音楽ナタリー Power Push - 「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」水島精二×川本真琴×ZAQ

奇才&新鋭、2人の女性SSWと語る“超人”と“正義”と“正義の味方”

語りすぎている「カタラレズトモ」

──今、川本さんはアニメの文脈はひとまず置いておいてご自身なりの表現を目指したとおっしゃっていて。対するZAQさんの「カタラレズトモ」って、ここまで監督にご説明いただいたアニメの世界とリンクしてますよね。

ZAQ なんなら雄弁に語りすぎているような……。「カタラレズトモ」ってタイトルなのに(笑)。最初に言った通り自分なりの解釈ではあるんですけど、物語になぞらえて、正義っていうことに対しての二面性を書いていこうとは思ってました。主人公の(人吉)爾朗の立場から見ても、対立する立場から見ても意味が通るような歌詞にするというテーマがあって。

水島 今までZAQさんが手がけてきたアニメの主題歌の中でもたぶん一番アニメの内容に突っ込んだ詞になってますよね。しかも作品の中で言葉では描かれていない部分まで表現してくれてるから、そこもすごく面白くできてるなあって。むしろこんなに寄ってもらっちゃってホント申し訳ないなっていう。

ZAQ 実は最初は「“ド”ヒーローのテーマソング」みたいな感じ、“ド”正義を目指す爾朗のための曲を書いてみたんですけど、途中で「実はこのアニメって“ド”正義を描いているわけではないんじゃないか?」っていうところに行き着いたんです。「で、この爾朗って何者なんだよ!」って考え込んでしまったというか。それで監督にヒントをいただいたんですよね。

水島 「この作品は個々のキャラクターの立ち位置によって正義の価値観が違うっていうお話なんです」っていう話をさせてもらったんですよね。主人公の爾朗は正義を成す超人に憧れていて「僕は正義を守る」「正義の味方になりたい」っていう感じなんだけど、実は「正義」と「正義の味方」って別なんですよ。それは「カタラレズトモ」の歌詞の中にある「正義は味方じゃない。僕の絶対は僕だけだから」っていうフレーズがまさに端的に表してますよね。

川本 へっ!? ……ごめんなさい、今の話わかんなかった(笑)。正義っていうのは正しいかもしれないし、正しくないかもしれないっていうこと?

水島 そういうことですね。人それぞれ、何を正義だと考えるかは違うはずだから、立場によってはある人の正義が正しいことに見えないこともあり得るだろうって。価値観は1つだとは限らないというか。国が正しいと思って行ってることが、民衆から見ると必ずしも正しくは見えないっていうのが一番わかりやすい例えかもしれないですね。

ZAQ ホントそうですね。私も歌詞を書きながら「ああ、今の日本の社会にも通じるな」と思ってました。

川本 なるほど。だから自分は“自分の正義”の“味方”をするしかないのか。

ZAQ そうですそうです。

水島 アニメの制作側にも、1つの絶対的な何かを指して “正義”とか“革命”とか“超人”って言いたくないっていうのがあって。紋切り型のヒーローを描きたくなかったんです。実は川本さんに歌っていただいた「あの素晴らしい愛をもう一度」なんかもそういう意味合いで使わせてもらってるんですよ。2話以降でもゲストアーティストさんにいろんな曲をカバーしてもらってるんですけど、その楽曲のラインナップっていうのがザ・フォーク・クルセダーズの「青年は荒野をめざす」だったりしますから。

──どちらも昭和40年代のフォークソングですよね。

水島 どっちも学生運動であるとか、若者が政治的な何かにコミットしていた時代の曲なんですよね。ヒットした曲だけど、どこか影が感じられるところにグッと来るんです。でもアニメを観ている若い人たちにはそんな時代背景を感じてもらいたいわけでは全然ないから。川本さんに無垢な感じで歌っていただいたのがすごくよかったんです。

──「楽曲の持つ文脈から離れてください」っていうディレクションをなさったわけでは……。

水島 ないです。

川本 だからなんにも知らずにレコーディングしてしまった(笑)。せっかくだからレコーディングにいらっしゃればよかったのに。

水島 いやいやいや! レコーディングにお邪魔しても「すげえ、今俺、川本さんが歌ってるのを見ている! 聴いている!」ってなっちゃうだけですから(笑)。だから歌い方についてまったくお話していないのに、最後ちょこっとダレるようなニュアンスで歌っていたり、声でフックをたくさん作ってるから「スゲーなあ」「さすが面白い捉え方をするなあ」って聴かせていただきました。

ZAQという名の「コンクリート・レボルティオ」

──ZAQさんの「カタラレズトモ」の印象は?

水島 今回のZAQさんみたいにアニメの内容に対してしっかり切り込んで楽曲を作っていただくと、ちょっと申し訳ない気持ちになるんですよ。

──申し訳ない?

水島 ZAQさんの曲でもあるわけだから、これがZAQの曲としてではなく、「コンクリート・レボルティオ」の曲としてだけ聴かれたら、それはもったいないなあ、って。

ZAQ いや、私はアニメ=自分自身だと思い込んで曲を書いてるので大丈夫です! いつもそうなんですけど、アニメの曲はその作品に乗り移ったつもりで書いてますから。

──もはや、ZAQというより「コンクリート・レボルティオ」という名前の人になっている、と。

ZAQ

ZAQ そういう感じです(笑)。アニメの曲なんだけど実は自分の歌である、っていう感じにしたいんです。シンガーソングライターと名乗る以上、たとえタイアップものであっても、自分も心からそう思える言葉と音じゃないと音楽を作る意味がないし、作った音楽の説得力にも欠けてしまうと思いますから。ただ、それだけにアニメの物語の解釈を間違えると、自分の存在そのものがアウトになるんですよ(笑)。

──アニメ=自己である以上、アニメの解釈を間違える=自己否定になってしまう、と。

ZAQ そうですそうです。「すみません! 私、間違ってました!」って(笑)。でもおかげさまで今まで8曲ぐらいアニソンを書いてるんですけど、どんどん物語への乗り移り方が洗練されてきている感じはしてますね。

「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」

テレビアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」10月より放送開始

“神化”という架空の元号をもつ“もうひとつの日本”を舞台にしたSFアニメ。

戦後20余年、高度経済成長まっただ中の“神化・日本”は宇宙人、妖怪、ファンタジー世界の生命体、サイボーグなど、さまざまな“超人”と呼ばれる存在がときに日常を謳歌し、またときには素性を隠しながら敵対勢力との暗闘を繰り返す世界。その“超人”世界の秩序安寧のために組織された厚生省の外郭団体・超過人口審議研究所、通称“超人課”に所属する人吉爾朗(ひとよしじろう)の活躍を、「鋼の錬金術師」シリーズなどで知られる監督・水島精二、脚本・會川昇のタッグが描く。

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ZAQニューシングル「カタラレズトモ」 / 2015年10月21日発売 / Lantis
アーティスト盤 [CD+DVD] / 1944円 / LACM-14396
アニメ盤 [CD] / 1404円 / LACM-14397
川本真琴withゴロニャンず「ミュージック・ピンク」 / [アナログ] 2014年12月15日発売 / 1080円 / RHNS-702 / 雷音レコード / なりすレコード
川本真琴withゴロニャンず「ミュージック・ピンク」
水島精二(ミズシマセイジ)

1966年、東京都生まれのアニメーション監督。1998年の監督デビュー以来「シャーマンキング」、「鋼の錬金術師」シリーズ、「大江戸ロケット」、「機動戦士ガンダム00」シリーズなど、人気作・話題作を数多く手がける。そして2015年10月、「鋼の錬金術師」シリーズでもタッグを組んだ脚本家・會川昇とともに制作したオリジナルアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」がオンエアされる。またアニメ音楽誌「リスアニ!」で連載を持ち、アニメソング系DJとしてクラブイベントに出演するなど、音楽マニアとしての横顔も。

ZAQ(ザック)

ZAQ

3歳の頃からピアノを始め、音楽大学のピアノ科を卒業。音大在学中にテレビから流れてきたアニソンがきっかけでアニソンシンガーを目指す。2011年に行われた動画サイトのコンテストではファイナリストに選ばれた。そして2012年にテレビアニメ「未来日記」のキャラクターソングの作詞、作曲、編曲を行いクリエイターとしてデビュー。同年10月、テレビアニメ「中二病でも恋がしたい!」のオープニング主題歌「Sparkling Daydream」でアーティストデビューを果たす。2014年には1stアルバム「NOISY Lab.」を発売。そして2015年10月にテレビアニメ「コンクリート・レボルティオ~超人幻想~」のオープニングテーマを収録したシングル「カタラレズトモ」をリリースする。

川本真琴(カワモトマコト)

川本真琴

1974年生まれ、福井県出身。1996年に岡村靖幸プロデュースのシングル「愛の才能」でソニーレコードよりメジャーデビュー。テレビアニメ「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」のオープニングテーマ「1/2」が収録された1997年リリースの1stアルバム「川本真琴」はミリオンセラーを記録した。その後2002年にプライベートオフィスを設立。近年はmabanua、神聖かまってちゃんらとのコラボレーション作品を発表したり、ぱいぱいでか美、峯岸みなみ(AKB48)といったアーティストに楽曲提供をしたりと活動の幅を広げている。また2014年には三沢洋紀(岡林ロックンロール・センター、真夜中ミュージック、ラブクライほか)、植野隆司(テニスコーツ)、池上加奈恵(はこモーフ、真っ黒毛ボックス)、澤部渡(スカート)らとともにバンド・川本真琴withゴロニャンずを結成し、アナログ7inch盤「ミュージック・ピンク」を発売した。


2015年10月2日更新