音楽ナタリー Power Push - 秦 基博×花沢健吾

音楽とマンガ、それぞれの作り手の“Q & A”

音楽とマンガそれぞれの強み

花沢 ライブのときに“演じてる”という感じはありますか?

 演じてるというより、自分で詞と曲を書くので、“曲がそこにある”という感じです。「こんなふうに歌おう」みたいなこともなるべく排除して、自然にそこにいられたらいいなっていつも思うんですけどね。歌い上げるというか、あまりにも感情をぶつけてしまうと、聴く人にとっては過剰になってしまうこともあるかなって。押しつけがましくなく、「そこに歌がある」ということになればいいな、と。

花沢 なるほど。ライブって強力な武器ですよね。ファンの「生で聴きたい」って欲求は絶対になくならないじゃないですか。そのためには本物の歌唱力が必要だし、だからこそ秦さんのような方は残っていくんだと思います。僕らにはそれがないから、どんどん疲弊していくんですよ。不安だし、違う就職先を探そうかと思ったり……。

秦 基博

 いやいやいや(笑)。マンガはあらゆる表現が凝縮されていて、すごいなって思いますよ。

花沢 そこは面白いところだと思いますけどね。ただ、今はいろんな価値観があるから、面白いことも細分化されて、マンガ離れが進んでるんじゃないかなって。マンガから離れた人を取り戻すのは難しいなって実感してますね。今回は「アイアムアヒーロー」が売れて生き残りましたけど、そうなると破壊衝動がなくなってきて、「みんなハッピーでいこうよ」みたいな感じになって(笑)。怒りのモチベーションを見つけないといけないんだけど、ずっと家にいるし、意外と怒るようなことってないんですよ。秦さんはどうですか? 今のテンションは。

 難しく考えるようになってる気がしていて、それはよくないなって思いますね。自分の中にあるものをポーンと出せればいいんですけど……。

花沢 素直にね。

 そう。「これをこうにすれば曲になる」という単純な作り方だけでは、つまらないなって。もっとソリッドにしたい、シンプルにしたいと思ってるんですけどね。

花沢 テクニックに寄ってしまうこともありました?

 「頭で考えてしまったな」ということはあります。音楽はもっと感覚的にやっていいはずなんですけど……。「今ならもうちょっとうまくできたな」と思うこともあるけど、そのときにはもう戻れないから、同じ轍を踏まないようにするしかなくて。そんなことの繰り返しですね。

花沢 僕は週刊誌で連載してるから、失敗を取り返すこともできるんですよね。よほど大きなミスをしない限り、その後の展開で修復できるというか。

どういう反応があるか楽しみ

 読者の方の反応は毎週届くんですよね?

花沢 アンケートのことは知らないし、「2ちゃんねる」も見なくなったので(笑)、そこはほとんどシャットアウトしてますね。そういう意味では殻に閉じこもってる感じだと思います。あとは単行本の売り上げで、今どうなってるのかを実感してますね。そこには本当に読者の反応が素直に出てくるので。他人の評価って気になります? エゴサーチしたりは?

左から秦 基博、花沢健吾。

 しますよ(笑)。やりすぎると人としてダメになりますけど。

花沢 ダメージ受けますよね……。

 曲の反応は気になりますよ。自分が投げた球がどういうふうに受け止められたのか?って。今回の「Q & A」の場合は、前作「水彩の月」、前々作「ひまわりの約束」がミディアムバラードだったから、どういう反応があるか楽しみですね。

──「Q & A」のアグレッシブなサウンドは、秦さんのパブリックイメージとは少し違うかもしれないですね。

 「天空の蜂」を通して聴いてくれる人もいるだろうし、映画とは離れたところで知ってくれる人もいるだろうし。それぞれがどんなふうに感じてくれるか……。もちろん手応えのある楽曲をリリースしているわけですけど、その時点ではまだ半分なんですよ。人の耳に触れて、聴き手の中でどうなるか?というのを待って、初めて実感できるので。リリース前は常にそんな感じです。

花沢 「秦さんの曲はこうだ」っていうブランドがちゃんとあって、それをファンの人にも知られてるという上でちょっと違うところに行ったり、まっすぐな道を進んだり。そのさじ加減ですよね。

 そうですね。求められる秦 基博像があったとして、それを裏切ることもあるし、ストレートに応えることもあって。「Q & A」のような裏切り方は、すごく好きなんですよね。まあ基本的には好きなようにやってるだけなんですけど。

花沢 今も曲を書いてるんですか?

 はい、僕はアルバムを作ってます。花沢先生の「アイアムアヒーロー」の連載はこれからも楽しみにしてます。

花沢 ありがとうございます。なんとか着地できるようにがんばります。

秦 基博 ニューシングル「Q & A」2015年9月9日発売 / アリオラジャパン / オーガスタレコード
初回限定盤 [CD+ブックレット] 1700円 / AUCL-185 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1300円 / AUCL-186 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Q & A
  2. 恋はやさし野辺の花よ
  3. Dear Mr.Tomorrow (with String Quartet)
  4. Q & A(backing track)
秦 基博(ハタモトヒロ)

秦 基博オフィスオーガスタに所属する、1980年生まれ宮崎県出身のシンガーソングライター。横浜を中心に弾き語りでのライブ活動を開始し、2006年11月にシングル「シンクロ」でデビュー。強さを秘めた柔らかな声と抒情豊かな詞、耳に残るポップなメロディで大きな注目を浴びる。2007年9月に発表した1stフルアルバム「コントラスト」がヒットを記録し、2009年3月に初の東京・日本武道館公演を実施。2011年には自身3度目の武道館公演を全編弾き語りで成功させた。2013年10月に自身が選曲したセレクションアルバム「ひとみみぼれ」をリリース。そして2014年8月発表の3DCGアニメ映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌「ひまわりの約束」は大ヒットを記録し、今もなおロングセールスを続けている。2015年6月には映画「あん」の主題歌「水彩の月」をリリースし、同年7月に青森県の縄文遺跡群の魅力を伝える「あおもり縄文大使」に任命され、三内丸山遺跡での野外公演は4000人の観客を動員し話題を集める。9月に自身にとって19枚目のシングルとなる「Q & A」をリリースした。

花沢健吾(ハナザワケンゴ)

1974年青森県生まれ。アシスタントを経て、2004年に「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載された「ルサンチマン」でデビュー。2005年から2008年にかけて同誌で連載していた、妄想ばかりのダメ男に訪れた恋を描いた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、素人童貞の男性を主人公としていることから、非モテ男性ファンからの熱い支持を獲得。2010年に映画化、2012年にテレビドラマ化された。現在は「ビッグコミックスピリッツ」で「アイアムアヒーロー」を連載中。同作品は2016年に映画としても公開予定。