ナタリー PowerPush - 堂島孝平

芸歴20年目の第一歩

3年前にモテようとするのを止めた

堂島孝平

──ではここからアルバム楽曲について、1曲ずつ順にじっくりと聞かせてください。まずは今話に挙がった「俺は、ゆく」から。デビュー曲でさまよっていた青年が行き場を見つけたのか!と思ったら、死にゆく男の最後のセリフみたいな内容で(笑)。

「お別れの時が来ました」で1行目から死ぬっていう(笑)。でも大げさに言うと、今回のアルバムは「俺は、ゆく」を聴かせるために作ったようなものですから。聴いてもらえればわかると思うんですけど、普通1曲目に置くような曲じゃないんですよね(笑)。

──しかもリード曲としてPVを作るようなものではない(笑)。

うん(笑)。やっぱ僕らも「アルバムの最後はこの曲だなあ」なんて言ってたんですけど、それじゃ普通だなって。2曲目の「フィクションの主題歌」をオープニングナンバーとして書いたんですけど、最終的に「俺は、ゆく」を頭に持ってきてそこから全部ズレるみたいな状態になりました。

──先にエンドロールから観てしまったみたいな、初手からヤバいものに触れてしまったような感じがあります。

「今回のアルバムはヤバいな」とすぐにわかってもらいたかったし、堂島孝平そのものを問いたい、という気持ちを今一度強く思ったんです。

──今の堂島孝平のキレキレぶりがすごく伝わる楽曲、アルバム構成だと思います。これがリード曲だと聞いたときは正直「えっ?」と思いましたけど(笑)、今日の話を聞けばすごくうなずける。

この曲がたくさんの人に聴かれるものになれば……博打打ち的な話に聞こえるかもしれないですけど、一生テレビの歌番組とかに出られるなって。それぐらい化けたいという気持ちもあるんです。

──繊細で都会的なポップスを量産した“ポップ職人”らしからぬ、ある意味大味な曲だと思うんですよ。10年前なら絶対に作らなかったタイプの曲ですよね。ここ数年の堂島さんを見ていると、音楽に対する向き合い方がより自由になって、いいムードだなあと。

3年ぐらい前から、カッコつけるのを止めたんですよね。よく見せたいみたいな気持ちを1回捨てたら、一気に自分の活動が面白くなったし、呼ばれるイベントも増えたんです。まさか映画で主演する(参照:堂島孝平が映画初主演、演じるのは吉祥寺のカフェ店主)なんて思ってもみなかったけど(笑)。監督さんには「雰囲気が合うと思うんで」なんて言われたんですけど、気持ちの変化はその“雰囲気”ってものに出ちゃうと思うんですよ。振り返ると、3年前にカッコつけるのを止めた、モテようとするのを止めたことが(笑)、大きな転機になってると思いますね。

無意識に爆発した“大瀧詠一マナー”

堂島孝平

──そして本来はオープニングを飾るはずだった「フィクションの主題歌」ですが、これもまた「A.C.E.」の流れとは大きく違う、ミュージカルを連想させるような楽曲で。

これは一番時間がかかりましたけど、面白かったですね。3曲分ぐらいの要素が入っていて。オープニングナンバー的な曲が欲しいなと考えたときに、「頼まれてもいないのにミュージカルをやる」というアイデアが浮かんで(笑)。ディズニーアニメやミュージカル映画みたいな世界観を1曲にしたら面白いなと思ったものの、どういう歌詞を書いたらいいのかわかんなくて。ミュージカル仕立ての曲にするにはいろんな場面が必要ですけど、それには1回頭の中にだけでも脚本を作らないとないといけないので。

──結果的にフィクションそのものへの愛情を歌った、言うなれば“フィクション讃歌”になったと。

そう。自分はどれだけフィクションにお世話になったか、人間はどれだけフィクションで夢を見てきたかという“フィクション愛”をミュージカル仕立てで歌うという。ある意味バカバカしい構造なんだけど……これはある人に言われてハッしたんですが、大瀧詠一マナーみたいなものを自分は無意識に、すごく大事にしてきたんだなって気付かされました。ノベルティソングで切れ味を増すというやり方、日本語で遊ぶことがいかにモダンかということを僕は大瀧さんから教わったし、その精神が爆発したのがこの曲なんじゃないかなって。

──そして間髪入れずに始まる「嘘だと言ってくれ」は、チェロとピアノで刻むリズムがブリティッシュでスモーキーな、石崎さんとのタッグならではの楽曲ですね。

これは光くんが先に曲を書いてきて「堂島くん、案外こういう曲やってないんじゃない?」って。

──確かに今までの“堂島孝平のポップス”にはない文脈を感じます。

今回のアルバムではアレンジも2人で一緒に進めたんですけど、1曲の全体のムードというか、何色を付けるかみたいなところは光くんにかなりお任せしました。そうしないと新しい堂島孝平像は出品できないんじゃないかなという気がして。色付けの作業は光くんに任せて、自分はどう歌うか、何を歌うかのほうに集中しようと。この曲は特にその住み分けが強く出ているかもしれないですね。

堂島孝平

──では歌詞はどのように考えたんですか?

「フィクション」というアルバムタイトルが浮かんだときに、曲のタイトルも何がホントで何がウソかわからない、タイトル遊びのようなものにしようかなと思ったんです。「フィクションの主題歌」はフィクション讃歌なんだけど最後は「それこそが事実」と歌っていて、その次に来る曲名が「嘘だと言ってくれ」(笑)。そういう入口で歌詞を書き始めたんですよね。

──それで次が「OH!NO!」ですからね(笑)。

「OH!NO!」ってタイトルも今どきどうかなと思って、最後まで変えようかどうか悩んだんですけど(笑)、読んでるうちに慣れちゃうってのもあってね。「OH!NO!」にするか「そりゃないぜ」にするかずっと悩んで。今回「OH!NO!」と「フィクションの主題歌」にある「I need I need I need a FICTION」というアホでもわかる英語以外は全部日本語なんです。日本語でどこまでキレキレの表現ができるかっていう。それが大瀧詠一マナーに通じるモダンだという感覚を今一度磨きたかったし、それが2014年の日本の音楽としていろんな人にショックを与えるものになると信じてるんです。

──サウンド面で言うと、頭3曲の変化ぶりに戸惑った人が一旦落ち着けるような、これまでの堂島孝平サウンドにも通じるタイプのポップ感が「OH!NO!」にはあるなと思ったのですが。

そうですね。この曲はアルバム制作を始める前にあった曲で。「A.C.E.2」を作り終えた直後ぐらいに書いたんじゃなかったかな。今までの僕の音楽を愛聴してくれていた人にとってはすごく聴きやすい曲だと思うし、非常に攻めたアルバムの中でいい感じに力を抜いてくれる曲だと思います。

念願叶っての乙葉カムバック

──そして5曲目の「誰のせいでもない」は乙葉さんがボーカルとして参加しています。これは堂島さんたってのオファーだったとか。

堂島孝平

ええ。念願叶っての乙葉カムバック(笑)。

───きっかけはやっぱりSmall Boysに藤井隆さんが参加されたこと(参照:SSWアイドルSmall Boys、2ndアルバムに藤井隆参加)ですか?

そうですね。Small Boysは2枚のアルバムを出した今でも、西寺郷太(NONA REEVES)くんがやりたいことに付き合ってあげてるだけなんですけど(笑)、すごくいろんな方々に評価されるユニットになってきていて。僕らにとってアイドルでありヒーローである藤井さんが、郷太と仲良くなったことをきっかけにフィーチャリングゲストとして参加してくれることになり。藤井さんと乙葉さんはご夫婦ですけど……知っててほしいのは、乙葉さんのデビューシングル「一秒のリフレイン」(2002年10月発売)は僕が書いた曲で、藤井さんがその曲をめっちゃ好きだってこと(笑)。

──音楽を通した連鎖がついにつながるという。

ある日スモボの3人だけで集まっているとき、僕がいかに乙葉が好きかを藤井さんに力説して(笑)、シンガー乙葉の話で盛り上がって。次の日からちょうど「フィクション」のレコーディングだったんですけど、こんなにいい夜はないって朝まで語り合ったんです。そのままフラフラでスタジオに行ったら、光くんが「この曲、男女のデュエットってどうしようか」って話しかけてきて……そうだ!って。その場ですぐ藤井さんに連絡して、結果ありがたいことに乙葉さんに参加していただけることになったんです。

──歌手としても魅力のある方だったので、ファンにとってはうれしい復活劇ですよね。

乙葉さん、いいですよねえ(笑)。本当にいいシンガーだなあと思っていて。いつも笑顔なんだけど、歌声にはどこか影があるんですよね。斉藤由貴さん的な。「一秒のリフレイン」は斉藤由貴さんが歌った「AXIA~かなしいことり~」を意識して作った曲なんですよ。「誰のせいでもない」は童謡みたいな曲なんだけど、ズバッと悲しいことを歌っていて。正しく諦めている感じのラブソングなんです。お互いの道をがんばろう、みたいなことですらない。歳を重ねるほどに湧いてくる人間の心理みたいなものを形にしたくて、その悲しさを表現するのに乙葉さんの声がぴったりだったんですね。

ニューアルバム「フィクション」2014年3月26日発売 / IMPERIAL RECORDS
ニューアルバム「フィクション」
初回限定盤 [CD+DVD] 3675円 / TECI-1396
通常盤 [CD] 2940円 / TECI-1397
CD収録曲
  1. 俺は、ゆく
  2. フィクションの主題歌
  3. 嘘だと言ってくれ
  4. OH!NO!
  5. 誰のせいでもない
  6. 透明になりたい
  7. シリーガールはふり向かない
  8. トワイエ
  9. いとしの第三惑星
初回限定盤DVD収録内容
  • 「堂島孝平ノンフィクション 2013.10~12」
堂島孝平(どうじまこうへい)
堂島孝平

1976年2月22日大阪府生まれ。茨城県取手市で育ち、1995年2月にシングル「俺はどこへ行く」でメジャーデビューを果たす。1997年には7thシングル「葛飾ラプソディー」がアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のテーマソングに起用され全国区で注目を集めた。ソングライター / サウンドプロデューサーとしての評価も高く、KinKi Kids、藤井フミヤ、太田裕美、THE COLLECTORS、アイドリング!!!など数多くのアーティストに楽曲を提供している。2012年3月21日にはImperial Records移籍第1弾オリジナルアルバム「A.C.E.」、2013年1月にはその続編となる「A.C.E.2」をリリース。2004年以降はセルフプロデュースで作品を発表してきたが、2014年3月には石崎光をプロデューサーに招いた通算15枚目のアルバム「フィクション」を完成させた。