音楽ナタリー Power Push - 飯田瑞規(cinema staff)×渡井翔汰(Halo at 四畳半)×竹縄航太(HOWL BE QUIET)×福島由也(Ivy to Fraudulent Game)

“完成のあとの解体”バンドの新たな挑戦「シネマのキネマ」座談会

cinema staffが11月30日に東京・東京キネマ倶楽部で、自主企画イベント「シネマのキネマ」を開催する。

出演バンドはcinema staffのほか、Halo at 四畳半、HOWL BE QUIET、Ivy to Fraudulent Gameの計4組。今回音楽ナタリーではcinema staffの飯田瑞規(Vo, G)、Halo at 四畳半の渡井翔汰(Vo, G)、HOWL BE QUIETの竹縄航太(Vo, G, Piano)、Ivy to Fraudulent Gameの福島由也(Dr)の座談会を企画。現メンバーで活動を始めて10年の時を重ねたcinema staffが新進気鋭のバンドと競演する企画「シネマのキネマ」を立ち上げた経緯を聞いたほか、それぞれのバンドの音楽性とライブに対するスタンス、イベントに向けた意気込みなどを語り合ってもらった。

また特集後半にはcinema staffの4人へのストレートインタビューを掲載。こちらでは彼らが11月30日にリリースする新作音源「Vektor E.P.」について話を聞いている。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 後藤倫人

飯田瑞規(cinema staff)×渡井翔汰(Halo at 四畳半)×竹縄航太(HOWL BE QUIET)×福島由也(Ivy to Fraudulent Game)座談会

cinema staffがこれまでやってこなかったこと

──今日は座談会のために、イベント「シネマのキネマ」が開催される東京キネマ倶楽部に来ていただきました。皆さん、ここには初めて来たそうですね。

飯田瑞規(cinema staff) はい。友人のバンドがライブをしたことがあるみたいなんですけど、僕らはここでライブをやった経験がなくて。ライブを観に来たこともなかったです。

竹縄航太(HOWL BE QUIET) めちゃくちゃオシャレな会場ですね。もともとはキャバレーだったと聞いたことがあります。

──そうなんですよ。皆さん4人は交流があるんですか?

飯田瑞規(cinema staff)

飯田 実はcinema staffと皆さんはこれまでそんなに交流する機会がなくて。

渡井翔汰(Halo at 四畳半) 僕らとIvy to Fraudulent Gameは何度か対バンしてるんですけどね。

福島由也(Ivy to Fraudulent Game) そうですね。

渡井 あと、HOWL BE QUIETとも対バンさせてもらったことあって。

竹縄 うん。

渡井 cinema staffさんとは、イベントで何回かご一緒させてもらったくらいです。

──この4バンドでイベントを開催することになったのは、どうしてなんですか?

飯田 まず「シネマのキネマ」を立ち上げた経緯から話していいですか? cinema staffは先輩のバンド、自分たちが憧れていたバンドと対バンさせてもらうことが多かったんですけど、ここ数年は04 Limited Sazabys、My Hair is Bad、夜の本気ダンスみたいな若いバンドと一緒にライブがやることが増えてきて。若い世代の熱量や彼らとの競演で得られる感触がすごく刺激的なんですよね。ワンマンとは違う難しさもあるんだけど、メンバーもそれが面白いと感じていて。それとバンドが結成10年を迎えて、下の世代のバンドが僕らのことをリスペクトしてくれてたり、「cinema staffが好きで聴いていました」と公言してくれるバンドも増えているんですよ。そういう反応もあったうえで、僕らもこれまでやってこなかったことに挑戦したい気持ちがあったし、年下のバンドと一緒にイベントをやってみようと思ったのがきっかけですね。

紐解いていくと共通する部分がある

──年下のバンドの中でもHOWL BE QUIET、Halo at 四畳半、Ivy to Fraudulent Gameの3組に声をかけたのはなぜですか?

飯田 まずHaloは、知り合う前から音源を送ってくれてたんですよ。資料もバッチリ付けて。

渡井 そうなんです(笑)。

左から飯田瑞規(cinema staff)、渡井翔汰(Halo at 四畳半)。

飯田 Haloの中にcinema staffのことをすごく好きなメンバーがいるみたいで。音楽性や曲の感じは違うんだけど、個人的には「歌のエモさが自分たちと似てるな」と思ってますね。Ivyはポストロック、マスロックの影響を感じるところもあって、今の若いお客さんが盛り上がっているバンドとはいい意味で違う感じがして。Ivyのようなバンドが盛り上がってくれると、自分たちもうれしいし、心強いんですよね。HOWL BE QUIETはレーベルが同じというだけじゃなくて、アーティスト担当のスタッフも一緒なんですよ。表現の手法は僕らと全然違うんだけど、歌詞に物語性があったり、ロックバンドの枠に収まらない独自なものを持ってるのがHOWLだと思います。なのでこの4バンドでイベントをやったら、きっと面白くなるだろうなと思って。

──キャリアや音楽性は違っていても、それぞれにシンパシーを感じている部分があると。

飯田 そうですね。紐解いていくと共通する部分があるんだけど、それぞれに違った個性があって。

──竹縄さん、渡井さん、福島さんはcinema staffに対してどんな印象を持ってますか?

竹縄 学生の頃から聴かせてもらってますけど、まさにポストロックのシーンの真ん中にいたバンドというか。CDの音源はクールな感じなんだけど、ライブを観るとすごくエモくて、そのギャップがすごくカッコいいなと思ったんですよね。同じレーベルでやらせてもらっていて、さらにこうやって呼んでもらえたっていうのはすごくありがたいです。

福島 さっき言ってもらったように、僕たちもポストロックと言われているところに属すると思っているんですけど、そういう音楽はまさに自分の青春だったんですよね。もちろんcinema staffも聴いていたし、そんな大先輩にイベントに呼んでもらえるのは純粋にうれしいです。

飯田 今、いくつだっけ?

福島 22歳です。

飯田 日本のポストロックのシーンが一番盛り上がっていたのは確か5、6年前だから、ちょうど中高生の頃だよね。

福島 そうですね。まさにその頃にバンドに興味を持ち始めたので。

──Halo at 四畳半のメンバーもcinema staffのファンなんですよね。

渡井 はい。機材車の中でcinema staffのDVDが自動的に再生される仕様になってるくらい、メンバー全員がファンです(笑)。中でも一番好きなのが齋木孝平(G)ですね。cinema staffの音源を持ってきて「聴いて」って言い出したのも齋木だし、以前は飯田さんと同じジャズマスターを使ってたんです。今はストラトキャスターなんですけど、それは辻(友貴 / G)さんへの憧れなんですよ。

──皆さんcinema staffへのリスペクトはありつつ、ライブになれば「負けない」という気持ちがあるわけですよね。

渡井翔汰(Halo at 四畳半)

渡井 そういうパンク精神みたいなものはありますね、確かに。

飯田 僕らもそうですね。先輩に誘ってもらってライブをやっていた時期も、憧れを抱きながらも「一番いいライブをやる」という気持ちはありましたから。それが当たり前だと思います。イベントのときは気負わず、いつも通りのライブをやってほしいです。cinema staffもいい意味で普段通りのライブをやると思うので。

──イベントやフェスなどで存在感や個性を示すことがバンドシーンを勝ち抜く条件ですからね。

渡井 ウチの場合はフェスやイベントで貪欲に勝ち上がるというより、「自分たちらしさをいかに伝えるか」ということを意識してますね。やっと自分たちの音楽性というものが固まってきた時期でもあるので。

竹縄 まずはいい音楽を作ることが先決だと僕らは思っているんです。それを届ける手段としてライブやミュージックビデオ、ラジオなどがあるという考え方なんですよね。メンバー4人でできることは、音楽を作ることだけですから。それがあった上で、ライブはお客さんと一緒の空間を共有できる場として大事にしてます。

福島 自分たちも「いい音楽をやっていれば、自然とお客さんがついて来てくれる」と思っています。それは無責任ということではなくて、本気でそう思ってるんですよ。純粋にいい音楽をやりたいことが、僕らの目的でもあるので。特に話し合ったことはないですけど、この考え方はメンバー全員同じだと思っています。

10年経つといろいろ変わる

──cinema staffは現在のメンバーになってから今年で10年になりますが、時期によってライブや音楽活動に向けてのモチベーションが変化することはありましたか?

飯田 僕らの感覚がほかのバンドと同じかどうかはわからないですが、今感じているのは「メンバー同士でしっかり話をしないといけない」ということなんですよね。いい音楽を作りたいと思って、必死にライブをやってきて10年経ちましたけど、キャリアを重ねるうちに「あ、そんなふうに思ってたんだ」ということも多くなってくるんじゃないかなって。去年「eve」というアルバムを作ったときにメンバー4人で飲みに行ったんですけど、メンバーだけで話すのは5年ぶりくらいだったんです。そのときに4人で腹を割って話したら、けっこう厳しいことだったり、今までメンバー同士で触れてこなかった話題も出てきて。こういう機会を経て、本当に4人がなんでも話し合える仲になれたんですよ。そのときに思ったんですよね。「しっかり話さないとわからないことがあるんだな」って。

──メンバー同士の関係も時期によって微妙に変わるかもしれないし。

飯田瑞規(cinema staff)

飯田 そうですね。20代前半のときは話さなかったんじゃなくて、話すことが特になかったのかもしれないです(笑)。アルバムを何枚も出していく中で、音楽の好みとかも変わってくるかもしれないし……。10年も経つといろいろ変わってきますよ。昔はまさか辻がお店の店長になるとか考えてもなかったから(辻はcore of bellsの曾田洋平と共同でレコード店&飲食店「LFR」を経営している)。

──確かにそうですね(笑)。竹縄さん、渡井さん、福島さんは、メンバー同士の関係性についてどんなふうに考えてますか?

渡井 ウチはメンバーの好きな音楽性が似通っているから、そこで悩んだりすることはないですね。「自分たちの個性って何だろう?」という話はするけど、やりたい音楽が食い違ったことはないし、同じ方向を向いていると思うので。これをほかのバンドに話すと驚かれるんですけど、僕以外のメンバーは洋楽を1mmも通ってないんですよ。

竹縄 えー!?

渡井 僕は20歳くらいのときにSigur RósやOasisを聴き始めたんですけどね。「カッコいいバンドだな」って通学の途中とかに聴いていて。

──ほかのメンバーは日本のバンドを聴いてきた、と。

左から飯田瑞規(cinema staff)、渡井翔汰(Halo at 四畳半)、竹縄航太(HOWL BE QUIET)、福島由也(Ivy to Fraudulent Game)。

渡井 そうですね。みんなBUMP OF CHICKENや、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとかから始まって、日本のバンド中心の音楽遍歴だと思います。

飯田 People In The Boxは好き?

渡井 僕が見つけて、ベースの白井(將人)に聴かせたりしましたね。

飯田 たぶん好きだろうなと思ったんだよね。

──ホントに日本のバンドの影響が大きいんですね。

渡井 そうですね。僕が歌詞を書くのが好きっていうのも関係していると思うんですよ。文章を書くわけだから、英語だとわからないじゃないですか。だから日本語の曲に反応するんだと思います。歌詞のストックもあって、それをもとに曲を作ることもあるし。最近はギターも好きになってきましたけどね(笑)。

cinema staff自主企画「シネマのキネマ」
2016年11月30日(水)東京都 東京キネマ倶楽部
<出演者> cinema staff / Halo at 四畳半 / HOWL BE QUIET / Ivy to Fraudulent Game
cinema staff(シネマスタッフ)
cinema staff

飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にメジャーデビュー作となるポニーキャニオン移籍第1弾作品「into the green」を、2013年5月にメジャー1stフルアルバム「望郷」を発表した。同年8月、テレビアニメ「進撃の巨人」の後期エンディングテーマに提供した「great escape」がスマッシュヒットを記録。同曲を含むニューアルバム「Drums,Bass,2(to)Guitars」を2014年4月にリリースした。2016年5月にはプロデューサーに江口亮(la la larks)を迎えて制作された5thアルバム「eve」を発表。同年11月には新作音源「Vektor E.P.」をリリースする。

Halo at 四畳半(ハロアットヨジョウハン)

渡井翔汰(Vo, G)、齋木孝平(G, Cho)、白井將人(B)、片山僚(Dr, Cho)からなる4人組のロックバンド。2012年に現在の体制で活動をスタートさせ、同年10月に1stデモシングル「アメイジア」を発表した。2015年7月にはバンドにとって初の全国流通盤となるミニアルバム「APOGEE」をリリース。2016年11月には新作音源「万有信号の法則-EP」を発表する。

HOWL BE QUIET(ハウルビークワイエット)

竹縄航太(Vo, G, Piano)、黒木健志(G)、橋本佳紀(B)、岩野亨(Dr)の4人からなるピアノロックバンド。2010年の結成から渋谷や下北沢を中心に活動を続け、2013年12月に発表した1stアルバム「DECEMBER」が、タワーレコードのスタッフが選ぶ「タワレコメン」に選出された。2016年3月にシングル「MONSTER WORLD」をリリースし、ポニーキャニオンよりメジャーデビューを果たした。同年12月にはアニメ「DAYS」のオープニング主題歌である「Higher Climber」を含むニューシングル「サネカズラ」を発表する。

Ivy to Fraudulent Game(アイヴィトゥーフロウジュレントゲーム)

寺口宣明(G, Vo)、大島知起(G)、カワイリョウタロウ(B)、福島由也(Dr)の4人からなるロックバンド。2010年に結成し、2013年8月に開催された「閃光ライオット2013」のファイナリストとしてライブ審査に出場した。2015年5月に東京・TSUTAYA O-Crestで開催したワンマンライブをソールドアウトさせた。2016年4月には初の全国流通盤としてミニアルバム「行間にて」をリリースした。