ナタリー PowerPush - 八王子P

ボカロ界の“貴公子” ついにメジャーデビュー

この数年、音楽シーンで大きな話題となっているのが、ボーカロイド「初音ミク」をボーカリストに起用した「ボカロP」による音楽作品だ。ニコニコ動画やYouTubeなどの動画共有サイトを通じて発表される、CGM(Consumer Generated Media)の要素が強い楽曲が、ユーザーによる再生回数を人気の指標にして注目を集めている。

中でもニューカマーとして人気なのが“ボカロ界の貴公子”と呼ばれる八王子Pだ。関連動画の総再生回数が既に700万回を超えていると言えば、そのすごさが伝わるだろうか。2011年末には日本のポップカルチャーの人気が高い台湾でCDデビューし、チャート4位を記録したのも見逃せない。そして来る2月には、ベスト的内容のアルバム「electric love」で待望の国内メジャーデビューを果たすことになった。DJとしても大きな人気を誇る、若き次世代クリエイターに話を訊いてみた。

取材・文 / ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

パソコン1台あれば音楽を作れて、発表までできる環境からのスタート

──2月に発売されるアルバムは、ニコニコ動画で大人気を博した代表曲「エレクトリック・ラブ」を中心に、ベスト盤的な内容の作品集に仕上がりましたね。八王子Pさんと言えば「エレクトリック・ラブ」や「Sweet Devil」など、踊れる曲のイメージが強いんですが、元々の音楽的ルーツはどのあたりなんでしょう?

かなり意外に思われるんですけど、一番衝撃を受けたのはPOLYSICSでした。あと好きなのはスーパーカー。バンド系でも電子音が入っているものが好きで。あとは、メロディがポップな感じが好きになるポイントでした。POLYSICSを知ったのは、友達にアルバム「National P」を薦められたのがきっかけでした。初めて自分でお金を払ってライブに行ったのもPOLYSICSなんです。そこで、ライブや音楽って楽しんだもの勝ちなんだなって思えて。それを機に、音楽観が変わりましたね。

──そこから、自分で音楽活動を始めたきっかけは?

積極的に音楽を聴き始めた1990年代後半頃は、バンド系の友達ばかりだったんですね。でも、バンド活動ならではの愚痴もたくさん聞いてて、ちょっとヤダなと(笑)。ケンカとかしたくないなって思って……。で、当時「beatmania」という音ゲーが流行ったタイミングでもあって、一人でできる打ち込み系、クラブ系サウンドにのめり込んでいったんです。なので実はネガティブな発想からスタートしたっていう(笑)。でも、曲を作りたいという気持ちはポジティブでしたね。

──あの頃は時代としても、テクノロジーの進化で機材の価格も安くなり、音楽的表現の幅が広がったタイミングでもありましたよね。

自分が音楽活動を始めたのが4年ちょっと前ぐらいなんですよ。機材がハードからソフトに移行した時期なんですね。それこそ中田ヤスタカさんが、Perfumeで目立ってきたくらいかな。打ち込みで、あそこまでのサウンドが作れるんだって証明された時期だったんです。なので、タイミング的には良かったなって思ってます。パソコン1台あれば音楽を作れて、発表までできる環境からのスタートでしたから。

──初めから超DIYだったと。そして音源制作では、人間のボーカリストではなく、初音ミクというボーカロイドを選択することになったんですね。

はい。単純にボーカルの友達がいなかったっていう(笑)。それと、ボーカロイド界隈で初めてメジャーデビューを果たしたクリエイターであるkz(livetune)さんや、ryoさん(supercell)の活躍もあって、ニコ動自体はサービス初期から結構チェックしてたんですね。初めて音源を聴いたときに相当衝撃を受けて。それで自分でもボーカロイドを使って、ニコ動で作品を発表してみたくなったんです。

「エレクトリック・ラブ」のおかげで、その頃抱いてた目標がほとんど叶っちゃった

──そして最初に発表したのが、代表曲とも言える「エレクトリック・ラブ」でした。

そうなんですよ。初めてボーカロイドで音楽を作ろうと思ったときに、とりあえず1年間続けようって目標を立てたんです。そして作った曲を、何もわからない状態でニコ動にアップしたら、すぐに殿堂入りしてしまったという。なので全然実感がなかったんですよ。音楽活動を始めて2年ぐらいで自分の曲を1週間で10万回も聴いてもらえたってことに、自分が一番驚いていたと思います。

──しかもニコ動だと、ユーザーの反響が忌憚なきコメントとしてダイレクトに伝わってきますからね。それはなかなかすごい感じですよね。

そうかもしれません。八王子Pを始める前は、クラブ系の音楽、それこそインストのテクノを作ってたんです。で、ニコ動に上げるならエレクトロポップがいいなって思って作ったのが「エレクトリック・ラブ」なんです。実は、ニコ動にアップした当時は本当にぼんやり音楽活動をやってた感じだったんで、「エレクトリック・ラブ」のおかげで、その頃抱いてた目標がほとんど叶っちゃったんですね(笑)。

1stアルバム「electric love」 / 2012年2月1日発売 / Sony Music Direct

  • Amazon.co.jp
  • 初回限定盤 [CD+DVD+書籍] 3500円(税込)/ MHCL-2015 / Amazon.co.jp
  • 通常盤 [CD+DVD] 3000円(税込)/ MHCL-2018 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. overture
  2. Sweet Devil feat. 初音ミク
  3. Baby Maniacs feat. 初音ミク
  4. Mad Lovers feat. 巡音ルカ
  5. Keep Only One Love feat. 初音ミク
  6. エレクトリック・スター feat. GUMI
  7. Free feat. 初音ミク
  8. CRAZY GiRL feat. 初音ミク
  9. LOVE IS OVER feat. 初音ミク
  10. サクラサク feat. 初音ミク
  11. whiteout feat. 初音ミク
  12. Distorted Princess feat. 初音ミク&巡音ルカ
  13. KiLLER LADY feat. GUMI
  14. twilight feat. 初音ミク
  15. エレクトリック・ラブ feat. 初音ミク
DVD収録内容
  • エレクトリック・ラブ feat. 初音ミク
  • Sweet Devil feat. 初音ミク
  • Baby Maniacs feat. 初音ミク
  • NONSTOP LOVE MIXXX

※初回限定盤には豪華描き下ろしイラスト集付属

八王子P(はちおうじぴー)

音声合成ソフト「ボーカロイド」を使って音源制作をする「ボカロP」として活躍する男性ソロアーティスト。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め、有名ボカロPの仲間入りを果たす。これまでニコニコ動画やYouTubeで公開した関連動画の総再生数は700万回を超える人気ボカロP。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売り上げチャートで4位に入る健闘ぶりを見せる。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビュー。