ナタリー PowerPush - 日笠陽子

自称「恥ずかしがりの緊張しい」声優 一大プロジェクトの看板を背負う

役者・日笠陽子がブレなくなったから歌える

──じゃあキャラクターソングが注目を集めることにはあまり感慨はない?

いや、これがすごいうれしいんですよ! さっきお話したみたいにキャラクターは私の分身や子供だから、その子たちのCDが出るときは「よかったねえ」って気持ちにはなっちゃって。「ウチの子、CD出したのー」って(笑)。そのキャラクターソングのCMがテレビで流れたりすると「これ、ウチの子のCDよ!」ってなるんですよ(笑)。

──とはいえ、日笠陽子としては大はしゃぎはできてはいない。じゃあ「Don't say "lazy"」がヒットしたことなんかをきっかけに歌への取り組み方が変わることはなかった? 例えばソロデビューだ!みたいなことは……。

全っ然考えてなかったですね。というか、断ってましたもん(笑)。

──あっ、やっぱりオファーはありました?

お話はいただいてました。

──でも断っていた、と。

お芝居と歌ってどっちも表現のいち手段ではあるんですけど、やっぱり別モノなんですよね。役者としてのオファーはアニメの制作会社から、歌はレコード会社から。やっぱり世界が違うんです。だからこそCDデビューのお話をもらい始めた頃は「役者として自信を持ってないような人間がデビューなんかしちゃダメだ」って思っていて。役者として自信がない上に、まだまだキチンと芝居もできてない人間が音楽っていう違う世界に飛び込んでもうまくいくわけがない、って。それにキャラクターのことすら満足に表現できてない人間に、音楽を通じて自分自身のことを表現できるわけがないと思ってましたし。だからあの頃は役者としても中途半端、音楽の世界でも中途半端ってことになるのがイヤだったんでしょうね。

──ではなぜ今回のオファーは受けることに?

役者としてもう8年くらいやってきて、以前だったら「こういう芝居がしたいなあ」くらいに漠然と思っていたこと、ボンヤリとしかイメージできていなかったことがハッキリとしてきた気はするんですよ。「自分が目指すものはこれだ」っていうものがハッキリしてきた感じはあって。そこを目指すための道筋を考えられるようにはなっていたんです。で、そのくらいの自信はついたなって気持ちにようやくなれたときに、ある作品のキャラクターソングを歌うお仕事をいただいたんですけど、それがすごい楽しくて。「歌って楽しいな」「ライブって楽しいな」って思わせてくれたんですよね。それがメチャクチャ楽しくて!

──なるほど。

日笠陽子

最近なんで楽しかったのかわかったんですけど、いっぱい練習したからなんですよね。練習が多いとそれだけ曲に向き合う時間も増えるし、曲が体に入ってもくるし。それを踏まえた上でのライブをやるから、歌うことを心の底から楽しめるんですよ。しかもそういう気持ちってお客さんにも伝わるから、ライブ会場が本当に素敵な空間に思えるようになって。まさにその瞬間に声をかけてくれたのがポニーキャニオンさんで。これまで何回も遠回しに断ってたのに(笑)。

──ブレずに声優として活動できるようになった上に、人前で歌うことを楽しめるようになったから今回は受けてみたって感じですか?

そうですね。タイミングがよかったんだと思います。そういう気持ちになっていたときに、ずっとキャラクターソングを一緒に作ってきたスタッフさんから声をかけていただいたから「やります!」って言えたんだと思います。

「なかなか見つからなかったですねえ、自分」

──そして5月の1stシングル「美しき残酷な世界」、6月の2ndシングル「終わらない詩」、今月のコラボレーションアルバム「Glamorous Songs」を連続リリースする「日笠陽子ソロプロジェクト」が立ち上がったわけですけど、制作はスムーズでした?

全然(笑)。「歌うの楽しい!」「やります!」とは言ったものの、いざ「日笠陽子像を作りましょう」って話になったとき、自分の歌ってなんだ? 音楽で自分が表現したいことってなんだ?ってなっちゃって。アイデアや表現したいことがゼロだったんですよね。それでもシングルは世界観作りも曲の制作も比較的スムーズだったんですよ。1stシングルは「進撃の巨人」のエンディングテーマだったし、2ndは映画「ハル」の主題歌。その映像作品の世界観に寄り添うこともできたので。でも日笠陽子の世界観を表現しなきゃいけない「Glamorous Songs」については、まず「自分のやりたいことってなんだろう?」っていうことを紐解く作業、自分探しの旅みたいなものが必要だったんです。

──見つかりました、自分?

なかなか見つからなかったですねえ(笑)。結局1年くらいかかったんじゃないかな? スタッフさんと何度も話し合いを繰り返して、ようやく「私が歌うことを楽しめたのは、みんなで一緒に音楽を作ってたからなんだ」「みんなでライブすることが楽しかったんだ」ってことに気付き、「じゃあバンドサウンド主体に構成してみよう」っていうアルバムの根幹ができあがった感じでしたね。

──“ソロ”プロジェクトなのにみんなで音楽を作りたかったんですか?

歌ってるのはもちろん私1人なんですけど、私の隣には曲を書いてくれます、詞を書いてくれます、楽器を弾いてくれます、プロデュースしてくれます、ディレクションしてくれます、っていう方も当然いるわけじゃないですか。それって「ソロ」「日笠陽子1人」なのかな?って思うんですよね。だったら本格的にバンドのみんなと一緒にやってみたかったんです。生の音を奏でることってすごく楽しいなとも思っていたので。どんなにリハを重ねても絶対に同じ音は2度と出ない上に、突然バンドメンバーが普段はやらないようなプレイをしてみたりもするし。それを聴いた私も歌い方を変えて対応する、そのセッション感というか、今まさに一緒に音楽を作ってる感じに心を動かされるんですよ。「Glamorous Songs」にはTWO-MIXの永野椎菜さんの「Rhythm Linkage」みたいなデジタル全開のカッコいい曲もあるんですけど、やっぱり基本は生音、しかもみんなでやりたかったんです。だから私、楽器隊のレコーディングやトラックダウンやマスタリングにも立ち会ってるんですよ。私もみんなの一部だから。

コラボレーションアルバム「Glamorous Songs」 / 2013年7月17日発売 / PONY CANYON
初回限定盤[CD+DVD] / 2800円 / PCCG-01345
通常盤[CD] / 2300円 / PCCG-01346
CD収録曲
  1. Glamorous days
    (作詞:稲葉エミ / 作曲・編曲:Tom-H@ck)
  2. BALLOON
    (作詞・作曲:渡辺翔 / 編曲:渡辺和紀)
  3. Rhythm Linkage
    (作詞・作曲:永野椎菜 / 編曲:永野椎菜、熊本克也)
  4. Through the Looking-Glass
    (作詞:leonn / 作曲:小室哲哉 / 編曲:渡辺徹)
  5. Reclusive
    (作詞・作曲・編曲:Powerless)
  6. Neo Image
    (作詞:こだまさおり / 作曲:前澤寛之 編曲:yamazo)
  7. めざまし時計
    (作詞・作曲:YADAKO(Myu) 編曲:Masse(Myu))
初回限定盤DVD収録内容
  1. Glamorous days(Music Video)
  2. Glamorous days(Music Video)
    絵コンテ動画比較版
日笠陽子(ひかさようこ)

神奈川県出身の女性声優、ボーカリスト。テレビアニメ「けいおん!」の秋山澪役など、数多くの人気作で主役級のキャラクターの声を多数担当。また、メインボーカルを務めた「けいおん!」のエンディング曲「Don't say "lazy"」がゴールドディスクを獲得し、自ら考案したギャグ「てへぺろ(・ω<)」が流行語となるなど、アニメ業界外でも注目を集める。2013年5月「日笠陽子ソロプロジェクト」を立ち上げ、デビューシングル「美しき残酷な世界」をリリース。6月には2ndシングル「終わらない詩」を、7月には小室哲哉らが参加するコラボレーションアルバム「Glamorous Songs」を発表した。