ゲスの極み乙女。のインストの強さ

──中村さんが影響を受けたベーシストは誰ですか？

中村　僕はたくさんいるけど、特に挙げればウィル・リーとかアンソニー・ジャクソンとかジャコ・パストリアスとかそのあたり。僕らの時代はジャズやフュージョンがすごく流行ってたから、あのときに人気あった人はすべてヒーローですね。で、僕らフュージョン世代はやっぱり歌ものをやっててもインストの部分が気になるんです。ゲスの極み乙女。はインストの部分をすごい重要視してますよね。

課長　そうかもしれないです。

中村　課長のベースがフィーチャーされるとか、ちゃんMARIのピアノがディスコードしながら展開を作ってたりとか。そういうインストパートを延々16小節とか続けて成立させるバンドが突然出てきたんで、ゲスを初めて聴いたときはすごくビックリした。そういう形は日本の歌ものポップスではありえなかったし、一時期なんてギターソロすらダサいって言われてたのに。

課長　川谷が意識的にそういうものをやろうとしてるところがあると僕は思います。

中村　以前ちゃんMARIと話したとき「フュージョンとかいっぱい聴くんでしょ」って聞いたら「聴いたことない」っていうからそれにもすごくビックリして。あなたたちがやってるのフュージョンだよ！って。

課長　特にそこを狙っているわけではないんですよね。単純に1曲1曲のアレンジをいろいろな角度からこだわって作っているんです。

中村　ゲスが出てきたことで、また音楽が自由になったよね。ヒット曲のフォーマットは時代とともに変わっていくけど、ジャンルの垣根が1つ取り払われたというか。すごくいい時代になったと思う。

ドリカムは総合格闘技

──今、ゲスの極み乙女。のインストパートが面白いという話がありましたが、中村さんは課長さんのように、曲中で延々ベースを弾き倒すといったことはやらないですよね。ベーシストとしての自分をアピールしたいという欲求はないんでしょうか？

中村　ないですね。ベースやってること自体がもう恥ずかしい（笑）。

課長　いやいや、中村さんがベーシストの枠に収まらない人だっていうのは思いますけど。

中村　どっちかといえばアレンジャーって呼ばれるほうがしっくり来ますね。ドリカムの場合は、ベースラインは最初全部打ち込みで作るんです。自分が弾ける範囲で考えると幼稚なベースになるから、自分で打ち込んでからそれをコピーする。でもレコーディングが始まると、アレンジャーの自分がベーシストの自分をクビにするんですよ。ヘタクソ！ こんなのも弾けねえのか！みたいな（笑）。

課長　えっ！（笑） でも確かにドリカムの音源を聴いてると、ものすごくなめらかなベースのフィルがいきなり入ったりしてて、どういう考え方で作ってるんだろうって思ってたんです。打ち込みでやってるのがデカいんですね。

中村　そう、だから生で弾くのはすごく難しい。

課長　できあがった音源はものすごくクールだなって思いますけど。

中村　やってる音楽自体にちょっと圧があるからね。だからベースが前に出る必要はあんまりない。

課長　そこのバランスが絶妙なんですよね。

中村　ほら、うちは総合格闘技だから。ベースがどうこうっていうバンドじゃないからさ（笑）。

課長　総合格闘技（笑）。でもこの前ライブ観させていただいたんですけど、その言葉の通りだなと思いました。中村さんが支配人みたいな感じで。

中村　あはは（笑）。それいいね。

課長　お客さんみんなが特別なパーティに招待されたみたいな感じで、その場を仕切ってる中村さんがすごかったです。無理なく、ちゃんと演出と音楽とが溶け合っていて。しかもその支配人感をキープしたままベースもクールに弾いていて。

中村　ベースだけ弾いてればいいっていう商売だったら最高なんだけどね（笑）。