ナタリー PowerPush - FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM

中野裕之×ダイノジ大谷 激論!バカカッコいいONE OK ROCKの魅力とは?

中野裕之と大谷ノブ彦のONE OK ROCK観

──中野監督はONE OK ROCKをどのようなバンドだと思っていますか?

「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」より

中野 “平成生まれのロックスター”かな。昭和のロックスターは、ミック・ジャガー(The Rolling Stones)のような「SEX / DRUG / ROCK'N ROLL」的なイメージだったじゃない? でもONE OK ROCKは、そういう亡霊とはとっくにオサラバしちゃってる。しっかりした人間で、挨拶はちゃんとするし、心配りもできる。

──そうした人間性は、映画でも描かれてますよね。

中野 彼らは相手に対して100%以上のコミュニケーションをとろうとするんだよね。映画にマレーシア公演で前座のバンドが出られなくなっちゃうシーンがあって。

──トラブルで会場の設営が遅れてしまい、前座のマレーシアのバンドの出演時間がなくなってしまったというシーンですね。ONE OK ROCKは何も悪くないのに謝罪に行ってました。

中野 僕、あのシーン撮ってて泣いちゃったんですよ(笑)。誰に対しても誠実な彼らの姿に本当に感動して。

大谷ノブ彦(ダイノジ)

大谷 そういう部分をさらけ出すところも含めて、僕はONE OK ROCKを新しいタイプのロックスターだと思ってるんです。

──どういうことでしょう?

大谷 昔のロックスターって雲の上の存在だったじゃないですか? でもONE OK ROCKは常に1つひとつハードルを乗り越える努力をしていて、その姿を僕らにも見せてくれる。だから身近なロックスターだと思うんです。彼らが武道館でライブをしたとき、TakaがMCで「僕がここに立ってるってことは、君らも立てるんだよ」って言ったのがすごく象徴的で。

中野 ははは(笑)。

大谷 僕は「超青臭いこと言うな、この人」って思ったんだけど、彼らがこれまでいろいろな壁を1つひとつ乗り越えてきたことを知っているから、ネガティブな思いではなく、むしろ「あっ、俺も武道館のステージに立てるんじゃないか?」って気持ちよくなっちゃったんですよ(笑)。Takaの言葉で41歳の僕が14歳になってしまったんです。

中野 その言葉に説得力があるのは彼らがまだ14歳のままだから(笑)。永遠の14歳なんだよ、あいつらは。

「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」より

──でもワールドツアー中には映画で描かれなかった、大人としてのONE OK ROCKの姿もあったんじゃないですか?

中野 いやいや、全然変わらないよ。映画のまんま。365日、ずっとふざけ合ってる。

大谷 ははは(笑)。

中野 部活の先輩後輩みたいな関係性とも違うし、かと言って親友同士みたいなウエット感もない。なんというか、もっと遊び仲間みたいな感じかな。

大谷 でもバンドが一心同体というか、運命共同体って感じもすごい伝わってくるんですよね。

中野 そうそう、そんな感じ。でも「志を一緒にしてる」っていうのも違うじゃない? あくまで重くないんだ。

世界の音楽シーンとシンクロしているONE OK ROCK

中野 僕は日本のロック史はONE OK ROCK以降、ONE OK ROCK以前で全然違うと思ってるんですよ。

大谷 日本には“洋楽コンプレックス”がありますもんね。

中野 そうそう。ONE OK ROCKは最初から世界を見てるから、そもそもそんなコンプレックスがないんだよね。

大谷 僕は今世界のロックシーンで90年代ロックのリバイバルが起きてると思うんだけど、それをポピュラリティを持って日本でやれてるのはONE OK ROCKだけだと思ってます。

「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」より

中野 当たり前のように海外の音とシンクロしてるよね。だから彼らがパリでウケるのも当然。日本人の観客は3人くらいしかいなくて、ほとんどが現地のファンだったからね。チケットもすぐ売り切れちゃったみたいだし。

大谷 日本のヴィジュアル系バンドがヨーロッパで受け入れられたけど、あれってゴツい男ばかりのメタルのライブに行けなかった女の子たちが最初に目をつけたらしいんですよ。音はヘビーだけど、見た目は華奢でかわいらしい、みたいな。そこから向こうでウケてるアニメの主題歌とかを通じてどんどん広まっていったんだけど、ONE OK ROCKはそういうのとも全然違うじゃないですか。

──そうですね。

大谷 彼らは今までの例と全部違うんですよ。僕には、正面突破で世界に通用する日本のロックバンドを目撃できるかもしれないっていうドキドキ感が今あって。もしかしたら失敗するかもしれない。でも彼らの全部出し切るライブを観終わると「あれ? これひょっとして……、あるんちゃうん? そういうのあるんちゃうん!?」みたいな(笑)。ロックの本場から遠く離れた日本という島国でそれっぽいことをやってるから面白がって見られるんじゃなくて、ね。今回の「FOOL COOL ROCK!」を観たら、そんなことをなんの無理もなく感じ取れたんですよね。

クールの前にフールが来るバンド

──その意味で言うと、今回の映画はすごく貴重な瞬間を切り取っているのかもしれませんね。

中野 これはたった半年前の話だからね。僕の中では「新鮮な産地直送でお届けします!」って感じだよ。

──この物語は現在進行形である、と。

中野裕之

中野 うん。だけど、さっき大谷くんも言ってたけど、この映画で見えている事象の下には、同時に彼らが積み重ねてきた膨大なフッテージがあるわけさ。

大谷 僕が14歳になってしまった武道館のコメントだってそうですよね。彼らの戦いの歴史があるからこそ、彼らの生き方があるからこそ、あの説得力があったわけで。でもそれって、僕は武道館という現場で体感したことが大きいと思うんですよ。この映画を観る人も、できれば映画館で観てもらいたい。

──それはなぜですか?

大谷 例えば、漫才をテキストにしても面白いとは思うんです。でも同じ漫才を現場でやったものには勝てないんですよね。もちろんお客さんのいない空間での面白さっていうのもあるんだけど、周りのお客さんと一緒に体感した空気感みたいなものはテキストでは再現できないんですよ。だってお客さんが違えば空気感は変わるし、演じる僕らにしたって同じネタでも同じ漫才にはならないんですよ、不思議と。だから映画館でほかの観客の人と一緒に体感してもらいたいですね。前のおっちゃん、座高高いなあとか言いつつ。

──なるほど。

左から中野裕之、大谷ノブ彦(ダイノジ)。

大谷 じゃあ監督、最後に締めの言葉いただけますか?(笑)

中野 ははは(笑)。今日、取材があるから昨日の夜、僕はこの映画でどのシーンが好きなのか考えてみたんです。好きなシーンは本当にたくさんあるんだけど、一番はヨーロッパツアーのツアーバス内のシーンで。Takaが初めて寝台ベッド付きのバスに乗って、「よいしょ」ってベッドを試すのね。編集する側からすると、Takaがゴロンとしたところで次のカットにするんだよ。でも、そのカットを割る寸前のところで、Ryota(B)が「もりちゃーん」って入ってくるの。その“間”が本当に絶妙でね。まるで演出した劇映画のワンシーンみたいなんだ。

大谷 へえ。

中野 そのシーンにバンドの関係性のよさが表れてるなあと思ったんだよ。

──どういうことですか?

中野 バンドって“間”の悪い人が1人いるとダメだと思うんだ(笑)。でもONE OK ROCKはみんな“間”が素晴らしいんだよ。例えば、ライブが停滞してるなと思ったら、Tomoya(Dr)が引っ張る。普段もそうで、メンバーの空気感が変なときは自ら進んで叩かれに行く(笑)。でもそういう、いい“間”を作り出せる関係性って素敵だと思ってさ。

大谷 なるほどなあ。役割がちゃんとあるんですね。

中野 彼らを観てるのは本当に面白いよ。みんな、ONE OK ROCKはクールなバンドだと思ってるかもしれないけど、むしろフールのほうが先なんだよね(笑)。

「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」より
ONE OK ROCK(ワンオクロック)

ONE OK ROCK

2005年結成。Taka(Vo)、Toru(G)、Ryota(B)、Tomoya(Dr)の4人からなるロックバンド。エモ、ロック、メタルの要素を取り入れた骨太なサウンド、激しく熱いライブパフォーマンスで若い世代を中心に支持を集める。2007年4月に1stシングル「内秘心書」でデビューし、2010年11月に初の東京・日本武道館公演を実施。2012年には台湾、韓国、シンガポールを回る初のアジアツアーも成功に収める。2013年3月に6thアルバム「人生×僕=」をリリースし、同年5月からアリーナツアー「ONE OK ROCK 2013 "人生×君=" TOUR」を開催。さらに10月から12月にかけてはアジア・ヨーロッパツアーを行った。2014年5月には中野裕之が監督を務めたドキュメンタリー映画「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」が公開される。

中野裕之(ナカノヒロユキ)

映画監督 / 映像作家。1987年に日本初のビデオクリップ制作会社であるタイレルコーポレーションを設立し、国内外のアーティストのビデオクリップを制作した。1990年には自身が手がけたDeeelite「Groove is in the heart」のビデオクリップがアメリカのMTV AWARDで6部門ノミネートされ大きな話題に。1993年には“見る人をピースな気持ちにさせる映像を追求”するためピースデリックを立ち上げる。また映画監督としては布袋寅泰主演の「SF サムライ・フィクション」をはじめ、「SF・Stereo Future」「RED SHADOW 赤影」「TAJOMARU」「FLYING BODIES 青森大学男子新体操部」などを製作。2014年5月には最新作「FOOL COOL ROCK! ONE OK ROCK DOCUMENTARY FILM」が公開される。

大谷ノブ彦(オオタニノブヒコ)

1994年に大地洋輔とお笑いコンビ・ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのサブカルチャーに精通。今年3月より、メインパーソナリティを務めている「大谷ノブ彦 キキマス!」がニッポン放送にて放送中。