ナタリー PowerPush - 平井堅

攻め続ける「Ken's Bar」店主の珠玉カバー盤第3弾

「マイ・ウェイ」のような人生でありたい

──そしてぜひ触れておきたいのが「マイ・ウェイ」です。これは自称“歌バカ”・平井堅のための曲と言っても過言ではないなと。

はい。「はい」っていうのもなんですが……。

──アルバムでもラストに収められているのは、そういう思い入れがあったりするんでしょうか。

そうですね。あんまり大手を振って「どやー!」みたいなのもちょっとキャラ的に嫌なんですが(笑)、この「マイ・ウェイ」だけは盤を作るときから最後に入れようと決めてたんですよね。僕自身もずっと好きだった歌だし、スタッフの方も「あれよかったから入れようよ」と言ってくれて(※2013年5月30日に日本武道館で行われた「Ken's Bar 15th Anniversary Special! Vol.1」のアンコールで披露)。この曲は歌詞もさることながら、メロディが本当に美しくて……歌っていてカタルシスがハンパないですね。「これが歌バカ、ワシの歌やでえ」なんて言うつもりはないけど(笑)、本当にこの歌のような人生でありたいですね。この曲を聴くとなんか……棺桶を感じるっていうか。

──実際、死が近い男が自分の生き様を振り返るという話ですから。

ええ。こういう自分でありたいし、こういう気持ちで人生を終えていたいなと思える、稀有な曲です。やっぱり大事な曲ではあるなと思います。

──あとこの曲、平井さん独特の節回しがたくさん入っていて。

そうでしたっけ?

──「♪決めたまーまにー」ってストレートには歌われないじゃないですか。

あっ、その「ま~」ってやつね(笑)。トライセラ(TRICERATOPS)の和田(唱)くんいわく“堅さん締め”ってやつですね。

──その、1回節を回すテクニックです。この曲に限らずとも、これって意識的に入れているのか自然と入るのか、どんなバランスなのかなと気になって。

それ、いやらしい質問ですね(笑)。うーん、やるなって言われたらもちろんやんなくても歌えるし、100パー無意識ではないけど、やら……ざるを得ない感じ?(笑) 単に、もうやらないと気が済まないんでしょうね。「♪まーまにー」(節を回さずに)……なんだろう……自分の中では、なんかストッキング履いてるような違和感がありますね(笑)。

安住の地には行きたくない

──「Ken's Bar」は15周年ですが、平井さんは来年でデビュー20周年を迎えますね。私は、平井堅は“売れる”ことにちゃんと固執してそれを実現させたアーティストだと思うんです。2000年の「楽園」まで、ヒット曲を出すために毎回考えあぐねていろんな方向性の曲にチャレンジされていたので。それ以降も素晴らしい曲をたくさん発表して、人気も衰えず、今やベテランの域に達しようとしています。今の自分の立ち位置を考えてみてどんなフェーズだと思いますか?

全っ然デビューのときと変わってなくて。超売れることに固執してますし、超枯渇してますし、超必死ですし、超売れてる人のこと妬んでます(笑)。まったく変わってないですね。

──そんなにハングリー精神が強いとは(笑)。

欲深いです。やるからにはやっぱり挑みたいし、勝ちたいし。何がどうなっても満足しないんですよ、僕。例えば延々ブランドモノを買っちゃうとか、誰とセックスしても満たされなくてずっと繰り返しちゃうとか、そういうアディクション(嗜癖)って誰しも何かに対してあると思うんですけど、僕もそういう状況で。2004年に「瞳をとじて」を出したときを思い出しても、「おー、山の頂上ええ景色じゃ」みたいな、そんな気持ちになってた記憶はさらさらなくて。

──そうなんですか。どうしてだと思います?

自分に自信がないからだと思うんですよね。だから自分のこしらえたものを誰かに褒められたいし、評価されたいし、認められたいっていう気持ちが強くて。まあ事務所の社長とかには言われますよ、「平井は20年がんばってきたんだから、もうゆっくり自分のやりたいことだけやれば」なんて。でもそんな安住の地には行きたくない。そう見えないかもしれないですけど、実はすごく血の気が多くて闘争本能が強いんですよね。

──ライバルだと思う人はいますか?

みんなですね。こんなことしゃべってていいんですかね(笑)。まあいっか。そりゃあ俗感情にまみれることもありますよ。でも、それと同時に「うわ、この人の声すごい」とか「この曲いいな」って賞賛したり憧れる気持ちもあって。ピュアネスとハングリー精神の、清濁2つが僕の中でいつも拮抗してるんです。素敵なものを見て「あー、自分もこういうのを作りたい」って思う気持ちと、「くそー! 売れたら……やっぱ売れなきゃダメなのか!」って思う気持ち。その両方のデザイアで成り立ってる感じがするかな。自分のアーティストとしてのエネルギーは。

──現在42歳ですが、今後守りに行くつもりもないと。

全然ないです。もう……SEKAI NO OWARIとかと並んで走りたい(笑)。

──ははは(笑)。

この前出した「グロテスク feat. 安室奈美恵」だってまさにそうですね。もちろん安室さんはリスペクトしてるし、安室さんと共演できたことはとってもいい経験になりました。一方で商品としてキラキラしたもの、エンタテインメント性の高いものを作りたいっていうスケベ心も当然あったし。今の時代難しいけど、それは常に持ち続けたいです。もう20年やってきたから余裕で……なんていう感情はむしろ昔よりない。今のほうがヒリヒリしてると思います。

平井 堅 『「Ken's BarⅢ」初回限定生産盤A 特典映像ダイジェスト』

コンセプトカバーアルバム「Ken's Bar III」 / 2014年5月28日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤A [CD+DVD] 5400円 / BVCL-590~1
初回限定盤B [CD2枚組] 3888円 / BVCL-592~3
通常盤 [CD] 3240円 / BVCL-594
平井堅(ヒライケン)

1972年大阪生まれのシンガーソングライター。大学在学中にソニーミュージックのオーディションに入選したのをきっかけに、1995年にシングル「Precious Junk」でデビュー。2000年にリリースしたシングル「楽園」がヒットを記録し、その卓越した歌唱力と完成度の高い楽曲で一躍トップシンガーの仲間入りを果たす。2002年には童謡「大きな古時計」のカバーで世代を超えた人気を獲得。その後も「瞳をとじて」「POP STAR」など多くの楽曲をヒットチャートに送り込んでいる。また「Ken's Bar」と題したアコースティックライブシリーズを自身のライフワークとして定期的に開催しており、同タイトルのカバーアルバムも3作発表。フェイバリットアーティストはダニー・ハサウェイ。