「いい音で音楽を」スペシャルインタビューのラストを飾るのはKREVA。ビートを軸に置いたヒップホップサウンドをストイックに追求しながら、幅広いリスナー層にアピールする大衆性を獲得した彼は、“いい音”をどのように捉えているのか。幼少期の音楽体験、ビートメイキングにおける工夫、テクノロジーの進化と“いい音”の関係、巨大なアリーナ会場でヒップホップを鳴らすための音作りなど、さまざまな話題を通して“Dr.K”のこだわりに迫った。またインタビューの最後には、KREVAが考える“いい音”の作品を5つ選んでもらい、それぞれの魅力を解説してもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 西槇太一

“いい音”とはバランスの取れた“濃い音”

最近の作品では、マスタリングをニューヨークのクリス・ゲリンジャーにやってもらってるんですけど、それがまあ素晴らしいんですよ。トラックダウンではエンジニアのG.M-KAZ(P-STUDIO)さんと何度も何度もやり取りをして、バッチリだと思ったものをクリスに送るんですけど……まだそこまで突き詰められるのかと毎回驚くんです。デカく鳴らしたいところは大きくなってるし、サウンドはきらびやかになるし、下手したら楽曲のノリ自体がよくなっているくらいの印象で。

──楽曲制作者の想定を超えるほどの。

ただね、まさに“いい音”の話として面白いのが、ミックス段階で俺らは24bit / 48kHzという、いわゆるハイレゾの音を聴いているわけですよ。それよりも、クリスがCDフォーマットの16bit / 44.1kHzで上げてきた音のほうがよく聞こえることも多分にあるんですよ。そっちのほうが音がワイドに聞こえることもある。ハイレゾであれなんであれ、何を聴かせたいか、どう聴くかというバランス感覚のほうが大事なんだろうなと思うんです。だから「いい音とはなんなのか」という究極の質問に答えるならば、「バランス」なのかなと。

──数値上のことよりも、バランスと。

どこを大きく、はっきりと聴かせるのか。クリスはそれがうまいというか、自分の感性に合うんだと思います。映像だって、何Kだからいいというわけじゃないと思うんですよ。見えすぎちゃってこれヤだなあとか。iPhoneも新しいのは画面がきれいになったけど、前のが好きという人もいるでしょうし。ハイレゾ音源は、奥行きがしっかりと感じられるのはいいなと思うんですけど、そこもバランスが大事なのかなあと。奥行きを追求するなら、左と右、前後、音の大小とか、バランスをしっかり考えた音じゃないと意味がないですよね。

KREVA

KREVA

──アーティスト側の理想とするバランスがあり、それをマスタリングエンジニアが仕上げていく。信頼のおけるエンジニアの存在も重要かと思うんですけど、そこでアーティストの想像を超えたものができあがることもあるんですね。

そうですね。自分が作ったところから、ミックス、マスタリングという工程を通して、音がどんどん……なんというのかな、「濃くなっている」と思うんです。そこが最近の自分の音作りにおけるポイントかなと思ってます。

──音が濃くなる。

はい。昔は“いい音”=「どのぐらい大きい音が出せるか」という発想だったんですよ。特に自分はヒップホップだから、キック、ドラムはデカく太くなくちゃいけないという固定観念があって。最近は濃さ……これ、説明するのが本当に難しいんですけど、フリーダウンロードできるビートの素材にも、本当にいいドラムの音はいっぱい転がっているんです。昔はいいキック音を1つ作るのにすごく手間がかかったんですけど、今は絶対に腐らない音が腐るほどある(笑)。腐ってるサウンドもあるんですよ。小さい音で聴くといい感じなんだけど、デカい音で鳴らすと薄くなっちゃう音。そこのバランスも重要なんですよね。大きい音でも小さい音でも、どこで聴いてもいい音になる濃さを持ったものが、自分にとっての“いい音”ですね。

ノイズ混じりの“いい音”

──そもそもヒップホップという音楽自体が、ハイファイな“いい音”を追求するものではなく、ビットレートの低いサンプリングのローファイな音のカッコよさを発見したジャンルですよね。ヒップホップの観点で言う“いい音”は、ほかのジャンルともまた異なるものかなと思うんですけど。

違いますね。さっきの“濃さ”という話も似たところがあって。最近ね、WAVESというプラグインソフトのメーカーが、アビーロードスタジオでのアナログカッティングのサウンドをシミュレートした「Abbey Road Vinyl」というプラグインを出したんですよ。ラッカー盤の状態から、いい針、普通の針、DJ用の針で鳴らした3パターンが選べたり、プレスした製品盤レコードの音で同じく3タイプの針を鳴らした状態がシミュレートできるんです。そのプラグインを挿すと本当にアナログみたいな音になるんですよ。針のパチパチ鳴るわざとらしいレコードノイズはいらないから、その設定はゼロにして質感だけを変えるんだけど、レコードを聴いていた世代としてはしっくりくる。でね、トラックを止めてよく聴くと、小さくジイーって音が聞こえるんです。それって要するに、むしろ音を汚してるんですよね。

KREVA

KREVA

──汚し用のフィルターをかけているような。

1つ膜をかぶせることによって、音を濃くしていくみたいな。俺が“いい音”だと思ったものは、実はノイズが混ざっていて、パソコンで作った音をMPC(AKAIのサンプラーシリーズ)に1回通したりするのも恐らくそれに近い作業で、別の機械を通すことで違う空気感を足してるんですよね。いい具合に荒く、濃くしていく作業。それが肝なんだろうなと最近は感じてますね。

無意識にラップを求めていた少年時代

──子供の頃の“音”に対する体験で、何か記憶に残っている印象的な出来事はありますか?

3歳か4歳ぐらいの頃、ギターを習ってたんです。クラシックギター。

──それは親からやるように言われたんですか?

いや、自分から。親の自転車の後ろに乗って保育園に行ってるとき、急に言い出したらしいんですよ。たぶん「新堀ギター」の看板か何かが気になってたんでしょうね(笑)。それで親が近くのギター教室を探してくれて。教室に行くとまず、先生が俺のギターを預かってチューニングしてくれるんですけど、その光景をすっごく覚えてます。何をしてんのか最初はわからなくて。その調弦される音を聴いてたから、音に対して敏感になったのかなと思いますね。

──意外ですね。ギターが音楽の出発点だったなんて。

そうなんです、実は。小学4年生になる前に引っ越しするまで続けてたのかな。

──その頃、リスナーとしてはどんな音楽を聴いてましたか?

3つ上の姉がいるので、姉が聴いてた歌謡曲を一緒に聴いてることが多かったですね。

──「ザ・ベストテン」時代のヒット曲を。

まさにまさに。「ちょっと黙ってて」って言いながらテレビの音をラジカセで録るみたいな(笑)。父親がレコードを何枚か持っていて、ビッグバンドのジャズを聴いてましたけど、特に興味を持つことはなかったかな。

KREVA

KREVA

──自発的に興味をアーティストやジャンルは?

普通に歌謡曲でしたよ、最初は。あとTM NETWORKは好きでしたね。TMが「夜のヒットスタジオ」か何かに出たときに、小室(哲哉)さんが要塞のような機材を積んでいて、「総額1000万くらいかかるらしいですよ」なんて言ってるのを聞いて「すげえ!」と思ったのはすごく覚えてます(笑)。

──今につながるヒップホップの原体験はどのあたりでしょうか。

ボビー・ブラウンやMCハマー、ヴァニラ・アイスが出てきたとき、ダンスブーム流れで輸入盤ブームも同時に来たんですよ。そこで「俺が聴きたいのはこれだ」と思ったのが原体験ですね。最初はボビー・ブラウンの「Every Little Step」がカッコいいなと思ったんだけど、気が付いたらそのラップパートばかり聴いていて。のちにいろいろわかってきたんだけど、思い返してみると、もっと前に聴いていた久保田利伸さんの「TIMEシャワーに射たれて」もラップパートだけガッチリ覚えていたり、つい最近よみがえった記憶としては、久保田さんが書いた田原俊彦さんの「It's BAD」も好んで聴いてたわけじゃないのにラップパートが今でもスラスラ出てくるんです。いとうせいこうさんがネッスル(現:ネスレ日本)のCMでやってたラップも完全に覚えてた。

──ラップに興味を持つ前から、無意識にラップに注目していたと。

うん。ラップというものを無意識に体が求めていたみたいで。もっと言うとね、いい音の話と完全にズレちゃうんだけど(笑)、「坊主が屏風に上手に坊主の絵を書いた」という早口言葉が超得意なんですよ。それを久保田さんに言ったら「それは韻を踏んでるからだよ、全部」って。

──あー、確かに(笑)。

だからラップを始めたときもすぐにできたし、その前から学校の文化祭とかで歌ったりダンスしたりしてたんですけど、ラップをやったときの「これだ」感は大きかった。あとは打ち込みのサウンドというのが自分にとってしっくりきたし、ヒップホップ特有の荒々しいサウンドに惹かれたんですよね。