ナタリー PowerPush - ryo(EGOIST / supercell)

「名前のない怪物」「銀色飛行船」タイアップ2曲をryoが語る

かつてないほど「小さい音」にこだわった

──「銀色飛行船」は、楽曲的にはこれまでのシングル曲と比べてもかなり楽器の数が少ないですよね。これはどういう意図だったんでしょうか?

この曲は「ねらわれた学園」のオープニングから使われるんですけど、そもそも戦闘シーンがあったりするような作品ではなくて、静かに始まって静かに終わっていくようなイメージがあったんです。それに合わせる感じで、なるべく小さく演奏して、なるべく小さく歌うっていう。そういうことを意識して作った結果、こういうスモールな感じになっていったんですよね。

──ボーカルなんかは、声を小さくして歌うというのはすごく難しいですよね。

そうですね。こゑだちゃんってやっぱり歌に関しては天才的なものがあって、録ってみると、どこまでも小さく歌えるみたいな感じなんですよ。普通に喋る音量よりもっと小さい音で歌える。そういう完全に新しいこゑだちゃんを出せたかなと思います。録音は難しかったですけどね(笑)。楽器のほうも含めて、これだけ小さく演奏するっていうのは今までやったことがなかったので、どこまで制御したら結果がよくなるのかっていうのが全く見えなかったですね。最初からイメージしてたのは、広いスタジオで録らないっていうことだったんですけど。それが曲の雰囲気として出せたかなと思います。

──カップリングの「リルモア」も、これまたミニマムな感じですよね。

「銀色飛行船」のピアノと対になるように、アコースティックギターをメインにしました。最初はもっと普通のコードカッティングにしようと思ったんですけど、あんまり合わなくて。それでアコギのアレンジを、6弦だけベースの位置くらいまで下げて、残りの5弦でコードを弾くっていう形にしたんです。ドロップCチューニング。このやり方でやってみたら案外ハマッたんです。

ポップスの統一感は曲順が作る

──こゑださんの歌は、かなり音が動き回る印象がありますね。録音前の仮歌やガイドメロディの段階で、ここまで細かいアレンジが付けてあるんでしょうか?

そうです。音楽的に言うと、語尾を9thと11thで止めるってやり方が、自分の中で最近わりと流行ってるんですよ。それをやるとすごい洋楽っぽくなる。それで、その止め方とか歌い回しとかを、「一瞬だけ11thを出して」とか「チラ見せで」って頼んで。そしたら「わかりました、チラ見せですね」って本当にちょっとだけ見せて、一瞬そのニュアンスを出してくれる。

──さっきの話とも少し関係しますけど、今回はCD全体としてアコースティックなイメージの強い1枚になりましたよね。これまで先行して出していた、例えば「My Dearest」みたいなシングルとの関係はあんまり意識しませんでしたか? 音の厚さとかジャンル性の違いとか。

これがもし洋楽だと、同じジャンルで揃ってないと嫌かもしれないんですけど、邦楽って自分で聴くときはいろんなジャンルの曲が入ってくれてるほうがうれしいんですよね。あくまでもポップスなので、そのポップスの流れの中で違和感ないなと判断したものは入れようと思っています。

──邦楽のポップスであればジャンル的なバラエティ感があってもいいっていうのは非常に面白いですね。じゃあ逆にポップスの場合、アルバム1枚のトータル感を維持するものって何だと思いますか?

まあ、曲順の並び方じゃないですかね? トータル感を出すのは。逆に言うと、それしかないですよね。今質問されるまで考えたことがなかったですけれど(笑)。ただsupercellでもEGOISTでも、アルバムの統一感を出すのに何をしてるのかなあと思ったら、単純に曲を並べていって、それぞれの配置の隙間にまたどんな曲を入れるか考えて作るんですよね。多分それで統一感を出してる感じです。

──なるほど。それは結構意外な答えでした。歌詞の世界観とかも大事なのでしょうけど、音楽としてまずは曲順が重要というのはDJ的な感じもするし、面白いです。

むしろ「この曲を最後のほうに持ってくるか、1曲目に持ってくるか」みたいな部分から世界観を作っていってる可能性もあると思いますね。

EGOIST ニューシングル「名前のない怪物」/ 2012年12月5日発売 / Sony Music Records

CD収録曲
  1. prelude
  2. 名前のない怪物
  3. カナデナル
  4. 名前のない怪物(TV Edit 92s ver.)
  5. 名前のない怪物 -Instrumetal-
  6. カナデナル -Instrumetal-
  7. 名前のない怪物(TV Edit 92s ver.)-Instrumetal-
初回限定盤DVD 収録内容
  • 名前のない怪物 Music Video
  • 「PSYCHO-PASS サイコパス」Ending ノンクレジットムービー <NIGHT ver.>
  • 「PSYCHO-PASS サイコパス」Ending ノンクレジットムービー <DAY ver.>
CD収録曲
  1. 銀色飛行船
  2. リルモア
  3. アニメ映画「ねらわれた学園」特報用BGM
  4. 銀色飛行船 -Instrumental-
  5. リルモア -Instrumental-
初回限定盤A・B Blu-ray/DVD 収録内容
  • 「銀色飛行船」Music Video
  • アニメ映画「ねらわれた学園」特報
  • アニメ映画「ねらわれた学園」CM SPOT -supercell ver.-
EGOIST(えごいすと)

アニメ「ギルティクラウン」に登場する架空のアーティストを実体化した音楽ユニット。ryo(supercell)がプロデュースを手がけ、ボーカルは2000人を超える応募者から選ばれたchellyが務めている。2011年11月、シングル「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」でメジャーデビュー。2012年9月19日に初のオリジナルフルアルバム「Extra terrestrial Biological Entities」をリリースした。12月にはテレビアニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」のエンディング・テーマに起用されたシングル「名前のない怪物」を発売する。

supercell(すーぱーせる)

コンポーザーのryoと複数のイラストレーター、デザイナーによって構成されたユニット。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。その人気はインターネットを通じて爆発的に広がり、2009年3月に待望のメジャーデビューを果たす。1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、翌年の「第24回日本ゴールドディスク大賞」にて「ザ・ベスト5ニュー・アーティスト」を受賞した。続く1stシングル「君の知らない物語」からはゲストボーカルにnagiを迎える。「君の知らない物語」はアニメ「化物語」の主題歌に起用され、こちらも大ヒットした。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリースし、オリコンウィークリーチャートで3位を獲得。その後、新ボーカリストを募集するオーディションを敢行し、2000人を超える応募者の中から福岡県出身のこゑだを選出。2012年12月にアニメ映画「ねらわれた学園」のオープニングテーマとなるシングル「銀色飛行船」をリリース。