音楽ナタリー Power Push - 吉川晃司 meets 「DAVID BOWIE is」 最期まで本物だった僕のヒーロー

ロックスターは「身近な兄ちゃん」じゃダメ

──ボウイは「Cat People」の翌年には「Let's Dance」(1983年リリースのアルバム)という、ポップな曲で大ヒットを飛ばすわけですが、それについてはどう捉えていましたか?

ボウイ好きは「Let's Dance」を肯定的に見ない方々が多いようですが、僕は大好きですね。プロデューサーを務めたナイル・ロジャースとのコラボも、新鮮に感じていました。そもそもシック(ナイル・ロジャースが中心メンバーだったバンド)も好きだったのもあるのかな。当時、日本公演(1983年に開催された「SERIOUS MOONLIGHT TOUR」)も観に行きましたよ。

──いかがでしたか?

なんと言っても印象的だったのは、あのサイボーグ感ですよね。だって、街を歩いてたんじゃ、あんな人には出会わないでしょ(笑)。カッコいいなあと思いました。ロックスターって、やっぱり「身近な兄ちゃん」じゃダメだと思うんですよ。「いったい何を食ってるのかな?」「トイレには行くのかな?」くらいの遠い存在であってほしい。そういう意味で「地球に落ちて来た男」 (1976年公開のボウイの主演映画)なんて、彼の持っている“非日常感”を最大限に引き出していましたよね。また「Ziggy Stardust」みたいに、架空のキャラクターを設定して、それになりきって歌うというような趣向も面白かった。

──じゃあ吉川さんも、アーティストとしてボウイのように……?

「DAVID BOWIE is」を観覧する吉川晃司。

いやいやいや……そこはちょっと違いますよ。そんなことをやろうったって、この柴犬みたいな顔じゃムリでしょう。あ、でも最近、白髪になったから、柴犬のサイボーグくらいには見えるかもしれないけど(笑)。ボウイも「Blue Jean」(1984年リリースのアルバム「TONIGHT」収録曲)のMVでは、隈取みたいな化粧して、歌舞いていましたよね。そういう遊び心、演出が素晴らしい。歌詞中のジギーしかりトム少佐しかりで、音だけじゃなく、いろんな表現方法を駆使して“体現”しているところが好きなんです。自分も常に、できればそういう表現者でありたいと考えています。そこはやっぱり、ボウイの影響を受けている点ですね。

──ところで吉川さんは2016年に「Let's Dance」の頃のボウイを思わせる「Dance To The Future」というシングルをリリースされましたね。

そうですね。ひと回り、ふた回りして、1980年代の音がまたちょっと新鮮に聞こえてくるようになった感があります。それで言うと、最近の若いバンドもAORをやっていたりしますよね。海外からもいろいろと出てきている。

──アメリカのインディシーン界隈で80年代のAORとかフュージョンみたいなものが再評価されて、その流れが世界的にも広がって日本にも来ていますね。

繰り返すんですね、何事も。音楽も然りなんでしょうか。僕らの頃は、上の世代から「60年代、70年代はすごかった」って、さんざんいじめられ続けた(笑)。当時は「80年代なんてつまらん」って言われ続けたけど、そうでもないよねって思ってましたよ。そうしたら90年代、2000年代に入って、今度は「80年代のほうがマシだった」とか言われるわけですよね(笑)。

永遠に残った謎

──実際に、ボウイにお会いになったことがあるんですよね?

93年ぐらいだと思います。音楽雑誌か何かで、対談したんです。そのときは僕も緊張したけど、イギリス人の通訳がもっと緊張していて大変だった(笑)。ボウイの大ファンだったらしいんですよ。対談が始まるまでは、普通にしていたんだけど……。それで、僕の印象としては、ボウイは自分より(背が)大きかったんです。一緒に写真も撮っていただいたんですが、184~185cmくらい、あったんじゃないかと。でも今回の衣装を見ていると、けっこう衣装が小さくて、違和感を持ったんですね。そうしたら、そこでお会いした、実際にボウイと仕事をしたことのある方々の話では、「ボウイは180cmもない。吉川くんより小さいよ」とおっしゃるんです。衣装を着せているマネキンも、間違いなくボウイ自身のサイズだと。驚きましたね。しかも、そのあとに、今度は別の場所で同じような話になったんですが、そこではやっぱり「ボウイは大きかった」と、みんなが言うわけです(笑)。一体どっちが本当なのか……永遠の謎になりました。

──対談で何か覚えている言葉はありますか?

「DAVID BOWIE is」の模様。(Photo by Shintaro Yamanaka [Qsyum!])

強くおっしゃっていたのが、自分は「Let's Dance」で破格の成功を収めたけど、それによって、逆に満たされないものも増えた、ということでした。ちょうど、お互いの最新アルバムのプロモーション時期ということで対談が実現したんだけど、僕の「Shyness Overdrive」(1992年リリース)っていうアルバムも聴いてくれて、「なかなかよくやってるね」という感じでね。まあ社交辞令だろうと思うけど、褒めていただいたんですよ。そのうえで、売れることによって失くすものも多い、ということや、自分を見失わないことの重要さについて、切々と語ってくれましたね。それはとても印象に残っています。

──吉川さんは2007年に「Ashes to Ashes」(1980年リリースのアルバム「SCARY MONSTERS」の収録曲)のカバーをやられていますよね。

ボウイのカバーというと、「Starman」とか「Ziggy Stardust」とか、そういうところをみんな、けっこう選んでいるんですよね。だから、それ以外の名曲をやってみたいという思いがありました。それで選んだのが、大好きな曲でもある「Ashes to Ashes」です。

──ボウイの代表曲の1つですね。かなり難易度が高い曲だったのではないですか?

そうですね。ただ僕は、ああいった転調曲には慣れているので、そこにはそれほど難しさを感じませんでした。実際に歌ってみて尚更、見事な曲だと思いましたね。転調、転調を繰り返していく曲って、ともすればマニアックになりがちだけど、この曲はすごくポップに仕上がっている。そこが難しい技であって、最大の魅力だと思います。

「DAVID BOWIE is | デヴィッド・ボウイ大回顧展」

開催期間
2017年1月8日(日)~4月9日(日)
休館日
毎週月曜日(但し4月3日は開館)
開館時間
10:00~20:00
(毎週金曜日は21:00まで。入場はいずれも閉館1時間前まで。3月29日(水)は都合により17:00に閉館)
会場
東京都 寺田倉庫G1 ビル(東京都品川区東品川2丁目6番10号)
料金
一般:2400 円(2200円)
中高生:1200 円(1000円)
カッコ内は前売り価格。小学生以下は無料。
トワイライトチケット:毎日16時以降入場の会場当日券を一般、中高生ともそれぞれ200円引きにて販売
吉川晃司(キッカワコウジ)
吉川晃司

1965年広島県出身。1984年に映画「すかんぴんウォーク」の主役に抜擢。同時に主題歌「モニカ」で歌手デビューも果たし、楽曲のヒットと共に逆三角形の肉体とワイルドなキャラクターで人気を博す。その後もヒット曲を連発し、1988年には布袋寅泰とロックユニットCOMPLEXを結成。1990年に活動停止し、その後ソロとしての活動を再開する。近年は俳優としての活躍も目覚ましく、映画「るろうに剣心」で鵜堂刃衛役、NHK大河ドラマ「八重の桜」で西郷隆盛、TBSドラマ「下町ロケット」の財前道生役などで存在感を見せた。2016年には水球日本代表・ポセイドンジャパンからのオファーを受け、公式応援ソング「Over The Rainbow」を制作。同曲は2020年に行われる東京オリンピックへ向けても引き続き使用される。2017年7月より全国ツアー「KIKKAWA KOJI LIVE 2017 "Live is Life"」を開催する。