最初のデモは全ボツを食らう

──では続いて「日本アニメ(ーター)見本市」とPandaさんの関わりについて聞かせてください。この見本市は庵野秀明が代表を務める映像制作会社カラーとドワンゴの共同企画で、ジャンルを問わずさまざまな短編アニメをWeb配信するシリーズですよね。

ええ。その短編の1本として沖浦啓之さんというアニメ監督が「旅のロボから」(参照:旅のロボから - 日本アニメ(ーター)見本市)というコメディ作品を制作するに当たり、劇伴とエンディングの歌モノを一緒に作ってくれる人を探していらっしゃって。

──そこでPandaさんに白羽の矢が立った。

そうですね。ただ推測ではありますけど、アニメ制作側としてはちょっとした賭けだったと思うんですよね。「青春×機関銃」の楽曲制作に関しては、発注する側もある程度結果が見えていたと思うんですよ。僕は主演の小松さんと仕事しているから、僕が作って小松さんが歌う曲がどんな曲になるかだいたい見当が付いたと思うんですけど……。

──沖浦監督とは今回が初仕事になる。

だから言い方を変えれば、監督が僕にチャンスをくれたわけで。これは絶対に失敗できないな、と。

──それってプレッシャーのかかる局面でもありますよね。

James Panda Jr.

しかもお話をいただいたときには「約10分のショートアニメ」ということと絵コンテくらいしか情報がなくて。どんな曲が必要なのかという発注メニューはまだ準備されてなかったんです。で、半ば手探り状態のまま「こういうシーンだったら、こんな曲かな?」みたいなことを考えて何曲かデモを送ったんですけど、まずまとめてボツを食らうという(笑)。

──「全ボツになったデモはほとんどない」という話をしてたのに(笑)。

ホントだ! でも半分言い訳ですけど、この劇伴制作作業は、いわゆるボーカル曲を作るのとプロセスがまったく違っていて。「○分×秒にこの音が鳴って、その△秒後にはこの音を」という感じで、曲を小節単位で映像にガッツリ合わせるというものだったんですよ。そうなると当然曲はすべて書き下ろしになるわけで。だから「ストックしてあるデモの中からチョイスして提出するパターンであれば、ボツになることはほとんどない」と訂正させてください(笑)。

──そして劇伴曲はカントリー調だったり、バイオリン演歌調だったり、どれもPANDA 1/2の楽曲とも「青春×機関銃」のテーマソング、イメージソングとも全然違いますね。

ここでも引き出し開けまくりましたね。ドリフのオープニングテーマみたいな曲も提案してみましたし。監督とは「こういう曲ですか?」「もうちょっとここはこう」の繰り返しだったんですけど(笑)、楽しんでやらせてもらっていたという意味では「青春×機関銃」と一緒。一流のクリエーターの皆さんが、とんでもない技術を駆使してストレンジなものを作っている。そんな「日本アニメ(ーター)見本市」の現場に立ち会えたことはうれしく思ってます。しかもエンディングテーマは「ラ・バンバ」をパロディした「Robo La Bamba」という曲なんですけど「日本アニメ(ーター)見本市 ヴォーカルコレクション」というコンピレーションCDに収録していただいたりもしてますし。今回の劇伴は僕のキャリアでも珍しいタイプ。しかも愉快で光栄なお仕事という位置付けですね。

トイ☆ガンガン(前野智昭、松岡禎丞、小松未可子) シングル「The Bravest Destiny」 / 2015年8月26日発売 / STARCHILD
初回限定盤 [CD] / 1512円 / KICM-93303
通常盤 [CD] / 1296円 / KICM-3303
収録曲
  1. The Bravest Destiny
  2. 僕たちのザ・大成功
  3. The Bravest Destiny(off vocal ver.)
  4. 僕たちのザ・大成功(off vocal ver.)
V.A.「日本アニメ(ーター)見本市ヴォーカルコレクション」 / 2015年11月11日発売 / 3456円 / STARCHILD / KICA-3257
V.A.「日本アニメ(ーター)見本市ヴォーカルコレクション」
収録曲
  1. HILL CLIMB GIRL / 川崎里実
  2. ME!ME!ME! feat.daoko_pt.1 / TeddyLoid
  3. ME!ME!ME! feat.daoko_pt.2 / TeddyLoid
  4. ME!ME!ME! feat.daoko_pt.3 / TeddyLoid
  5. 中央線 / Sotte Bosse
  6. SKY5 / Avaivartika
  7. 夢のヒーロー(「電光超人グリッドマン」より)
  8. もっと君を知れば(「電光超人グリッドマン」より)
  9. アジアの海賊 / 山寺宏一
  10. はじまり / RINK
  11. セックス&バイオレンス with マッハスピードノてーま / O2i3 feat. あさちる
  12. Sunlight / Norihito Ogawa
  13. I can Friday by day! / Neko Jump
  14. 朧月夜 Vocal ver. / 冨田麗香
  15. 別れの歌 / 冨田麗香
  16. FAI FAI TU! / 林原めぐみ
  17. センチメンタルな予感 / 加隅亜衣
  18. 世界の国からこんにちは / 山寺宏一、林原めぐみ
  19. Robo La Bamba / Shunsuke Goto
  20. Friends / 林原めぐみ
  21. Friends for カセットガール / 林原めぐみ
  22. SKY5 / 林原めぐみ
Blu-ray / DVD「青春×機関銃」第4巻 / 2015年12月23日発売 / STARCHILD
Blu-ray / DVD「青春×機関銃」第4巻
Blu-ray / 7344円 / KIXA-90574
DVD / 6264円 / KIBA-92234
James Panda Jr.(ジェームズ・パンダ・ジュニア)
James Panda Jr.

パンダの音楽プロデューサー。2009年より日本で音楽活動を開始し、同年藤岡みなみ(Vo)とのユニットPANDA 1/2で2010年にメジャーデビューを果たす。以来ボーカリストの交代などを挟みつつユニットでの活動を続ける傍ら、小松未可子のアルバム「THEE Future」「e'tuis」の収録曲など、多くのアーティストに楽曲を提供。また2015年7月放送のテレビアニメ「青春×機関銃」では、小松、前野智昭、松岡禎丞がキャラクター名義で歌うオープニングテーマ「The Bravest Destiny」の制作を担当。アニメDVD / Blu-ray第1、2巻の初回限定盤付属CD収録の、3人が歌うイメージソング「日常サヴァイヴ」「銃とオレンジ」もプロデュースしている。続巻の5、6巻の初回限定盤にも新曲が収録される予定。また10月には「日本アニメ(ーター)見本市」で配信された沖浦啓之監督のショートアニメ「旅のロボから」のサウンドトラックと、エンディングテーマ「Robo La Bamba」も制作。「Robo La Bamba」は11月発売のコンピレーションアルバム「日本アニメ(ーター)見本市 ヴォーカルコレクション」に収録されている。2016年1月31日には「青春×機関銃」のスペシャルイベントにMCとして登場する。

James Panda Jr.の渋谷でP!

2015年12月20日(日)東京都 2.5D STUDIO
OPEN 12:30 / START 13:00