音楽ナタリー Power Push - 秦基博

これまでとこれからをつなぐピース

今年デビュー10周年を迎える秦基博が通算21枚目となるシングル「70億のピース / 終わりのない空」をリリースする。本作には平和という壮大なテーマに挑んだバラードナンバー「70億のピース」(テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」主題歌)、エッジの効いたバンドサウンドと“瞬間を生きる”というフレーズが印象的な「終わりのない空」(映画「聖の青春」主題歌)の2曲が収録される。今回のインタビューでは、シングルの制作秘話に加え、11月から12月にかけて行われる初のアリーナツアーの展望などについても語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

10年前と同じ地で

──まずは9月に山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストで行われた「Augusta Camp 2016 ~produced by 秦 基博~」について聞かせてください。今年は秦さんご自身のプロデュースによるイベントということもあり、当然これまでの「Augusta Camp」とは違ってましたよね?

秦基博

だいぶ違いましたね(笑)。ここ数年はわりと気楽に参加してたんですが、今年は自分で仕切らないといけなかったので。それに、自分のカラーを出したいという気持ちもありました。自分が好きな曲を選ばせてもらったり、「こんなふうにやりたい」と提案させてもらうことで、自ずと自分らしさみたいなものも出ていたと思います。

──ほかのアーティストとのコラボレーションはアコースティックセット、バンドセットの2部構成。さらに秦さんのワンマンライブも加わった3部構成でした。

アコースティックとバンドは両方やりたかったんですよね。僕自身もそうだし、オーガスタのアーティストはみんな、ミニマムな編成、バンド編成の両方で聴かせられるのが強みだと思うんです。シンプルなアレンジのときは歌の力や楽曲のよさを際立たせることができるし、バンド編成を加えることで、大きな会場ならではのダイナミクスを付けることもできるので。

──そういうプロデュース能力もデビューからの10年間で身に着けたことの1つですよね。

そうかもしれないですね。音楽的なコミュニケーションが取れる土壌が作れたというか。先輩たちも懐が深くて、「好きにやっていいよ」って言ってくれたことも大きいですね。

──富士急ハイランド・コニファーフォレストは、10年前の「Augusta Camp」で秦さんがオープニングアクトとして出演したときの会場ですが、10年前の記憶がよみがえったりしました?

いや、それはなかったですね(笑)。あのときのことはあまりにも強烈すぎて、覚えてないんですよ。とにかく緊張してたし……空模様とか、お客さんが入場してくる様子とかはなんとなく覚えてるんですけど。今回の1曲目が10年前と同じデビュー曲の「シンクロ」で、「またこの場所でこの曲を歌える」といううれしさはありました。

──デビュー10周年ですからね。

そうですね。「Augusta Camp」でもみんなに祝ってもらって。同期の長澤知之と「2人で 10周年」という感じがあって、それがすごくうれしかったんですよね。彼の歌は素晴らしかったし、一緒に歌えてよかったです。

今自分が歌いたいこと

──ではニューシングル「70億のピース / 終わりのない空」について。「70億のピース」は生楽器の響きを生かしたサウンドと大らかなメロディが印象的なバラードです。制作の際はどんなイメージがあったんですか?

「70億のピース」を書き始めた頃はアルバム「青の光景」のツアー中で、まだアルバムの余韻の中にいたんですよね。締め切りは設けていたんですけど、なかなか浮かんでこなくて。そのときは「もうちょっと待ってもらえますか?」とスタッフに伝えたんです。ツアーが進むにつれて感じるものもあるだろうし、自然と新しい曲が出てくる気がしたので。

──「慌てなくても大丈夫」っていう。

いや、大丈夫とは思わなかったけど(笑)、無理にひねり出すものでもないし。実際、時間を置いて出てきたのが「70億のピース」だったんです。この曲に関しては「今自分が何をやりたいか」「どんなことを歌いたいか」ということを考えて作りました。

──サウンドの手触りやメロディラインを含めて、秦さんらしさが強く出た楽曲ですよね。

アコースティックギターの弾き語りを中心にしてドラム、ベース、ギター、鍵盤を加えた曲は、確かに自分のベースになるものですからね。ただ、表現の方法、切り取り方ということでは、新しいものがあるという気がしていたんです。相反するようですけど“小さくて大きい曲”を目指していたんですよ、この曲は。ミニマムなところから始まって、大きなところまで行ける曲というか。サウンドに関しては、極力、音数を減らすことを意識してました。とにかく歌とメロディを太く聴かせたいと思っていたから、そのスペースを空けるためにエレキギターもストリングスも入れてなくて。

──現在のJ-POPシーンの中では、すごくまれなアレンジですよね。

そうかもしれないですね。もともとシンプルなアレンジの曲は好きなんですけど、大事なのはやり方だと思うんです。古くからあるスタイルを使いながら、どうやって今の自分の表現に結びつけるかっていう。ドラムの音色、それぞれの楽器の録り方やミックスのときの配置、歌の質感もそうですけど、1つひとつこだわりながら作っていきました。

5年目の「アイ」、10年目の「ピース」

──歌詞はまさに“小さくて大きい曲”ですよね。日常の何気ない風景から始まって、地球規模のメッセージにまでたどり着くっていう。

自分の手の届く範囲のことから、大きなテーマに向かっていく曲にしたかったんですよ。漠然とですけど「平和について書きたい」という気持ちもありました。すごく大きなテーマですけど、どうやってそこにたどり着くかが自分にとっての挑戦だったので。

──平和のことを歌いたいと思った理由は?

秦基博

時代のムードだと思います。選挙が続いたり、憲法のこと、震災のことなどいろいろ考えさせられることがあって。その中で「今歌いたいことはなんだろう?」と考えたら、「平和」かなと。デビュー5年目のときに「アイ」という曲をリリースしたんですよね。ラブ&ピースというわけではないですけど、10年目のタイミングで平和というテーマに挑むのもいいのかな、と。そこまで大きなことはなかなか歌えないけど、身近なところからなら歌えるかもしれないと思って。それが「遮断機の向こう側」という歌い出しの景色だったんです。

──キャリア、年齢を含めて、平和という壮大なテーマを扱ってみようと自然に思えるタイミングだったんでしょうね。

そうですね。難しいなと思ったら、手を付けなかっただろうし。今の自分だったら表現できる気がしたというか、ポップスとして聴いてもらえる曲にできると思ったからこそトライしたわけで。こういうメッセージ、サウンド感はデビューした頃はできなかったし、さっき言ってもらったように“らしさ”も入れられたんじゃないかなと。

──確かに音楽として堪能できる、楽しめる曲としても成立していて。こういう味わい深いバラードをシングルとしてリリースできるのも、秦さんの魅力だと思います。今は一聴して盛り上がれる曲、インパクト重視の曲が多いので。

そこも計算しながら作った……と言いたいところですけど(笑)、本当に作りたいものを作っただけなんですよね。ただ、確かにこういうサウンドの曲はあまりないのかなとは思います。時流のサウンドではないけれど、自分はすごく好きだし、それをしっかり届けられるようにしていきたいなって。「70億のピース」というタイトルもハマったなと思うんです。小さいところに閉じ込めるのではなくて、できるだけ開けたものにしたかったんですよね、この曲は。

ニューシングル「70億のピース / 終わりのない空」/ 2016年10月19日発売 / オーガスタレコード/アリオラジャパン
「70億のピース / 終わりのない空」初回限定盤
初回限定盤A [CD+Blu-ray] / 6480円 / AUCL-207~8
初回限定盤B [CD+DVD] / 5400円 / AUCL-209~10
通常盤 [CD] / 1300円 / AUCL-211
CD収録曲
  1. 70億のピース
  2. 終わりのない空
  3. 聖なる夜の贈り物(2016 ver.)
  4. 70億のピース(backing track)
  5. 終わりのない空(backing track)
初回限定盤Blu-ray / DVD収録内容
  • 「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016-青の光景-」
    2016年6月3日の東京・東京国際フォーラム ホールA公演のライブ映像全21曲を収録。

HATA MOTOHIRO 10th Anniversary ARENA TOUR "All The Pieces"

2016年11月1日(火)
神奈川県 横浜アリーナ
2016年11月4日(金)
大阪府 大阪城ホール
2016年11月5日(土)
大阪府 大阪城ホール
2016年11月15日(火)
愛知県 日本ガイシホール
2016年11月19日(土)
宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2016年11月27日(日)
北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
2016年12月23日(金・祝)
福岡県 マリンメッセ福岡
秦基博(ハタモトヒロ)
秦基博

オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。柔らかな声と叙情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」が支持を集め、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は100万ダウンロードを超える大ヒットを記録した。2015年12月には全曲のアレンジを自ら手掛けたセルフプロデュースの5thアルバム「青の光景」を発表。2016年9月に行われたオフィスオーガスタによる野外ライブイベント「Augusta Camp」ではプロデュースを務めた。そして10月19日にデビュー10周年を記念したシングル「70億のピース / 終わりのない空」をリリースする。