ただ楽しめばいいだけだった

──次はライブについて聞きたいんですが……僕、グループのパフォーマンスの中ではちょっと変なことをする役割になることが多いんですけど、そのときに少し「恥ずかしい」って思っちゃうんです、正直！（笑）

伊東　ああ、そういう気持ちはすごくわかるよ。

──「バッタマン」っていう楽曲があって、それはフェスとかで勝負に出るときにやる曲なんですけど、僕は曲の中でずっと叫んだり、変顔をしたりしてて。その曲のときは本当に覚悟を決めてやらないと、自分は心が折れてしまうんです。

伊東　僕だって……今はもう自分が歌うことに迷いはなくなったけど、やっぱり昔は「恥ずかしい」とか「緊張するな」とか、そういう思いを持っていたから。

宮田　昔は自分たちのライブにお客さんを呼ぶために路上ライブをやっていたんだけど、そのときは「恥ずかしい」っていう思いがすごくあったよ。音楽に興味ない人がたくさん歩いている中で自分たちはめちゃめちゃ音楽をやっている、その熱量の差ってすごいんだよね。でも回数を重ねていくうちに順応して「どうやったら振り向かせられるか？」っていうことを考えられるようになっていったかな。

──イトヲカシさんは今、活動の中で路上ライブと会場でのライブの両方をやられていますけど、昔と今で何か変わったことってありますか？

伊東　路上ライブに関して言えば、昔お客さんを集めるためにやっていたものと比べると、もう180°違うくらいの変化があったと思う。

──ああ、そうなんですね。

伊東　そう、僕去年ね、自分が伊東歌詞太郎だということを言わないで、川崎で路上ライブをやったんですよ。

──はい、知ってます！

伊東　なんでそんなことをしたかと言うと「昔のような状況で路上をやったら、僕はどういう気持ちになるんだろう？」ってことを確かめたかったんです。お客さんがいないから路上をやっていたときって、いつも「今日も1人も立ち止まってくれないんじゃないか」っていうような折れそうな気持ちがあって、そういう弱い気持ちに毎回立ち向かっていたのね。で、「今でもそうなるかな？」って思ったんだけど、いざやってみたら、まったくそうならなかったんですよ。

──そうなんですね。

伊東　すごく変な言い方かもしれないけれど、「歌ったら人が立ち止まってくれる」っていう自信みたいなものが歌う前からあって、その自信のお陰で最初からすごく楽しい気分なんですよ。だから楽しく歌を歌える。で、楽しく歌っていると、気付けば人が集まっていて、それがうれしいからもっと楽しくなって。で、その日は最終的にすごくたくさんの人が集まってくれたんです。逆に言えば、「なんで昔はこれができなかったんだろうな」って。「ただ楽しめばいいだけだったんだな」って、そこで気付くことができたんですよね。

宮田　路上でのライブとライブハウスでのライブは今のイトヲカシにとっての“2本の柱”だと思っていて。違う見せ方で、どちらも自信を持ってやっているから、両方を観てほしいなって思いますね。

同じ日は二度と来ない

──今やられているツアーも折り返し地点を通過して、ファイナルのZepp Tokyo公演まであと少しですね。これからの公演へ向けての意気込みを聞かせてもらえますか？

伊東　はい。そうですね……ツアーファイナルのことを「それまでの集大成だ」って考える人がいるかもしれないけれど、僕はその考え方はあまり好きじゃなくて。例えば今回の僕らのツアーは4月29日に函館で始まったんですが、2017年の4月29日はもう二度と来ないから、それは“函館ファイナル”なんですよ。全力でやった結果「次はここを変えていこう」っていう話し合いは絶対にあるんですけど、「初日のがむしゃら感がマイナスなのか？」と言ったら絶対にそんなことはないと思うし。

──（深く頷く）。

伊東　1つひとつ違った全力があるから、いろんな色の全力を観に来てほしいなと思います。僕らはとにかく手を抜かず、そこに来てくれたお客さんを全力でおもてなしするっていうことを、この先もずっとやっていきますから。

宮田　全部同じセットリストでやったとしても、1本として同じライブはないですからね。毎回僕もワクワクした気持ちで臨んでいますし、一生思い出に残るようなライブを……その場にいる全員が、その日のことをいつになっても強烈に思い出せるようなライブをしていきたいって思います。

ファンの存在って

──もう本当に、僕も足を運びたいです……イトヲカシさんにとって、ファンってどんな存在ですか？

伊東　これは声を大にして言いたいんだけど、「音楽を生業としている人間はいったい誰のおかげで音楽をやれているんだろう？」という問いの答えはそこに尽きるかなと思います。音楽は「なくても生きていける」なんて言われたりもするものだけど、それでも「音楽が好きだ」と言って応援してくれる人たちのおかげで我々は生かされているんです。だから、「ファンってどんな存在？」って言うと音楽に価値を付けてくれる存在なんじゃないかなと思う。なんでそう思ったかというとね、昔バンドをやっていた時代、いろんな工夫をしたんだけどマジで聴いてもらえなかったんですよ。

──そうなんですね。

伊東　そのときに、「音楽ってそこにあるだけじゃ無価値なんだな」っていうことを思い知らされたし、音楽そのものに価値があるんだって勘違いしたら、本当に危ないなって思った。

宮田　そんなに崇高なものじゃないよね。

伊東　「お客さんに聴いてもらえる、価値を付けてもらっているから僕らは存在していられる」っていうことを、お客さんがいなかった経験から知ることができたから、今となってはその経験って本当に宝物なんだけどね。

宮田　で、いろんな場所でライブを重ねていく中で、お客さんに対する感謝の気持ちはどんどん大きくなっていきました。その感謝を伝えるためには「ありがとう」っていう言葉だけでは伝わりきらないんじゃないかなって思うほど、大きな思いなんですよ。今後その思いを音楽に乗せて伝えていくっていうことが、僕らの生きている意味かなと思ってる。

──これを聞いたファンの方はきっと涙すると思います。

伊東　なんかもう、感謝を伝え続けたい人たちだよね。ひと言じゃ言い表せないけど……やっぱり「ありがとう」なのかな。

──僕にとってもそうです。ひと言で言うのは難しいなって思います。

宮田　なかなか形容できないよね。

──はい。自分たちにとっても、ファンの方は大切な存在です。僕ら、ファンの方を「8号車」って呼んでいるんですけど、8号車さんがいてくれないとステージに立つことはできないから。それに、ファンの方は自分たちの鏡だなとも思います。

伊東　うん。本当にそうだよね。

──では、次の質問を。歌詞太郎さんにとって、宮田さんはどんな存在ですか？

伊東　そうだなあ。物事をしっかり見ている人間だなと思います。あと、レフティは音楽を“何かを得るための手段”にしていない人間だと思う。音楽そのものを人生の目的にして、音楽をやるために生きている。僕はそういう人が好きなんですけど、彼はそうなんじゃないかなって。好きな人と音楽をやるっていうのはとても大切なことだし、一緒にいてめちゃくちゃ楽しい相手だなって思いますね。

──宮田さんは歌詞太郎さんのことをどう思っていますか？

宮田　僕が彼に対してすごく強烈に感じているのは、言霊を飛ばせるボーカリストだなっていうことですね。歌詞が聞き取りやすいとかじゃなくて、その先にある心の部分がしっかり相手に届く。イトヲカシでやっている音楽は絶対に彼とじゃないとできないものだし、それを気持ちよくやれる……信頼できるパートナーだなと思っています。

──ありがとうございます……なんか、すごくうれしいです。

伊東・宮田　あはははは（笑）。