確信を持って曲作りをしている

水野　「私とドリカム」と同日に発売される「AGAIN」についてはどうですか？

中村　どうなんでしょうね。

水野　なんで急にトーンが下がってるんですか（笑）。

中村　どうなんでしょうね（笑）。いや、絶対聴く人のハートに届くという技術とクオリティでは作っているんだけれども、それはこっちの勝手な考え方なので。あの曲はナレーションが乗りやすくて「NEWS ZERO」（日本テレビ系）のテーマソングとして最良の形になっている。しかも僕らの主張もちゃんと乗っているしね。もちろんすぐにヒットするに越したことはないけど、曲としては評価に時間がかかるかもしれない。それで、どうなんでしょうねっていう言葉が……。

水野　全部含んでいるんですね。

中村　そこは皆さんにお任せしますというか。僕らはベストを尽くしたし、これからもベストを尽くすけど。

水野　いやあ……確かにそうですね。僕らって自分たちなりにその作品についてベストを尽くして自信を持つんだけれども、それが世に問われたときに、どうなるかっていうのはわからないから。

中村　確信もないの？ 自分で作っていて「これはヒット曲だ」って確信はあるでしょ？

水野　あります。本音を言うと、僕作ってるときは100％の確信があります。だけど、なかなか思い通りにはならないから……（笑）。

中村　あはは（笑）。

水野　絶対イケるっていうときに限ってダメだったりするし。でもその確信を持ってないとつらくないですか？

中村　もちろん。基本それがなきゃダメだよね。

水野　僕はサビから曲を作ることが多いんですけど、そのサビに確信を持てないとつらくて仕方ないんですよ。その曲と世界で一番付き合うのは自分だと思うので、長い付き合いをするときに、この曲好きだなって本質の部分で思っていないと、そのあとの作業全部つらくなるから。そこでは100％の確信は持っているんですけど、でもそれは俺が考えていることで、一方でほかの人が考えていることじゃないよなっていう認識は持っていたくて。

中村　それはいらないんじゃない？

水野　でもやっぱり価値はほかの人が決めることだから。僕だけで決めてもそれは意味がないというか。それを「これ絶対いい曲なんだよ。この曲がわからないやつがダメなんだ」っていう言い方もしようと思えばできるわけじゃないですか。でもそれはポピュラーミュージックとしては絶対ダメだと僕は思っていて。

中村　確かにそうだね。

水野　本心でなんで気付いてくれないんだろうって思っていても、それは絶対口に出してはいけないような気がしていて。自信を持っているんだけれども、中村さんが先ほどそこをあえて「どうなんでしょうね」ってさっきおっしゃったことに、ある種の覚悟が伝わってきて。

中村　まあ僕が歌い手じゃないっていうのも関係あるかもね。

水野　ああ、確かに。違う人に歌ってもらっている時点ですでに、自分が思い描く理想の音楽を具現化する力がないんでしょうね。

中村　だからいいんじゃないですか？ 僕らのこだわりみたいなものが吉田や吉岡さんによって聴きやすいものになる。楽曲として届きやすいものになっていると思うんですよ。

水野　なるほど……。実は、吉岡の声が想像以上に社会的に認知されてきていて、それに対して自分の曲がもしかしたら追いついていかなくなっているのかもしれないという焦りもあって……。

中村　それは大丈夫だよ。ただやっぱりね、天才には器が必要だし、器も育っていかないといけないと思うんですよね。それは本当にいろいろな意味で。やっぱり才能あるシンガーを最高に大切にして最高に愛さないと。恋愛とかそういうんじゃなくて、全精力を傾けて愛していかないといけないと思う。

お客さんが笑ってくれるのが一番うれしい

水野　最初の話に戻っちゃうんですけど、「吉田美和を預かっている」っていう言葉が今改めて重みを増してきています。

中村　結局それで俺は食ってるからね。ありがたいですよ。

水野　25年間第一線を走り続ける秘訣みたいなものはありますか？

中村　いや、秘訣なんてものはないですよ。もう毎日必死ですよ。でも僕は何回か勘違いしそうになったときもあったんで、それは絶対いけないと思って。特にリーダーシップを取られる方は何事も感謝を忘れず謙虚にやっていかないと。僕はね、何者でもない。おごってはいけないとは思いますね。いきものの15年も十分長いですけど、長くやるといろんなものが見えて楽しいですよ、本当に。

水野　今日いろいろお話伺っていて、改めて中村さんは恐ろしい方だなと思いました。

中村　何言ってるの（笑）。全然恐ろしくないよ。

水野　これまでのバンド人生の中で消化してきているものがすさまじくあるんだなっていうのが肌で感じられて。その量がすごすぎて自分には想像もできないものもあるんですけど。なんかそれが恐ろしいというか……畏怖する感じですね。

中村　それじゃダメじゃん（笑）。いいおじさんと思われなきゃ。

水野　いや、さっきプリンスの話に出てきたみたいに、最終的には全部エンタテインメントかつポップなものとして出てきていて、そういう存在だと思います。でもそれがまた恐ろしい（笑）。

中村　いやいや（笑）。やっぱり俺たちはお客さんが笑ってくれるのが一番うれしいじゃない。お客さんを観て、その前で吉田が歌ってる姿を観ていまだに「ああ……うれしいな」って思う。なんなんだろう、あのうれしさって。

水野　だから続けられているんですかね。

中村　もうそれだけだね。そのためにまあ多少のことは仕方ない。やっぱりどんな人でも人生平等だから。俺なんか人との出会いだったり、幸運だったりっていうのを最初にずいぶん借りちゃってるから、その分をしっかりお返ししていかないと。

水野　人生相談みたいになってる（笑）。でも本当にそうですね。本当に素敵なお話ありがとうございました。