ナタリー PowerPush - 堂島孝平

芸歴20年目の第一歩

「これが答えだよね」がすぐに見つかった

──「誰のせいでもない」の空気感から一転、「透明になりたい」と「シリーガールはふり向かない」は「A.C.E.」シリーズからの流れも感じさせるニューウェイブなサウンドで。でも音作りは全部石崎さんなんですよね。

堂島孝平

「透明になりたい」は光くんが自宅で全部のトラックを作り上げてきて。光くんが言ってたのは、2010年に音楽をやる上で、1960年代、70年代、80年代、90年代、2000年代……それぞれの時代にあった“スタンダード感”や“名曲感”を出したいし、堂島くんにはそれができるはずだって。今の時代に合わせたやり方じゃなく、そのものズバリをやるというのは光くんのアイデアでしたね。「A.C.E.」「A.C.E.2」ではニューウェイブというものを大きなキーワードとして挙げていたので、光くんはその流れを汲んでくれたんだと思います。

──そのあたりのニュアンスや共通言語を共有しやすい同世代という関係性は、このアルバムを作る上で大きかったんじゃないでしょうか。

そうですね。お互いに「これが答えだよね」というのがすぐに見つかった、制作の早いタイミングで答えが持ててたというのは大きいと思います。

──「シリーガールはふり向かない」はシングルとして聴いた段階でも感じましたけど、「A.C.E.」シリーズを経てさらになんでもアリになった堂島孝平を体現したような曲で。

悪ふざけしてるみたいな歌でもあるんですけどね(笑)。完全に言葉遊びなんだけど、この曲を作ってる段階ですでに“フィクション”をテーマにした捉え方が始まってるんですよね。芝居じみた歌い方だったり、歴史上の悪女からアニメのヒロインまで固有名詞はどんどん出てくるし。それってやっぱり大瀧詠一マナー、ノベルティソングの影響だと思うんですよね。ふざけてるんだけど熱量が高い、みたいな曲が早い段階でできたことが、アルバムを作る上で大きかったと思います。

ソングライターとしての特徴を封印した「トワイエ」

──でも続く「トワイエ」は真逆と言ってもいいほど表現が違っていて。すごく詩的で、しかもこの曲調でこれを歌うというのは新鮮でした。

堂島孝平

これは新しいトライでした。この曲は今までになく、音符が長いんですよ。僕はわりと矢継ぎ早に言葉を歌うということを、最近はとくにやっていて、それはソングライターとしての特徴の1つにもなっていると思うんです。音符が小刻みで、ややもするとメロディがないようにも聞こえるんだけど、メロディックになっているという。そういうジェットコースター的な旋律を最近は好んで作ってたんですけど、「トワイエ」では真逆のことをやってみたんです。言葉の数が圧倒的に少ないので……めちゃめちゃ難しかったです(笑)。

──1小節に2つしかない音に、どう言葉を乗せるのか。

そう。「トワイエ」という歌で最後に「永遠ゆえ」に転換するというアイデアが浮かんで、そういう流れになる歌としての物語をいくつも考えたんですね。でも物語の説明も含めて歌詞に乗せようとすると、サビまでに必要な説明を入れるには圧倒的に音符が少ないんですよ。そこが難しいところでもあり、楽しいポイントでしたね。

──しかもこの言葉数で、けっこうエグいことを言いますよね。「君とは言え 許せないね」とか。しかも最後に「というのは冗談だ」が急角度で入ってくるという(笑)。

それこそまさにフィクションですよね。大どんでん返し(笑)。

堂島孝平のハンコを押す

──そしてアルバムを締めくくる「いとしの第三惑星」ですが、これも「OH!NO!」と同様、変化に戸惑いを覚えたファンには安心できるポップソングだし、リード曲や先行シングルになっていてもおかしくないキャッチーな曲だなと思いました。

うんうん。この曲も「OH!NO!」と同じ頃にはあった曲で……僕自身は最初あまり興味がなかったんですよ。それはたぶん曲がいい悪いじゃなく、頭が新しい方向に向かっている中で体が勝手に書いちゃった曲だからだと思うんですけど(笑)。

堂島孝平

──あー、なるほど。

自分の範疇で形にするんだったらワクワクできなかったかもしれないけど、光くんはすごくいいと言ってくれて。光くんにアレンジをほぼ任せたことで、自分でも名曲感が出たなと思います(笑)。素敵な曲に仕上がってすごくうれしいですね。

──でもこの曲は結果的に、堂島さんの20年を凝縮したような、堂島孝平のエバーグリーン、堂島スタンダードみたいな曲になってるんじゃないかなと僕は感じました。

確かに。いつも僕はその時代その時代で攻めたものを作ってきたつもりだし、そんな曲がシングルだったりアルバムのリード曲になってきたけど、アルバムに必ず1曲は存在していた切なくて疾走感のある曲。「いとしの第三惑星」はそういう曲かもしれないですね。踊りながら泣ける曲というか。

──踊りながら泣ける曲(笑)。まさにそれです。

なるほど。確かにそう言われるとそうかもなあ。このアルバム、最初は「トワイエ」で終わるつもりだったんですよ。「いとしの第三惑星」と「トワイエ」の順番が逆で。「俺は、ゆく」で始まって「トワイエ」で終わる予定だったんですけど、最後の最後に逆転させて「いとしの第三惑星」で終わらせたのは、そういうことかもしれないですね。堂島孝平のハンコを押すっていう(笑)。

ニューアルバム「フィクション」2014年3月26日発売 / IMPERIAL RECORDS
ニューアルバム「フィクション」
初回限定盤 [CD+DVD] 3675円 / TECI-1396
通常盤 [CD] 2940円 / TECI-1397
CD収録曲
  1. 俺は、ゆく
  2. フィクションの主題歌
  3. 嘘だと言ってくれ
  4. OH!NO!
  5. 誰のせいでもない
  6. 透明になりたい
  7. シリーガールはふり向かない
  8. トワイエ
  9. いとしの第三惑星
初回限定盤DVD収録内容
  • 「堂島孝平ノンフィクション 2013.10~12」
堂島孝平(どうじまこうへい)
堂島孝平

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」、2013年1月にはその続編となる「A.C.E.2」をリリース。2004年以降はセルフプロデュースで作品を発表してきたが、2014年3月には石崎光をプロデューサーに招いた通算15枚目のアルバム「フィクション」を完成させた。