藤田恵名|紆余曲折の末つかみ取った“シンガーソングラドル”の道

藤田恵名

曲作りを始めたのは「コスパが悪かったから」

──そもそもなぜ自分で作曲をやろうと思ったんですか? 歌手として世に出たいだけなら、曲は作家さんにお任せしてもよかったんじゃないかと思うんですけど。

すごく言い方が悪いですけど……コスパが悪いと思ったんですよ(笑)。人に1から頼むのはお金がかかるなあと思って。

──すごい発想ですね(笑)。

福岡の事務所にいた頃は、有名な方に曲を書いている作家さんから曲をいただいたりしてたんですけど、歌いたい曲ではなかったりして。「でも、希望通りの曲を1からお願いするにはウン十万、ウン百万とかかるんだよ」って話を聞いて「えっ、そんなに!?」って(笑)。今思えば当然なんですけど、当時はそれが理解できなかったんです。それに、クレジットに知らない人の名前が入っているのを見て、ファンの人はどう思うんだろうって。「私の気持ちではない曲が入っているのに興味を持ってもらえるんだろうか」って十代なりに考えたんです。

──不満を抱えたまま歌うぐらいだったら、自分で作ってやろうと。

はい。せめて歌詞は自分で書きたい、学生時代から書き溜めていた言葉もあるし……と思ったんですけど、当時聴いていた音楽はポップすぎて「この歌詞は乗せられないな」って。「みんなどっか行け」みたいな歌詞だったんで(笑)。最初に作ったのは「あなたのことが大好きで」みたいなドキュンソングでした。

──でも作曲の素養ゼロのところからいきなり作り始めるってすごいですね。

まあ、一応ピアノをやっていたので「できるっしょ」みたいな(笑)。Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、サビ、サビ、みたいな感じになればいいんでしょって。最初はカノン進行から離れられなかったですね。知識がなくて。カノン進行の曲と当たり障りのない歌詞ばかりを作ってたんですけど、自分はそれでいいと思ってたんです。「これが大衆音楽で、私が有名になったらオリコンに入るんだ」って。でも6年前ぐらいに、全然違う畑の音楽をやってきたガー子さんに曲を聴かせたら、すごくつまんなそうなんですよ。ガー子さんに薦められるものは自分に響かないし、ズレを感じていたんですけど、身内から固めたいという気持ちがあったので(笑)、「わかりましたよ、あなたの好みもちょっと聞いてあげましょうか」ぐらいの気持ちで曲の感じを変えていったんです。

──あらがってでも華やかなポップスがやりたいとは思わなかったんですか?

なかなか思うような活動ができない時期でもあったので、もうちょっと目標設定を下げたいと言うか(笑)、もうちょい届く場所があるのかなと感じていたんです。屈折してキラキラした曲が気持ち的に歌えなくなっていたので、それこそ「みんなどっか行け」みたいな原点に戻ったほうが、今の自分にはしっくりくるんじゃないかと思ったんです。居心地のいい音楽を目指してたのが、だんだん「もっと戦闘力を上げる曲を」という気持ちに変わっていって、今に至る感じですね。

藤田恵名
藤田恵名

「今一番脱げるシンガーソングライターです」

──藤田さんは地道に音楽活動を続ける一方で、グラビアアイドルとして高く評価されましたよね。それは想定外の出来事ですか?

想定外中の想定外ですよ(笑)。養成所を卒業したあと「事務所に入らなきゃ」と思って手当たり次第に履歴書を送ったら、一番早くレスポンスが来た事務所の項目に「音楽もできます」って書いてあったんです。でも、いざ所属してみたら、「水着になんないとウチでは仕事ないよ」って言われて「話が違う!」みたいな。それまでプライベートでは水着なんて学校でしか着たことなくて、隠して隠して生きてきたので。でも翌月に撮影会の仕事を押さえられ……ていただき(笑)、「これが東京かコノヤロウ、いつか歌にしてやる」と思いながらしぶしぶ始めたんですけど、音楽から入ってくれた昔からのファンの方がわざわざカメラを買って参加してくださったりして。「ああ、なんて愛されているんだろう」って思いました。そうこうしているうちに「ミス東スポ2014」にエントリーされていて、なぜか受かって……グランプリをいただいて「ここに需要があったんだ!」みたいな。言っても課金レースだったので、応援してくれた方のことを考えると簡単に「グラビア辞めます」とは言えなくて。

──そこで注目度が上がったのは確かですよね。

そうですね。グラビアアイドルとしてテレビ番組に出る機会も増えて、したくもない発言をしたりするのが全然平気になってきて。私はそんなグラビアなんていやらしいもの見ちゃいけないみたいな家庭に育ったので、すごく抵抗があったんですよ。「あいのり」ですら「あんなチューして帰国するような番組は観ちゃダメだ!」って家庭だったから(笑)、下ネタに免疫なかったけど、そういう場で1人で引いてたらKYだし……そのぐらいの時期に、自分の役割が見えてきたと言うか、「面白かったらいいか」と思うようになったんです。歌う歌だけブレてなければいいやって。とても矛盾して見えるかもしれないけど、自分の中では明確で、「どう見られてもいいから歌にたどり着いてもらえればいい」って思うようになりました。コンプレックスで隠していた部分をさらけ出したら、すがすがしい気分になって。だったら音楽とグラビアを両方混ぜちゃって、唯一無二を目指してみようと思ったのが“シンガーソングラドル”の始まりなんです。

──評価された部分をいっそ全面に押し出してやろうと。

はい。最初はシンガーソングラドルなんて言葉、全然浸透しなかったですけど、根気強く「今一番脱げるシンガーソングライターです」と言い続けていたら、いろんな人に見つけてもらえるようになりました。

──ほどよい破れかぶれ感と、そこに対する誠実な向き合い方みたいなところが藤田さんの魅力だと思うんですよね。それが広く世間に“見つかった”きっかけが「ミスiD」だったのかなと。

「ミスiD」は事務所から言われたわけでもなかったし、年齢層も幅広いとは言えわりと低めの方たちが多かったので、どうかなと思いつつ、なんか自分の中で引っかかってたんですよね。「ミスiD」には何かがありそうな気がしたんですよ。ここで審査している人たちに届いてほしいという気持ちが、その時期猛烈にあって。結果受けてよかったなと思うし、あのぞわぞわする感じは間違いじゃなかったなと思います。受賞もできたし、「私、持ってるんじゃないか」という自信にもつながったのでよかったです。

藤田恵名
藤田恵名

「強めの心臓」で藤田恵名の名刺ができた

──メジャーレーベルから出る女性シンガーのロックと言うと、もっと音数の多い派手な曲を想像してしまうんですけど、藤田さんの音楽は荒削りな、インディーロックみたいな音ですよね。

あははは(笑)。余計な音を入れないように、と言うのは確かに意識してます。ライブと音源の差をあまり付けたくないんです。前はもっと同期で音を足したりしてたんですけど、削って削って、引き算をする作業をガー子さんにしてもらってます。私は何事においても醤油をかけすぎちゃうタイプなので(笑)。余白が怖いみたいな。それを我慢する、引き算をよしとする音の面白さがだんだんわかってきました。それに私は見え方が見え方だし、あまりまとまってキレイに包装されるのは嫌で。なのでこの音を面白いと思ってもらえたとしたら作戦通りですね。

──曲作りは煮詰まらないタイプですか?

藤田恵名

歌詞の細かいところで四苦八苦することはありますけど、そんなに煮詰まることはないです。ジャッジする人からすればツメが甘いと思うかもしれないけど、私はそこまで考え込まないし、「1日中家にこもって曲作りしなさい」と言われたらできちゃうので。

──曲のテーマ設定やコンセプトはご自身で?

はい。「誰々のこんな曲みたいなのを作ってみない?」とお題をもらうことはありますけど。でも、前よりは「誰々のこんな曲」みたいな感じじゃなく、自分で「こんな感じの曲で、こんな感じの音が出したい」というのが見えてきたような気がします。ライブ映えする曲とか、アルバム全体のバランスを見ながら作ったり。私は苦労してないですけど、ガー子さんたちがしてるのかもしれない(笑)。

──自分で「これは会心の出来だ」と思った曲は?

「強めの心臓」はアルバム全体通して会心の出来ですね。今までは曲ごとにバラつきがあって、「つまみ食いで満腹」みたいな感じがあったんですけど、ちゃんとアルバム全体を通して藤田恵名の名刺ができたと思っているので。ずっと自信なくやってきたけど、このアルバムを作ってからはけっこうドヤってます(笑)。

藤田恵名「強めの心臓」
2017年8月9日発売 / KING RECORDS
藤田恵名「強めの心臓」脱衣盤

脱衣盤 [CD+DVD]
3780円 / KIZC-409~10

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藤田恵名「強めの心臓」着衣盤

着衣盤 [CD]
3240円 / KICS-3511

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CD収録曲
  1. 404 Not Found
  2. 6時のカタルシス
  3. 青の心臓
  4. 噂で嫌いにならないで
  5. 私だけがいない世界
  6. BIKINI RIOT / MCビキニ a.k.a 藤田恵名
  7. ヒロインになれない
  8. ライブドライブ
脱衣盤DVD収録内容
  • 私だけがいない世界(Music Clip)
  • BIKINI RIOT / MCビキニ a.k.a 藤田恵名(Music Clip)
藤田恵名(フジタエナ)
藤田恵名
1990年7月7日生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。並行してグラビアアイドルとしても活動しており、“シンガーソングラドル”“今一番脱げるシンガーソングライター”のキャッチフレーズを持つ。福岡在住時より芸能活動を始め、2010年に上京。地道に音楽活動を続ける中、グラビアアイドルとしても注目を集め、2014年1月には「ミス東スポ2014」グランプリを獲得。2016年には「ミスiD2017」に選出された。同年8月にはミニアルバム「EVIL IDOL SONG」でアーティストとしてメジャーデビュー。ヌード写真を使用したアートワークが大きな話題を呼んだ。2017年8月にはメジャー2作目となるミニアルバム「強めの心臓」をリリース。収録曲「私だけがいない世界」は同月公開のホラー映画「血を吸う粘土」の主題歌に採用され、映画では自身が主演を務めた。毎週木曜深夜放送のフジテレビ関東ローカル「佳代子の部屋~真夜中のゲーム会議~」にレギュラー出演中。