音楽ナタリー PowerPush - ヒャダイン(前山田健一)×末光篤

2人のポップ職人が教える「繰繰れ!コックリさん」の彩り方

ピアニストの書くポップミュージック

──一方、前山田さんがプロデュースしたオープニング曲「Welcome!! DISCO けもけもけ」の末光さんの印象は?

末光篤

末光 倖田さんとmisonoさんの曲と同じ感想になってしまうんですけど、やっぱり僕にはできないことなので、すごいなっていうのが第一印象でした。歌詞とセリフの掛け合いになっていたり、そういう曲はホントに作れないから。作曲ってピアノでなさるんですか?

ヒャダイン そうですね。例えば今回の曲なら、レーベルのスタッフさんから「70'sのディスコがベースになってるんだけど、ちょっと今風な感じの音で」っていうオーダーがあって。あとコックリさん役の声優の小野(大輔)さんが歌ってること、具体的には(市松)ひなたの家に住み着いて家事なんかをがんばってる姿に、狗神役の櫻井(孝宏)さんと信楽役の中田(譲治)さんがセリフで茶々を入れる展開にしたいっていう話もあったので、それを受けつつピアノに向かって。左手でディスコっぽいベースラインを弾いて、そこに右手で掛け合いになるようなメロディやコードを乗せて、それをシーケンスソフトに貼り付けてからアレンジを考えるっていうやり方をしてます。というか、作曲するときのとっかかりはいつもそういう感じですね。末光さんも当然作曲はピアノですよね?

末光 はい。僕はコンピュータで作曲とアレンジができないので、ピアノでメロディとコード進行を考えたら、フルコーラス分録音して、その音源をマニピュレータのところに持っていって、いろんな楽器を足していってます。ピアノで作ると、ほかのプレイヤーからはイヤがられるんですけどね(笑)。

ヒャダイン ですよね(笑)。

末光 ピアノってギターやベースよりもコードチェンジしやすいから、さっきおっしゃっていたように展開と転調が多くなりがちなんですよね。ギタリストからは「コードがどんどん変わるからカポを付けても意味がない」って怒られて(笑)。

ヒャダイン 1小節で4つのコードを使うのとか当たり前ですから。2小節ワンコードとかガマンならない(笑)。

末光 3コードだけで曲を作るみたいな概念がないんですよね(笑)。

職人に徹する作曲家と、アニメにダイブする作曲家

──その実作業の前の段階、今回のお2人の楽曲みたいな、アニメやドラマのテーマソングを作るときってどういうところから詞や曲の着想を得るんですか?

左からヒャダイン、末光篤。

ヒャダイン 僕は完全に職人タイプというか、いただいたオーダーを150%にして返すことを心がけてます。さっきお話したようにレーベルの方と綿密に打ち合わせしますし、「コックリさん」のように原作があるものなら原作を、オリジナルの映像作品なら脚本や設定資料をとにかく読み込んで、作者とシナプスをリンクさせて。(「繰繰れ!コックリさん」原作者の)遠藤ミドリさんならコックリさんたちにこういうことを言わせるだろうな、っていうフレーズを詞に盛り込むようにしますし、でも情報過多にはならないようにもする。原作を読まずにアニメを観る方もいるわけですから、ネタバレになるようなことは書かない。その代わりに作品を象徴しているんだけど、意味のないフレーズを作って言葉遊びをしてみようとか、とにかくいろんなバランスを考えるようにしてますね。

末光 僕はストーリーを追ってしまうんですよね。当然原作を読み込むし、レーベルや映像の制作サイドのオーダーも伺うんですけど、その中から何か言葉を引用しよう、みたいな発想はなくて。それよりはストーリーやキャラクターと自分を照らし合わせてみて、自分なりの「コックリさん」の世界を構築するって感じです。自分が「コックリさん」を引き寄せてるんだか、「コックリさん」の世界に自分が入り込んでしまってるんだかは定かではないんですけど(笑)。「コックリさん」みたいな作品って日常系(ドラマチックな展開を極力排し、日常の風景や醸し出す空気感で魅せる作品群)っていうんでしたっけ?

ヒャダイン そうですね。

末光 そういう日常系の作品で、しかも物語の根底に優しさみたいなものを感じたので、メリーゴーランドを曲の中心に据えてみたんです。日常と同じようにグルグル回り続けてはいるけど、劇的な変化は起きない。でも乗っていると楽しいし、そこからは素晴らしい景色や光が見えることもあるっていう感じで。

末光篤(スエミツアツシ)

末光篤

1971年広島県生まれ。名古屋音楽大学卒業後となる2004年、ディズニー関連楽曲のカバー盤「Mosh Pit on Disney」に参加したことが話題となり、翌年、Rhythm REPUBLICレーベルより1stアルバム「Man Here Plays Mean Piano」をリリースする。2006年にはシングル「Sherbet Snow and the Airplane」でメジャーデビュー。2007年にはアニメ「のだめカンタービレ」のオープニングテーマ「Allegro Cantabile Cantabile」と同エンディングテーマ「Sagittarius」をシングルリリースし、またメジャー1stアルバム「The Piano It's Me」も発表する。以降、自身の楽曲をリリースする傍ら、木村カエラ「Butterfly」や、野宮真貴「私の知らない私」、坂本真綾「eternal return」など、数多くのアーティストへの楽曲提供も積極的に行っている。そして2014年11月にはテレビアニメ「繰繰れ!コックリさん」のエンディングテーマ「This Merry-Go Round Song」を含む新作「TVアニメーション『繰繰れ!コックリさん』エンディングテーマ e.p.」をリリースした。

ヒャダイン

ヒャダイン

本名、前山田健一。1980年生まれの音楽クリエイター。3歳でピアノを始め、作詞・作曲・編曲を独学で身につける。京都大学卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。前山田健一として倖田來未×misono「It's all Love!」、東方神起「Share The World」などのヒット曲を手がける一方、ニコニコ動画などの動画投稿サイトに匿名の「ヒャダイン」名義で作品を発表し大きな話題を集めた。2010年5月には自身のブログにてヒャダイン=前山田健一であることを告白。その後もヒット曲を量産し、2011年4月にシングル「ヒャダインのカカカタ☆カタオモイ-C」でヒャダインとしてメジャーデビューを果たし、2012年11月には初のソロアルバム「20112012」をリリース。2014年は郷ひろみの99thシングル「99(ナインティナイン)は終わらない」での作詞・作曲およびサウンドプロデュースや、椎名林檎のセルフカバーアルバム「逆輸入 ~港湾局~」にて「プライベイト」のアレンジを担当をするなど、幅広いアーティストからの支持を獲得する。秋には小野大輔、櫻井孝宏、中田譲治が歌うアニメ「繰繰れ!コックリさん」のオープニングテーマ「Welcome!! DISCO けもけもけ」をプロデュースし、そのシングルが11月にリリースされる。