音楽ナタリー Power Push - 堀込泰行

ソロ第一歩はドリーミーでカラフルな“普通の音楽”

あらがえない“普通の音楽”を

──歳を重ねていくと、好みが自分が10代の頃ハマっていたものに回帰することはありませんか?

堀込泰行

もちろんそういうのもあります。例えば、当時特にハマってたわけじゃないけど、REO Speedwagonの大ヒット曲「Keep On Loving You」なんかを聴くと「これはあらがえねえな……」とかね(笑)。やっぱり全米トップ40の力はすごいなと。まあ、ああいうのはとてもお金のかかっている音楽だし、僕みたいな家内制手工業というか、家でちまちまとわらじを編んで売るような制作スタイルだと同じようなことをやるのは難しいと思うんですよ。その一方で、さっき言ったThe Modern Folk Quartetとかビル・エヴァンスとか、ほとほと疲れた心を癒してくれるものを求めて音楽を聴いているんだけど、それを自分が作る番はいずれ来るだろうと。今作りたいのは、自分があらがえないと感じた部分を持っているドリーミーな音楽というか、いい意味で“普通の音楽”っていうんですかね。そういう大きいポップスを作ってみたいという気持ちが出てきて。自分なりの形になるまでには時間がかかりましたね。

──そのあらがえないポップさ、ドリーミーな部分は今回のアルバムに反映されてるなと思いました。1曲目の「New Day」は出だしからホーンが入ったSteely Dan風な音ですし、「Wah Wah Wah」はライブ映えするパワーポップで。「最後の週末」なんてちょっと懐かしい歌謡曲っぽさもあって。

わりと今はみんなトンガっててカッコいいから、「じゃあ、俺はトンガらないほうへ行こう」という感じですね(笑)。

──キリンジ時代にも「馬の骨」名義でのソロ活動がありましたけど、再始動するうえで堀込泰行名義を選んだことは、泰行さんにとって大きな変化なのではないでしょうか。今回のアルバムは、泰行さんが本当にやりたいことと直結した10曲になったのかなと思いながら聴かせていただきました。

馬の骨で等身大なことはやっていたので、今回はもうちょっと広がりのあるものを目指したところはあります。特にコンセプトを立てたわけじゃないんですけど、結果的にカラフルで明るいものになったんじゃないかな。馬の骨で出した2枚のアルバムと、キリンジで最後に発表した「Ten」、この3つは少しカラフルさを抑えたアルバムで、自分としてはそこが好きなんですけど、今回もまた同じことをやってもしょうがないっていう気持ちはあったので、管楽器やストリングス系のシンセも入れて。

伊藤隆博とのタッグ

──1曲目「New Day」のストリングスの高揚感はとても気持ちよかったです。

あれは伊藤隆博さんにお願いして、タッグを組むような感じで作っていったものです。

──伊藤さんは泰行さんのライブにも参加されてますし、今年の4月に出た洋楽カバーアルバム「"Choice" by 堀込泰行」(参照:堀込泰行、洋楽カバー集でニック・ロウやトム・ジョーンズを“Choice”)でもタッグを組むなど、付き合いは長いですよね。

堀込泰行

キリンジの「DODECAGON」(2006年10月発売の6thアルバム)ぐらいからですかね。第三者の目で自分より客観的に全体を見てくれたり、人として頼れるところがいっぱいあって。

──「New Day」は歌い方もいつもと変えていますよね。なので2曲目の「Shiny」でようやく落ち着く感じというか。

うんうん。曲調に合わせて歌ってみたという。「Shiny」はフォーキーかつ、ちょっとカントリータッチなので、今までの自分っぽい曲だなと。

──3曲目の「Waltz」はすでにライブで披露されていた曲ですが、当初「Swamp」という仮タイトルだったこともあって、来るべきアルバムは南部の土の匂いを感じさせるものになるのかなと思っていました。こうしてレコーディングされたものを聴くと印象が変わりますね。

「Waltz」に関しては、スタジオに入った段階でもライブとほぼ同じアレンジで録っていたんですけど、あとで管楽器を加えたときにけっこう印象が変わったんですよね。そこから「イントロは短めがカッコいいだろう」って話になって、本編と関係のないメロディを付け足して。そこもなかなかうまくいったと思います。このイントロも伊藤さんと僕のアイデアが折衷されてます。

ネガティブな発想をエンタテインメントに

──「Wah Wah Wah」もすでにライブではおなじみのアップテンポなナンバーで、冨田恵一さんを共同プロデューサーに迎えた「ブランニュー・ソング」は2014年11月に配信シングルとしてリリースされました。

堀込泰行

管楽器を入れようという発想が生まれたのは「ブランニュー・ソング」がきっかけかもしれないですね。この曲がなかったら、もっとシンプルにオルガン、ギター、ベース、ドラムだけ、みたいなアルバムになっていたかもしれない。アルバムの流れで聴くと、シングルのときとはまた違った感じに聞こえたのが面白かったですね。意外とメロウで、どっしりしていて。

──新しい日々の到来を歌った「Jubilee」のヌケのいい明るさもいいですね。今の心境が反映されているような。

「Jubilee」もライブでけっこう演ったんですけど、ライブではなかなか完成形に至らなくて。スチールパンのフレーズはもともとハーモニカだったんですけど、スチールパンのほうが曲調にも合ってるなと。ちょっとしたことを変えただけなんですけど。

──「さよならテディベア」は歌詞の内容がなかなか意味深ですね。「君は変わった」とか「『お説教』さまさまだよ」とか。ポール・マッカートニーがアルバム「RAM」でジョン・レノンに向けて歌ったような曲だったら、ちょっと穏やかじゃないなと心配になりまして(笑)。

あははは(笑)。いや、これは単純にね、キリンジを辞めてくたびれ果ててた頃に、お酒を飲むたび周りの人がいろいろアドバイスをくれて。それはありがたいことなんだけど、みんながみんなとなると疲れるんですよ。それがある時期、全部まとめて鬱陶しいと感じたときがあって。真剣なアドバイスも「ハンドマイクで歌ってみれば?」みたいな軽い冗談も含め、総じて鬱陶しいと。そんなとき、交渉が決裂していく様を歌詞にするアイデアが浮かんだんです。

──なるほど。

根っこはネガティブなとこから生まれてるんだけど、物語性を持たせて、曲調としてはエンタテインメントに落ち着けられたのはよかったかなと思ってます。恨み節みたいになっちゃうと面白くないというか、ちゃんと物語として場面を見せるということは心がけました。

1stアルバム「One」 / 2016年10月19日発売 / 3240円 / 日本コロムビア / COCP-39739
1stアルバム「One」
収録曲
  1. New Day
  2. Shiny
  3. Waltz
  4. Wah Wah Wah
  5. ブランニュー・ソング
  6. Jubilee
  7. さよならテディベア
  8. Buffalo
  9. 最後の週末
  10. 僕らのかたち

堀込泰行1stアルバム「One」発売記念イベント

2016年10月22日(土)
東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
2016年10月29日(土)
大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
2016年10月30日(日)
愛知県 名古屋パルコ東館 6F タワーレコード名古屋パルコ店内イベントスペース
2016年11月5日(土)
福岡県 タワーレコード福岡パルコ
2016年11月12日(土)
北海道 タワーレコード札幌ピヴォ店

内容:ミニライブ&サイン会

堀込泰行LIVE2016

2016年12月12日(月)
東京都 TSUTAYA O-EAST
2016年12月14日(水)
大阪府 UMEDA AKASO
堀込泰行(ホリゴメヤスユキ)
堀込泰行

1972年5月2日生まれ。1997年に兄・堀込高樹とのバンド・キリンジでデビューを果たす。2005年にはキリンジと並行してソロプロジェクト・馬の骨としての活動も行い、2013年4月のキリンジ脱退後は個人名義でのソロ活動を開始。2014年11月には配信シングル「ブランニュー・ソング」を発表した。2016年10月には個人名義による1stアルバム「One」をリリース。自身の作品のほか、ハナレグミ、安藤裕子、一青窈、畠山美由紀、Keyco、松たか子、南波志帆、鈴木亜美といったアーティストへの楽曲提供でもソングライターとして独自の個性を発揮している。